防衛白書 要旨

第Ⅰ部 わが国を取り巻く安全保障環境

 ◎第1章 概観

 政治・経済・軍事などにわたる国家間の競争が顕在化している。中でも、米中の戦略的競争は一層激しさを増し、貿易、台湾、南シナ海、人権といった分野において顕在化するとともに、ロシアによるウクライナ侵略など、既存の秩序に対する挑戦への対応が世界的な課題となっている。

 ◎第2章 ロシアによるウクライナ侵略

 武力の行使を禁ずる国際法と国連憲章の深刻な違反であり、力による一方的な現状変更は、欧州のみならず、アジアを含む国際秩序全体の根幹を揺るがす。侵略を容認すれば、アジアを含む他の地域においても一方的な現状変更が認められるとの誤った含意を与えかねず、国際社会として決して許すべきではない。

 国際社会が結束して強力な制裁措置などを実施するとともに、ウクライナを支援し続けることにより、ロシアは大きな代償を払わざるを得ない状況に陥っている。

 ◎第3章 諸外国の防衛政策など

 《米国》バイデン政権は、2021年3月に国家安全保障戦略の暫定指針を発表したが、その後も政策の全般的な見直しを進めており、22年3月には国家防衛戦略の概要で、中国を最も重大な戦略的競争相手と位置づけている。抑止力を維持・強化するために最優先で対応するとし、次に深刻な脅威を与えているロシアの課題を優先すると表明した。

 《中国》尖閣諸島周辺で中国海警船がわが国領海への侵入を繰り返している。わが国の領海で独自の主張をする中国海警船の活動は、そもそも国際法違反。厳重な抗議と退去要求を繰り返し実施してきているが、2021年は、中国海警船の尖閣諸島周辺の接続水域における活動日数が332日となり、過去最多だった2020年の333日に引き続き高い水準となった。特に2月~7月は157日間連続で確認され、過去最長となっている。活動船舶数については延べ1222隻におよんだ。

 《米国と中国の関係など》中国と台湾の軍事バランスは中国側に有利な方向へ変化し、その差は年々拡大する傾向にある。力による現状変更はインド太平洋のみならず、世界共通の課題との認識のもと、同盟国たる米国や友好国、国際社会と連携しつつ、関連動向を一層の緊張感を持って注視していく。

 《朝鮮半島》北朝鮮は昨年同様、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威。核・弾道ミサイル開発の活動を依然として崩しておらず、さらなる挑発行動に出る可能性も考えられ、こうした傾向は近年より一層強まっている。

 近年では長距離巡航ミサイルの実用化も追求しているほか、2022年4月17日には「新型戦術誘導兵器」と称するミサイルを発射した旨を発表。一連の開発・発射の背景には、体制維持のため、核抑止力の獲得に加え、米韓両軍との間で発生し得る通常戦力や戦術核を用いた武力紛争においても対処可能な手段を獲得するという狙いがある可能性も考えられる。

 ◎第4章 宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域をめぐる動向・国際社会の課題

 《科学技術をめぐる動向》近年の特徴としては、特に民生分野に由来する技術の急速な発展と、安全保障にもたらす影響力が大きい。各国は、人工知能(AI)、量子技術、次世代情報通信技術など、将来の戦闘様相を一変させる、いわゆるゲーム・チェンジャーとなり得る技術の研究開発や、軍事分野での活用に力を入れている。

 このような技術の活用は、従来の情報処理を高速かつ自動で行うことを可能とするものであり、意思決定の精度やスピードにも大きな影響をおよぼすものとして注視していく必要がある。

第Ⅱ部 わが国の安全保障・防衛政策

 《防衛関係費》必要な防衛力を大幅に強化するため、令和4年度当初予算は「防衛力強化加速パッケージ」として3年度補正予算と一体して編成した。

 4年度当初予算は、前年度と比べて553億円(1.1%)増の5兆1788億円、米軍再編などを含めると5兆4005億円で、10年連続の増加を維持しており、過去最大となっている。

 主要国の国防費については、G7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)諸国、オーストラリア、韓国と比較してわが国の国防費の対GDP比が最も低い。1人当たりの防衛費については、オーストラリア、韓国、英国、フランス、ドイツがいずれもわが国の約2~3倍となっている。

 そのほか、NATO(北大西洋条約機構)加盟国は2024年までに対GDP比2%以上の国防支出を達成することで合意している。NATOの発表では、2021年(推定額)は米国、英国を含む8カ国が2%を上回っている。

