11月6日に神奈川県相模湾で行われた「令和4年度 国際観艦式」。国際観艦式としての実施は20年ぶり2回目で、アメリカをはじめ、カナダ、オーストラリア、インド、パキスタンなど、総勢12か国から来日した18隻の外国艦艇が参加しました(詳細は 日刊紙「防衛日報」11月15日付記事でもご覧いただけます)。またこの日は、ブルーインパルスも展示飛行を披露。大きな注目を集めました。浜松基地での離着陸を見届けたブルーインパルスファンネット管理人の今村氏による取材コラムをお届けします(編集部より)

2015年以来の観艦式で国際観艦式としては20年ぶり

画像: 海上自衛隊チャンネル「令和4年度国際観艦式」ブルーインパルスは3:13:15頃から。 www.youtube.com

海上自衛隊チャンネル「令和4年度国際観艦式」ブルーインパルスは3:13:15頃から。

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 令和4年度(2022年度)の観艦式は各国艦艇を招待しての国際観艦式となった。国際観艦式としては20年ぶりという。令和元年(2019年)の自衛隊観艦式が台風19号で中止となったため、平成27年度(2015年)以来の観艦式だ。昭和29年(1954年)創設の海上自衛隊は70周年でもある。

画像: 安倍晋三総理大臣の乗艦する観閲艦隊旗艦くらまに沿って飛行し受閲するスワン隊形のブルーインパルス。2015.10.18.(写真・今村義幸)

安倍晋三総理大臣の乗艦する観閲艦隊旗艦くらまに沿って飛行し受閲するスワン隊形のブルーインパルス。2015.10.18.(写真・今村義幸)

 ブルーインパルスも2015年より2回連続で招聘され展示飛行を行った。写真は前回自衛隊観艦式で飛ぶブルーインパルスだ。安倍晋三総理大臣の乗艦した観閲艦隊旗艦くらまを並走する試験艦あすかより撮影した。
 今年はコロナ禍で一般招待(抽選)がなく、乗艦叶わず、YouTube海上自衛隊チャンネルでのライブ配信で鑑賞することとなった。前回の記憶では、木更津発着の試験艦あすかに乗艦したが、朝8時には乗艦して相模湾に向かい、昼頃の観艦式を経て、帰ってきた時には日没間際の夕焼け空であったから、17時頃に帰港したように思う。観艦式はちょっとした日帰りの船旅だった。今回は残念ながらYouTubeで参列だが、配信のクオリティーが高く、これはこれで充分であったことと、ブルーインパルスの離発着での応援に専念することができとても良かった。
 2015年の観閲艦隊旗艦くらまは既に退役しており、今年の岸田文雄総理大臣の乗艦する観閲艦隊旗艦はヘリコプター搭載型護衛艦いずもとなった。観艦式の進行は、相模湾西側から東に向かって受閲艦隊が東進し、旗艦いずもを含む観閲艦隊が東から西進し、交差時に観閲する形で進む。一連の艦隊運動は実に壮大で清々しい。このあたりの説明はYouTubeの1:25:00~にあるので参考にしてほしい。

ブルーインパルスは浜松基地よりリモート展示

 ブルーインパルスは相模湾中心からおおよそ160km離れた浜松基地からリモートで展示飛行を行った。今回は10月31日(月)に浜松基地に展開したとの報に接し、急きょ浜松基地に隣接する浜松広報館からその離発着を応援しようと駆け付けた。

画像: 浜松広報館の3階より浜松基地北地区エプロンを望むとブルーインパルス列線が見えた。(写真・今村義幸)

浜松広報館の3階より浜松基地北地区エプロンを望むとブルーインパルス列線が見えた。(写真・今村義幸)

 朝9時開館の航空自衛隊浜松広報館に開館と同時に入館した。大型機などが屋外展示されている公園を進み滑走路が見えるフェンスまで行く。脚立も持ってきたが、フェンスから1メートルほど離して立てないといけないルールになっており、これを諦め館内に入った。窓のある3階まで昇るとブルーインパルスの列線が見えた。こうして写真で改めて見ると浜松基地第1航空団所属のT-4にはキャノピーにカバーが掛けられている。ブルーインパルスに優先的に格納庫を使わせるために屋外に駐機された光景だ。ブルーインパルスが展開し展示飛行を行うとき、展開先基地の支援があることを忘れてはならない。観艦式を含む観閲式は入念にリハーサルをするためブルーインパルスも本番の11月6日(日)よりもだいぶ早く10月31日(月)から展開した。航空祭よりも長きに渡る展開支援に感謝!

