【特集:NEWSを解く】人材確保の最前線 地本の役割に大きな期待|防衛省

セクション画像
昨年12月22日首相官邸で開催された「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議」の様子(首相官邸HPから)


防衛日報 2026年1月9日付


 令和8年、防衛力強化へ向け、領域横断的運用の強化へ舵かじを切った防衛省・自衛隊。

 その土台となる「人的基盤」を担う自衛官は、定員に比べて約2万3000人も足りていないのが現状だ(昨年3月31日現在)。

 政府は一昨年末、関係閣僚会議で自衛官の処遇改善に向けた新たな基本方針を策定した。高市早苗内閣発足後の昨年12月22日には、自衛官の給与体系の基準となる「自衛官俸給表」を当初予定の2028年度の抜本改定を1年前倒しすることを決めるなど、改善に向けたスピードがアップした。

 「NEWSを解く」新春特別版の2回目は、自衛官不足の現状と人材確保の業務を担う地本の役割への期待の大きさに触れるとともに、長年の自衛隊に対する意識を大幅に変えた関係閣僚会議の基本方針を改めて紹介。

 国の守りを担う自衛官に焦点を当てる。  

 

セクション画像
着任後の初訓示で「隊員一人一人の命と、そしてまた隊員の御家族もしっかりと守り抜く」と述べた小泉氏

 

 昨年10月22日、着任行事に臨んだ小泉進次郎防衛大臣は訓示で人的基盤の強化について言及。「防衛力の根源は人であり、自衛隊員。処遇改善や恩給制度の創設にも取り組む」と述べた。

 さらに、その後の初会見でも人材確保を「至上命題」と位置付けるなど、人的基盤を大きな軸として対処していく考えを明らかにし、自衛官こそが防衛力の抜本的強化を支えることを強調した。


セクション画像
自衛官の定員と現員の推移(過去10年間、令和7年版防衛白書から)

 

 自衛官の人員不足は、少子化による若年人口の減少、民間企業との人材獲得競争の激化などが要因とされ、傾向はこの数年続いている。

 令和7年版防衛白書によると、令和7年3月31日現在で定員24万7154人に対し、現員は22万252人。充足率は89.1%(グラフ参照)と、平成11年度以来、25年ぶりに9割を下回った。

 また、令和6年版の白書では、5年度に約2万人を募集したものの、採用したのは約1万人にとどまり、近年で最も厳しい採用環境となったと指摘している。

 政府の推計によると、出生数の減少が続き、18歳人口は2040年(令和22)に現在の8割以下になる見込みで、人口構造の変化が進む中、自衛官の確保は喫緊の課題となっている。

 

セクション画像
石破首相(当時)が座長となった「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係自閣僚会議」の様子。右側は中谷防衛大臣(当時、首相官邸HPから)

 

 石破茂首相(当時)が座長となった「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議」が一昨年12月20日に取りまとめた基本方針は、自衛隊に対する長年の意識感覚を大きく変えた。「『厳しい環境に耐え続けることが当たり前』とされる組織文化では、人材確保はおぼつかない」と明記したことだった。

 そこには、応募者数・採用者数がとくに厳しい入隊間もない若者世代にあたる「士」の採用が喫緊の課題となっていることが大きくかかわっている。

 ワークライフバランスを重視した働き方や自らの達成感、成長感といった精神的充実が得られる職場を選好するこうした世代には、転勤の多さなども加わり、敬遠されるという構図で、基本方針にも盛り込まれた。

 自衛隊の組織文化そのものについて、「良いところは残しつつ、時代の変化に合わせて変えていく必要がある」とし、社会の変化を直視し、若い世代のライフスタイルに合った生活・勤務環境を構築することを求めたのだ。


 もちろん、自衛官は身をもって日本の平和と独立を守り、国の安全を保つという特殊性もあり、さまざまな負担や制約から逃れることができないのは言うまでもない。

 しかし、関係閣僚会議の資料によれば、現代はその意識だけでは敬遠されがち。「個々人のやりがいと働きやすさを大切にし、働きがいを向上させる組織にしていく必要がある。こうした特殊性が適切に評価され、自衛官が誇りと名誉を感じることができる処遇を確立していくことが重要」としているのだ。


セクション画像
昭和32年に建設された北恵庭駐屯地(防衛省資料から)

 働きやすさは、長らく積極的に整備されていなかった自衛隊でも今や、欠かせないものとなっている。

 たとえば、①プライバシーが配慮された生活環境の構築に向け、営舎内居室の個室化 ②艦艇への居住が義務付けられる艦艇乗組員の生活・勤務環境の改善 ③宿舎の老朽化対策 ④若い世代のライフスタイルを踏まえた通信環境で必須のインフラの整備―など。

 

 社会構造の変化もある。自衛官も男女ともに育児や介護などのため、時間や異動に制約がある者が増加することだ。言い換えれば、こうしたところに目を向けていかなければ、自衛隊が将来の就職の選択肢の一つになることが難しい状況となっている。


セクション画像
改築後の北恵庭駐屯地(防衛省資料から)

セクション画像
使いやすく改築した隊舎内の洗面所(防衛省資料から)

 自衛官不足の背景にあるのは、人材獲得への「入り口」(募集)だけにとどまらない。

 任務の特殊性に見合った処遇の必要性はもちろん、多くの自衛官が56歳で退職する現行制度に伴う「出口」(援護)となる再就職への不安の解消を課題として挙げている。

 

 そこには、防衛省・自衛隊がいま、積極的に進める「現役時代は『自衛官であること』、退職後は『自衛官であったこと』の誇りと名誉を得ることができるような、『令和の時代にふさわしい処遇の確立』」の方針がある。定年制度の見直し検討など、環境整備に向けた基盤づくりだ。

 

 これらの方針を具現化し、人材確保の最前線を担うのが、全国に50カ所ある地本(地方協力本部)だ。

 出張所などを含めると約400カ所。志願者の相談対応から願書の受け付け、合格後の入隊準備、予備自衛官の管理、退職予定自衛官の再就職援護まで、人材に関わる幅広い業務を担ってきた。


セクション画像
東京地本は昨年11月10日、JR渋谷駅宮益坂口から徒歩5分の好立地に、渋谷募集案内所「SHIBUYA J LOUNGE」を新オープンさせた

 

 募集では志願者や保護者の不安に向き合い、援護では企業との調整を通じて退職予定自衛官の再就職を支え、災害時には自治体と部隊の連絡調整にもあたる。その現場を支えるのが広報官たちだ。

 自衛官不足には、入隊しても退職後の生涯設計への不安が付いて回っていたことは否めない。入隊を躊躇(ちゅうちょ)してしまう一つの要因ともなりかねないからだ。退職予定の自衛官の生の声を援護活動を通して聞くことは、募集活動にも参考となる。再就職や再就職後の収入に不安を感じさせないようにすることこそ、自衛官の確保につながるからだ。

 自衛隊に関心を持ち、理解してもらうためのさまざまな活動で奮闘し、入隊者増などにつなげる地本。何よりも、自衛官の処遇改善が大きく動き出したことは大きな〝追い風〟となっており、さらなる成果が期待されている。


セクション画像
自衛艦の定員と現員(令和7年版防衛白書から)


「すべての隊員が高い士気と誇りを持って、国防という崇高な任務にあたることができる環境を不断に整備していく必要がある」

 首相官邸ホームページによると、昨年12月22日の第6回関係閣僚会議で高市首相はこう訴えた。自衛隊創隊以来、約70年間で初めてとなる「自衛官俸給表」の前倒し改定は自衛官の処遇改善と確保に向け、新たな一歩となる。