令和6年(2024年)5月25日(土)の「鶴岡天神祭」、6月8日(土)の「東北絆まつり2024仙台」でブルーインパルスが飛んだ。
東北の人にとって、長い冬を過ごし、迎えた暖かい季節になると、その分楽しめなかった期間を爆発させる楽しみが年に一度のお祭りだ。お祭りの有りようはさまざまで、例えば青森県で有名なねぶた祭りにも、昔ながらの組みねぷたという伝統を守り続けている「弘前ねぷたまつり」のようなねぶたの原型のようなお祭りと、空襲で焼け野原になった青森市を活気付けようと大手企業のスポンサーも入れて現代風に観光も合わせて作られた「青森ねぶた祭」のようなお祭りがあるという。
鶴岡天神祭は江戸時代から続く伝統あるお祭りで、今回ブルーインパルスが飛ぶということで初めて知ることとなった。東北絆まつりは前身の「東北六魂祭」の頃よりブルーインパルスが飛んでおり、開催地は持ち回りで変わっていくが定番のお祭りである。また、震災の復興を祈念して始められたという意味では戦災からの復興のために始められた青森ねぶた祭の延長線上にあるお祭りのようにも思える。東北絆まつりでは東北6県の代表的なお祭りが夏に入る前のこの時期に集結する。そこには何十万人の人が集まる。それぞれのお祭りが夏にあるのに他のお祭りも見たいのかと問えば、見たいけれども時期が重なっていたり近かったりして、準備などもあるし行けないのだという。
ブルーインパルスがこうした東北のさまざまなお祭りで飛ぶことには意味がある。それはブルーインパルス自身も東日本大震災の被災者だからだ。ほとんどの機体は九州新幹線開業記念行事のために展開中で難を逃れたとはいえ自宅と家族は被災し、またホーム松島基地は大きな被害を受け隊員や隊員家族を失った。
鶴岡天神祭では雲が多い空で、雲の上を飛んで雲間からその姿を見せる展示となった。開始予定時刻には上空に来ていたものの、だいぶ遅れてスタートしたのは、その雲間から見せる方法を模索しているようだった。快晴下に比べれば限定的な展示内容となったが、東北の空で諦めずにやりきった姿を見せたことには意味があろう。震災からの復興のためにある東北絆まつりで飛んだことも、復興の翼を掲げたブルーインパルスにとってはホームともいえる展示会場で、その意義は大きい。
青森ねぶた祭と戦後復興の関係に例えるなら、今年令和6年(2024年)は平成23年(2011年)の東日本大震災から13年しか経っておらず、終戦から19年後の昭和39年(1964年)の東京オリンピックにも至っていない。ブルーインパルスが東北のお祭りとその空に必要とされる日々はまだまだ続いていくだろう。
令和6年度鶴岡天神祭
展示飛行の成功を願い、まずは鶴岡天満宮にお詣りだ。かつて第11飛行隊第2代隊長の阿部英彦1空佐(当時)が長野五輪開会式展示飛行の成功を祈り善光寺にお参りした際、100円玉6枚のおさい銭で祈願した。ブルーインパルスが6機で飛ぶからだ。大事な展示飛行で飛ぶ際にはその地域の神社仏閣に100円玉6枚でお詣り/お参りするのはブルーインパルスファンの習わしである(と思っている)。100円玉が6枚そろわない時は500円玉が入っても良い。そういえば阿部隊長は山形県東根市出身であった。
上空には近くの庄内空港の気象データで2500ft(約760m)にSCT(スキャター、全天の3/8〜4/8)の雲が広がっていた。予定の展示高度はもっと低いと考えられるが、開始予定時刻11:00をだいぶ過ぎて11:20頃から始まった展示飛行は雲の上で実施された。
デルタ・ローパス、スワン・ローパス、グランド・クロス・ローパス、ポイント・スター・ローパス、フェニックス・ローパスの5課目を実施した航過飛行だった。ホーム松島基地よりのリモート展示で、増槽を装着したD2形態だった。編隊長は飛行班長の川島良介3空佐が務めた模様。