11:40タクシーアウト、11:50に離陸

 開館9時と同時に入場しどこから撮ろうか一通りロケハンを済ませると浜松広報館の展示品を一通り見て歩いた。2015年の上に載せた護衛艦くらまの写真のタイムスタンプは13:13だ。13時からの展示だったと思うが、今年も同時刻帯だろう。13時として離陸は12:30か。それでは少しぎりぎり過ぎる。恐らく12:15か12:20か…。
 早めに撮影位置に付くと、11:30頃であったか11:50離陸との情報が流れてきた。館内に「手を振って見送って下さい」との張り紙が出ているというのだ。そして、間もなく尾翼の衝突防止灯のフラッシュが点滅しだした。
 11:40、当初の予想より40分早く、ブルーインパルスがタクシーアウトした。

画像: 11:40にタクシーアウトしたブルーインパルスがクロスランウェイで滑走路を跨いだ。(写真・今村義幸)

11:40にタクシーアウトしたブルーインパルスがクロスランウェイで滑走路を跨いだ。(写真・今村義幸)

ファンの見守る浜松広報館前を通過して滑走路へ

 東側に向かって進んでくる。西向きに浜名湖上空に出るランウェイ27離陸に決まりだ。すると今度は、真っ直ぐ滑走路北側の誘導路を進んでも良いところを、滑走路の南東側にある浜松広報館の前を通るためにクロスランウェイ(滑走路を横断)した!浜松広報館に応援に来たファンの前を通って離陸するのだ。

画像: ファンの前を二列縦隊でタキシングするブルーインパルス。(写真・今村義幸)

ファンの前を二列縦隊でタキシングするブルーインパルス。(写真・今村義幸)

 余談になるが、航空祭でのサイン会のことをファンサービスと呼ぶ。航空祭のプログラムにサイン会が載ることはないが自主的なファンサービスとしてファンの前に立ちサインや記念撮影を求めるファンに応じるのだ。
 このタキシングもファンサービスの一環と言っていいだろう。それに応え、ファンもまた国際観艦式という大舞台に向かって離陸するブルーインパルスに向かって手を降る。この時の空気感は例えて言えばファンの気持ちをもブルーインパルスに乗せて国際観艦式に向かうといったものであろう。

耐水服を装着してのミッション

画像: ファンに手を振って滑走路へ向かうブルーインパルス。(写真・今村義幸)

ファンに手を振って滑走路へ向かうブルーインパルス。(写真・今村義幸)

 手を降るパイロットの服装は航空祭で着用する青いパイロットスーツでもなく、訓練で着る深緑のパイロットスーツでもないようだ。ここでトップのカバー写真を見てもらいたいのだが、レインコートのような厚手の何かを着用している。どうやら洋上でのミッションのために耐水服を着用しているようだ。
 ブルーインパルスが松島基地や芦屋基地といった海辺の会場で展示飛行をすることはあるが、完全な洋上での展示飛行は観艦式だけだ。立冬を翌日に控えたこの日、耐水服の着用は必須であろう。耐水服は水温15度以下を原則として装着する。

画像: 浜松広報館の窓から手を降って見送るファン。(写真・今村義幸)

浜松広報館の窓から手を降って見送るファン。(写真・今村義幸)

 浜松広報館の公園(屋外展示場)や、館内の階段の踊り場や渡り廊下といったあらゆる場所からファンが手を降って見送り、満を持して滑走路へと向かう。

いよいよ離陸へ

画像: 誘導路から滑走路へと進入するブルーインパルス。左手奥に薄っすらと富士山が見える。(写真・今村義幸)

誘導路から滑走路へと進入するブルーインパルス。左手奥に薄っすらと富士山が見える。(写真・今村義幸)

 11:50離陸に向けて計算通りに滑走路に入るブルーインパルスの隊列は最後まで乱れることがない。9月30日には初冠雪を記録した富士山には雪が掛かっているのだろうか。あるいは晴れの特異日と言われる入間航空祭の11月3日を跨いで晴れ日が続く中、溶けてしまったのだろうか。ここからではわからない。

画像: 離陸前のエンジンとスモーク発生装置の最終チェックをするブルーインパルス。

離陸前のエンジンとスモーク発生装置の最終チェックをするブルーインパルス。

 エンジンランナップという最終チェックを終え、スモークの発生も確認したブルーインパルスはインディビジュアルテイクオフで一機ずつ浜名湖に向かって離陸していった。11:50過ぎ、ブルーインパルスの離陸を見届けるとスマホの海上自衛隊チャンネルに目線を切り替えた。

国際観艦式で3課目と単機ローパスを実施

画像: みごとに咲きそろった3課目目のサクラ。海上自衛隊チャンネルをキャプチャーした。(出典・海上自衛隊)

みごとに咲きそろった3課目目のサクラ。海上自衛隊チャンネルをキャプチャーした。(出典・海上自衛隊)

 ブルーインパルスの展示飛行は離陸40分後の12:30頃からだった。サンライズ、デルタローパス、サクラの3課目を見事に決めて、1番機から6番機まで各機が単機ローパスして艦隊にご挨拶して国際観艦式海域を離脱した。1番機編隊長は飛行班長の平川通3空佐が務めた。
 サンライズ、デルタローパス、サクラの3課目は天覧飛行となった栃木国体開会式祝賀飛行にサクラを加えた構成だ(栃木はデルタローパス、サンライズの順)。浜松展開の前週には松島基地飛行場訓練でサクラを何度も練習する姿がSNSから伝わった。ご覧の通りダイヤモンドを散りばめたような百点満点の(ダイヤモンド)サクラが国際観艦式の空に咲いた!ブルーインパルス大成功!ありがとう!!

