【特集:NEWSを解く】新しい戦い方「クロス・ドメイン」領域横断的な運用がカギ|防衛省

宇宙・サイバー・電磁波・陸海空

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日米など31カ国が参加した宇宙状況把握演習「グローバル・センチネル2025」の様子(空自Xから)


防衛日報 2026年1月8日付


 令和8年。わが国の防衛力は新たなフェーズに入る。

 長期化するウクライナ戦争の戦い方の変化が浮き彫りになる中、従来型の火力、「宇宙・電子(電磁波)・サイバー」の新領域、そして陸海空…。複数の領域をどう連結し、相乗効果を発揮させることができるのか。宇宙作戦体制の拡充や南西地域での電子戦部隊整備、無人アセットの活用が進む中、個別能力を束ねた領域横断的な運用が、どこまで実効性を伴って進むのかが注目される。


 一方で、国内に目を向ければ、こうした防衛力の基盤となるのは自衛官。政府が積極的なかじ取り役となり、過去最大ともいえるかつてない態勢づくりに真正面から取り組む年でもある。特集「NEWSを解く」の新春特別版では今年、大きな転換点を迎え、最重要ポイントとなりうる2つの方針を検証し、令和8年の防衛を考える。 


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「グローバル・センチネル」に参加した日本の自衛官たち(空自Xから) 

 昨年12月18日、防衛省は小泉進次郎防衛大臣を本部長とする「防衛力変革推進本部」を開いた。

「新しい戦い方」。

 出席者は今後、さらなる重要なテーマとなるこの主題に向け、議論を続けた。

 ロシアによるウクライナ侵略はわが国の今後の防衛の在り方に大きな影響を与えた。分析する中で指摘されたのは、大量かつ安価な無人装備の投入に加え、従来型の火力と電子戦、宇宙、サイバー、情報分野を組み合わせて用いる作戦のあり方が、現代戦の一つの特徴としてみられるということだ。

 

 個々の装備の性能だけでなく、通信や測位、情報収集・分析といった作戦の基盤に同時に影響が及び、相手が状況を把握し、判断し、行動する条件そのものを不利にする点が特徴だという。

 

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5周年を迎えた宇宙作戦群(宇宙作戦群HPから)

 防衛力変革推進本部では、こうした変化を海洋国家である日本の条件に照らし、有事が長期化した場合の対応力や、技術革新を迅速に取り込む体制づくりを含め、日本独自の対応の方向性について検討を進めている。

 

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宇宙作戦群などを擁する府中基地を視察する小泉大臣(防衛省Xから)


 こうした分析を踏まえ、防衛省が重点の一つに位置付けるのが宇宙領域だ。

 小泉氏は昨年12月、宇宙作戦群などが所在する航空自衛隊府中基地の視察後の会見で、「宇宙空間の安定的利用の確保は、今や国民生活の基盤を維持する上で不可欠だ」と述べた。

 通信、観測、測位といった社会インフラが宇宙に大きく依存していることを踏まえ、宇宙空間の利用が妨げられた場合、防衛省・自衛隊の任務遂行にとどまらず、経済や社会活動にも影響が及ぶとの認識を示した。

 

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「グローバル・センチネル2025」のポスターには世界中から参加した多くの国々の国旗が(空自Xから)

 防衛省・自衛隊は令和2年度、約20人規模の宇宙作戦隊を新編し、初の宇宙領域専門部隊を発足させた。翌3年度には宇宙作戦群へ格上げし、段階的に体制を拡充してきた。現在は約310人規模となり、地上レーダーなどを用いた宇宙空間の監視を担っている。

 防衛省は、7年度中に約670人規模の宇宙作戦団へ、8年度には約880人規模の宇宙作戦集団へと段階的に体制を拡大する方針を示している。

 こうした宇宙作戦体制の強化に合わせ、8年度を目途に空自を「航空宇宙自衛隊」へ改編する方針も示すなど、自衛隊全体にとっても大きな節目となる背景には、「宇宙防衛」への危機感があるからにほかならない。

 

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多国間宇宙演習「アステリクス2025」の様子(空自Xから)

 宇宙領域を巡っては、国際的な動向も意識されている。小泉氏は会見で、諸外国の宇宙関連部隊について「イギリス軍のXなどによる情報」と前置きした上で、

イギリスの宇宙コマンドが約600人、フランスの宇宙司令部が約500人規模と紹介し、日本の体制も一定の規模に近づくとの認識を示した。 

 