第Ⅲ部 わが国の防衛の三つの柱
(防衛の目標を達成するための手段)

 《今後の防衛力》わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさと不確実性を増している中で、防衛大綱は、今後の防衛力について、個別の領域における能力の質や量を強化する必要があるとしている。

 防衛体制の強化について、宇宙・サイバー・電磁波を含むすべての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする、真に実効的な防衛力として多次元統合防衛力を構築するとしている。

第Ⅳ部 防衛力を構成する中心的な要素など

 《経済安全保障に関する取り組み》AIや量子技術といった先端技術が萌芽する中、各国の安全保障政策においても、先端技術の利活用や管理が焦点になる。

 わが国でも防衛大綱などに基づき、防衛生産・技術基盤の維持・強化への重点的な取り組みが必要であり、新たな国家安全保障戦略や防衛大綱などの策定に係る議論を見据えつつ、法整備も含めたあらゆる手段について検討を進めている。

 

主要国の国防費を比較 対GDP比など初掲載

NATO加盟国は2%以上目標で合意

 令和4年版「防衛白書」では、主要国の国防費について、対GDP(国内総生産)比や1人当たりの金額を初めて掲載した。

 G7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)諸国などと比較して日本の国防費の対GDP比は最も低いことや、1人当たりの防衛費は、オーストラリア、韓国、英国、フランス、ドイツがいずれも日本の約2~3倍であると強調している。

 そのほか、NATO(北大西洋条約機構)加盟国は2024年までに対GDP比2%以上の国防支出を達成することで合意していると初めて明記した。

岸大臣「防衛費の現状、理解深めてもらいたい」

 岸信夫防衛大臣は7月22日の閣議後会見で、令和4年版「防衛白書」の中に、1人当たりの国防費やNATO諸国の対GDP比2%の目標を初めて記述したことについて、「防衛費は国防の国家意思を示す上で大きな指標となるものだと思う。国民に防衛費の取り巻く安全保障環境、現状について理解を深めてもらいたいため」などと述べた。

 その上で、「まず行うべきことは、国民の暮らしを守るために何が必要なのか、具体的かつ現実的に議論をしていく。必要な取り組みについては、国民の理解を得られるよう、十分に説明を行っていきたい」と語った。

表紙デザイン AIアートを採用
新しい領域を切り拓く自衛隊の決意を表現

 令和4年版「防衛白書」の表紙は、ライゾマティクス社のAIアートによるデザインを採用した。

 防衛省によると、「ハイブリッド化した安全保障上の挑戦に革新的なアイデアと最先端技術で打ち勝つ」というテーマをAIにインプットして生成された原画を加工してデザインしているのが特徴だという。

 防衛省は、「テクノロジーの進化が安全保障のあり方を根本から変えようとしている時代において、先端技術の活用などにより新しい領域を切り拓ひらいていくという防衛省・自衛隊の決意と強固な防衛意思を表現した」としている。


◆関連リンク
防衛省・防衛白書
https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/

「はじめての防衛白書」が同時公開
 小学校高学年以上に分かりやすく

 令和4年版「防衛白書」に合わせ、その内容を小学校高学年以上にも分かりやすく説明するため、防衛省が昨年から発刊した「はじめての防衛白書」の第2版も今回、同省ホームページで公開された。

 防衛省によると、「はじめての防衛白書」は、分かりやすい表現を心がけ、日本を取り巻く安全保障環境をより深く理解してもらうための施策の一環。第2版では、「国の防衛はなぜ必要なの?」「日本の周りの安全保障環境」「憲法と自衛隊の関係」「宇宙・サイバー・電磁波領域での挑戦」など計11項目について説明している。

 防衛省では今回、新たな試みとして全国の中学生・高校生に「一緒につくりませんか?」と、学校の新聞部などを通じて呼び掛け、応募があった中から選ばれた「中高生記者」がさまざまな職種の現役隊員や防衛大学校生らにオンラインでインタビューをする方法を企画。防衛日報社はインタビュー当日、その様子を取材した。

 白書には、「働く自衛官の声」「防大生の声」などのタイトルで、隊員らが中高生記者の疑問に答える形式でまとめられた。

 岸防衛大臣は7月22日の会見で、「若年層向けにできる限り分かりやすくまとめた。国の防衛には、国民の理解と支援が必要不可欠。一人でも多くの人にご覧いただきたい」と述べた。


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