画像: ライト・エシュロン隊形で浜松基地上空に帰還したブルーインパルス。(写真・今村義幸)

ライト・エシュロン隊形で浜松基地上空に帰還したブルーインパルス。(写真・今村義幸)

 見事ミッションを成功させたブルーインパルスは12:55頃浜松基地上空へ再びその雄姿を現した。エシュロン隊形で高速に基地上空に達し、一機ずつ左にブレイクして滑走路南側を一周して着陸した。最後6番機がタッチダウンしたのが13:01頃であった。約1時間10分のフライト、お疲れ様でした。

 国際観艦式には海自艦艇20隻に加え海保巡視船1隻、航空機22機、国外12カ国から18隻の艦艇と6機の航空機が参加したという。艦艇の参加国に留まらず各国大使館の駐在武官も招待され艦上の人であったであろう。それらの武官や艦艇クルーがこうして本国に打電したであろう。
「日本国航空自衛隊ブルーインパルス、士気旺盛にして練度高く、これ侮るべからず」
 あるいはこれは秘匿通信ではない公然としたものだったかもしれない…少しスパイ映画の見過ぎだろうか。笑
 少なくともYouTubeで全世界へとあの切れ味の編隊連携機動飛行を披露してくれたのだ。ブルーインパルスにとってこれほど晴れやかで、かつ航空自衛隊の精鋭ぶりを示す抑止力としての任務を完遂した日はなかろう。ブルーインパルスは誠に日本国民にとっての至宝である。

浜松広報館エアパークと零戦

画像: 展示格納庫の眺め。貴重な歴代空自装備機や零戦が見られる。

展示格納庫の眺め。貴重な歴代空自装備機や零戦が見られる。

 ブルーインパルスの発着とともに久しぶりにリニューアル後の浜松広報館をはじめて見学することができた。展示資料館には昨年度退役した対空機関砲VADSやB-747政府専用機の貴賓室など貴重な資料が展示されている。
 隣の展示格納庫には歴代ブルーインパルスの機体が保存されている他、F-4ファントムの世界で最後の生産機となったF-4EJ改の440号機(通称・シシマル)も保管、展示されている。シシマルには本当に会いたかったがやっと国際観艦式で会うことができた(浜松基地航空祭の週末は臨時閉館だった)。

画像: 第1術科学校有志により復元された零戦。写真提供・久保貴弘元空曹長(当時3空曹・写真右から5人目) 館

第1術科学校有志により復元された零戦。写真提供・久保貴弘元空曹長(当時3空曹・写真右から5人目)

 目を見張るのは天井から吊るされた零式艦上戦闘機「零戦」だ。これは浜松基地内にある第1術科学校により修復された零戦で、その修復メンバーの有志の中には後にブルーインパルス整備小隊勤務となりドルフィンキーパーとなった久保貴弘元3空曹(修復当時)も名を連ねる。ブルーインパルス在籍時は2空曹であった。
 零戦の修復作業はボロボロの機体を一から直し、当時の塗料を三菱重工へ問い合わせ、塗料を調達し調合して相当の手間暇を掛けて完成させたのだという。

画像: 久保元空曹長は浜松広報館に屋外展示されているUF-104Jの整備にも携わった。(写真提供・久保貴弘元空曹長)

久保元空曹長は浜松広報館に屋外展示されているUF-104Jの整備にも携わった。(写真提供・久保貴弘元空曹長)

 第1術科学校はフライアブル(飛行可能)なF-15JやF-2Aを整備教育訓練のために保有しているが、こうした素晴らしい修復事業にも参画し、ブルーインパルスをも支えた整備員が輩出されていることが今回の取材でわかった。
 海軍の伝統を受け継ぎ、創設70周年を迎えた海上自衛隊の国際観艦式で、何かに導かれて浜松広報館に赴き、ブルーインパルスもまたこうした知られざる国防の有志たちとその尽力の上に継承されていることに想いを馳せた。

画像: 2022.11.06.国際観艦式 搭乗パイロット ①平川通 3等空佐/飛行班長 航空学生54期 福岡県出身 ②東島公佑 1等空尉 防大57期 福岡県出身 ③鬼塚崇玄 1等空尉 航学65期 福岡県出身 ④手島孝 1等空尉 航学64期 福岡県出身 ⑤江口健 1等空尉 航学59期 福岡県出身 ⑥眞鍋成孝 1等空尉 航学63期 福岡県出身

2022.11.06.国際観艦式 搭乗パイロット
①平川通 3等空佐/飛行班長 航空学生54期 福岡県出身
②東島公佑 1等空尉 防大57期 福岡県出身
③鬼塚崇玄 1等空尉 航学65期 福岡県出身
④手島孝 1等空尉 航学64期 福岡県出身
⑤江口健 1等空尉 航学59期 福岡県出身
⑥眞鍋成孝 1等空尉 航学63期 福岡県出身

取材・ブルーインパルスファンネット 今村義幸(文・写真)/伊藤宜由(写真)


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