 宇宙領域では、同盟国・同志国との連携も進む。

 空自は7年、フランス航空宇宙軍主催の多国間宇宙演習「アステリクス2025」や、

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「アステリクス2025」の参加者たち(空自Xから)

日米など31カ国が参加した宇宙状況把握演習「グローバル・センチネル2025」、米宇宙軍STARCOM主催の「シュリーバー演習2025」(10カ国参加)に加わった。

 防衛省によると、宇宙領域に関する訓練や意見交換を通じ、情報共有の在り方や将来の状況への対応について議論を深めたという。


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「アステリクス2025」の多国籍な参加者たち


 こうした動きと並行し、防衛省は宇宙空間における防衛能力強化の方向性を整理した「宇宙領域防衛指針」を昨年7月28日に公表している。

 宇宙で得られる情報や優位性を、実際の作戦環境で生かす上で重要な役割を果たすのが、電磁波を巡る電子戦。電磁波を用いて通信やレーダーの機能を低減・妨害、または防護する取り組みだ。

 ネットワークや情報システムそのものを対象とするサイバー領域とは、作用する対象や手段が異なるが、いずれも指揮統制や状況認識にかかわり、相手より優位に判断や行動を行うための条件を整える点で共通している。

 

 

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米宇宙軍主催の「シュリーバー演習2025」には10カ国が参加

 

    陸上自衛隊は令和4年、朝霞駐に電子作戦隊を新編し、電磁波に関する情報収集・分析や対処能力の整備を進めてきた。空自では入間基地の電子作戦群が、航空機を用いた電波情報収集(SIGINT)や教育訓練を担い、自衛隊全体の電子戦能力向上を支えている。

 防衛省はこうした電磁波領域の作戦能力の具体的な展開の場所として、喫緊の課題となっている南西地域で部隊整備を段階的に進めている。

 日本最西端の与那国駐では、令和6年3月に発足した電子戦部隊を基盤に、8年度に対空電子戦部隊を新設し、定員を約230人から260人規模へ拡大する計画が示された。

 また、宮古島駐では7年3月に電子戦部隊が発足し、石垣駐でも8年度に電子戦中隊(仮称)を新編する方針だ。那覇駐や川内駐(鹿児島県)への配備も予定されており、防衛省は南西諸島から九州にかけて、電子戦能力を段階的に配置する体制整備を進めている。

 中谷元前防衛大臣は昨年7月12日の会見で、対空電子戦の意義に触れ、「抑止力の強化に資する」と説明した。


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宇宙作戦群が防府航空祭で広報活動(宇宙作戦群HPから)


 こうした新領域の整備は、運用面での結び付きも強めつつある。

 中核的な取り組みの一つと位置付けられているのが、無人アセットを活用した多層的沿岸防衛体制「SHIELD」だ。昨年12月26日に閣議決定された8年度当初予算案で1001億円を計上した重点ポイントの一つだ。

 無人航空機(UAV)や無人水上艇(USV)、無人水中艇(UUV)を組み合わせ、偵察・監視から輸送、対処までを担う構想で、島嶼しょ部や沿岸部を中心に具体化が進められている。

 背景にあるのは、無人アセットの導入だけでなく、技術革新の進展に伴い、戦闘様相の大きな変化がある。安価で大量のUAVなどを活用し、これらの組み合わせによる非対称的かつ多層的な防衛体制の早急な整備が喫緊の課題となっているからだ。

 南西地域では、電子戦部隊の配備や無人アセットの活用を組み合わせ、陸・海・空と新領域を一体で運用する姿が、徐々に示されつつある。

 

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進化する総合ミサイル防空の一例(空自HPから)

 

 サイバー領域でも動きが続く。昨年5月にはサイバー対処能力強化法などが成立し、基幹インフラの防護や対処能力の強化が法制度面から位置付けられた。12月には同法の施行に向けた有識者会議も開かれ、今後の運用の在り方が議論されている。

 「見えにくい領域」で進む防衛力強化は、装備の拡充にとどまらず、体制や制度、部隊整備、国際連携をどう束ねるかが重要な焦点となっている。防衛省が重視するのは、宇宙・サイバー・電磁波や認知領域と従来の陸海空の能力を相互に連動させ、全体としての実効性を高めることを目指した、領域横断的な運用「クロス・ドメイン」だ。

 令和8年は、こうした構想が個別整備の段階から、運用面での連携を深めていく段階に差し掛かる年となりそうだ。