令和7年が間もなく終わろうとしています。まずは、1年間、「編集部より」をご覧いただいた皆さまに厚く御礼を申しあげます。乱文、駄文、長文、大変失礼しました。ありがとうございました。
振り返れば、社会では高市早苗政権の誕生があり、大阪・関西万博が開幕し、大谷翔平選手ら日本人トリオが大活躍したロサンゼルス・ドジャースの2年連続世界一がありました。明るいニュースの一方で、クマ襲撃は地域社会、日常生活に大きな影響を与え、青森東方沖地震など相変わらず自然災害に見舞われ、コメ価格の高騰による備蓄米の放出も。良くも悪くも、「騒がしい1年」でもあったように思います。
今年も防衛省・自衛隊の広報紙として、紙面を作り、このコーナーで「イチ押し記事」を紹介してきました。防衛日報デジタルは多くの一般の方たちも閲覧していただける以上、専門紙的な新聞とは違い、まさに専門性が豊富な自衛隊の活動や装備品、組織などを少しでも分かりやく紹介することに最も腐心してきました。
その最も分かりやすい方法こそ、一般社会に置き換え、その社会にいる人たちの視線を忘れないことかと思います。専門的すぎれば関心を呼ばず、読んでもらえなくなると思ったからです。皆さんにはどう、映ったことでしょうか。
本日はこの1年、毎週4日間にわたって新聞を製作してきた身として、実はそのつど、このコーナーで書いてみようかな、と思ったことを今年最後にしたためてみたいと思います。それは、自衛隊をめぐる「行進曲」のことです。
この12月25日付の紙面で32回を数えた2面の特集企画「記念の日 新たな誓い」では、周年を迎えた駐屯地の記念行事を定期的に紹介してきました。「誕生日」に相当する年に一度の限りなく重要なイベント。その中で必ずといっていいほど行われるのが観閲行進であり、行進に合わせて音楽隊などが演奏するのが行進曲。曲に合わせ、鼓舞されるかのように隊員や車両などが威風堂々と進むさまは圧巻の一言です。
陸上自衛隊には、隊員たちが「陸自の魂の曲」と呼んでやまない「陸軍分列行進曲」があり、海上自衛隊には「守るも 攻むるも 鋼鐵(しろがね)の―」の日本人ならだれもが知っているであろう「軍艦」(「軍艦マーチ」ともいう)、航空自衛隊は公式行進曲「空の精鋭」が力強くも美しい曲調で空自の誇りと使命感を表現しています。
それぞれに特徴があります。個人的にはどれも大好きな曲。毎日のように、動画を見ては口ずさむ自分がいます。これまで、観閲式などを幾度か取材してきました。人を動かし、心を動かすのはメロディーであり、いつも以上に張り切る隊員たちの姿が常にありました。
その中で、陸軍分列行進曲はフランス軍事顧問団の一員として来日し、陸軍教導団で教鞭(べん)をとっていたシャルル・ルルー氏が当時の嘱託で作曲したものでした。
決して旧軍がどうとか、当時のことがどうだ、とかではなく、純粋に一つの音楽として、また、メリハリの良さ、アップテンポ、抑揚の効かせ方…などがとても耳に響き、行進そのものにとても合っている素晴らしい曲だと思い、いつも聴いているのです。今年も各地で実施された記念式典。来場した人たちは、ずっと流れる陸軍分列行進曲を聴きながら、自衛隊の規律性や統一性、真摯(しんし)な姿をより感じていただけたのではないかと思います。
この曲こそ、戦火が厳しくなってきた昭和18年、明治神宮外苑競技場で行われた「出陣学徒壮行会(学徒出陣)」で演奏されたことでも知られています。当時、その場にいて行進する実兄を見送ったという男性を取材したことがありました。弟として戦場に向かう兄の姿と行進曲が重なり、誇らしく見えたことを覚えていると話していました。
行進曲だからこそ、行進する上で気持ちを盛り上げるものでなければなりません。弟は曲を聴きながら、さまざまな思いを胸に秘めて兄の姿を追い、そして兄はこの曲に背中を押されるかのように、力強く歩む。そんな光景が目に浮かぶような気がします。
記念の日は年に一度やってきます。どういう形でその日を迎えるのかはさまざまですが、日頃からお世話になっている地域の方々や関係各機関などに対し、感謝の気持ちを伝え、新たな気持ちで誓うための記念行事は、いまではなくてはならないものとなってきました。
仮に同じジャンルの訓練の報告があったとしても、企画記事として紹介することはありません。年に一度ではないからです。それだけ、駐屯地にとっては最重要イベントの一つだと考えていると思うがための紙面での扱い方と思っていただければ、編集者としての意図が少しでも理解していただけるのではないかと思います。
毎日のように駐屯地から数多くの報告と写真が寄せられます。とくに、報告量、写真枚数ともに充実したものとなっているのが、記念行事です。駐屯地それぞれに歴史があり、地域との関係性もありますが、「より自衛隊らしさ」が一目でわかるものこそ観閲行進。行進曲はその動きを一回りも二回りも大きくし、式典を盛り上げてくれるものです。
来年も可能な限り、記念行事を紹介したいと思います。YouTubeなどには観閲式などとともに行進曲が流れています。一度、お聴きになった上で報告記事を読んでみてください。精鋭たちの姿がより一層、輝いて映ることでしょう。
よいお年をお迎えください。令和8年も引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。