展示飛行後には地上統制官で現地入りしていた江尻卓2空佐(飛行隊長)がファンサービスに対応した。サポートメンバーとして整備員・松井順仁1空曹と矢野愛絵3空曹、飛行管理員の横澤弘恭3空曹も来場した。そのほか、空幕広報室からは鶴岡市に隣接する山形県三川町出身でTOKYO2020オリンピックでは隊長だった遠渡祐樹2空佐が広報支援で来場した。広報班長に着任しており、これで空幕広報室には前飛行班長の平川通3空佐と2人のブルーインパルス経験者の幹部が配置されたことになり磐石の体制を歓迎したい。
東北絆まつり2024仙台
青葉山公園にはメインステージや出店などが並び、宮城県の国際サーキットであるスポーツランドSUGOからはSUPER FORMULAのレーシングマシンも展示された。
ブルーインパルスは5機での展示飛行となった。ファンサービスでその理由を地上メンバーに聞くと、時間の問題で戻ってくる、とのことであったが言明は避けられた(本稿執筆時点では既に6機に戻っている)。この日は飛行隊長の江尻卓2空佐が展示デビューした。筆者の記憶する限り5機で編隊長がデビューするのは平成17年(2005年)5月14日の静岡ホビーショーの吉田信也3空佐(当時)以来ではなかろうか。1、2、3、4番機の4機編隊と6番機によるソロの5機変則構成ながら落ち着いたライン取りで安定していたのは、さすがはT-4ブルーインパルス初のテストパイロット出身隊長。飛行諸元に正確な飛行でこれを完遂したと考えられる。
11:00頃よりの展示飛行は太陽も高い空にあり、初夏のように暑い中で実施された。5機で東北のイニシャル「T」と紹介されたハンマーヘッド・ローパスやスモークオンのファン・ブレイクなどレア課目と、5機としては定番課目のチェンジ・オーバー・ターンやレベル・サンライズで構成された編隊連携機動飛行が展示された。
ホーム松島基地よりのリモート展示で、増槽なしのクリーン形態だった。
東北絆まつり2024仙台 編隊連携機動飛行・実施課目
デルタ・ローパス
チェンジ・オーバー・ターン
ナイフ・エッジ
レター・エイト
デルタ360°ターン
グランド・クロス・ローパス
リーダーズ・ベネフィット・ローパス
スワン・ローパス
ハンマー・ヘッド・ローパス
360°ターン
ファン・ブレイク
レベル・サンライズ
東北絆まつり2024仙台 編隊連携機動飛行・実施メンバー
1番機 江尻卓2空佐(飛行隊長)、松浦翔矢2空尉
2番機 松永大誠1空尉
3番機 藏元文弥1空尉
4番機 佐藤裕介1空尉
6番機 加藤拓也1空尉、浅香光司1空尉
地上統制官 川島良介3空佐(飛行班長)
ナレーター 横澤弘恭3空曹(飛行管理員)
地上スタッフ 吉田麻由3空尉(整備幹部)
地上スタッフ 髙橋佳那2空曹(整備員)
東北六魂祭と東北絆まつりでのブルーインパルス展示実績
平成25年(2013年)6月1日 福島県福島市 東北六魂祭
平成26年(2014年)5月24日 山形県山形市 東北六魂祭
平成27年(2015年)5月30日 秋田県秋田市 東北六魂祭
令和3年(2021年)5月23日 山形県山形市 東北絆まつり2021山形
令和4年(2022年)5月28日 秋田県秋田市 東北絆まつり2022秋田
令和5年(2023年)6月17日 青森県青森市 東北絆まつり2023青森
令和6年(2024年)6月8日 宮城県仙台市 東北絆まつり2024仙台
読者投稿受賞作品(防衛日報社賞)
応募で防衛日報社賞に輝きましたのは、5兵衛(ごへえ)さんの「七夕とブルーインパルス」です!
5兵衛さんには防衛日報社賞の記念品を贈らせて頂きます。