「安保3文書改定」後、初の白書
 
 政府は7月28日、「令和5年版防衛白書」を閣議了承した。白書では、中国軍とロシア軍による日本周辺の共同行動について「重大な懸念」と強い警戒感を示したほか、中国と台湾との軍事バランスが、中国有利に「急速に傾斜する形で変化している」と分析した。日本の防衛政策の大きな転換点となった昨年12月の「安保3文書改定」後、初めてとなる白書は、日本を取り巻くこうした安全保障の厳しい現状を明記し、3文書の策定経緯や、防衛力の抜本的強化などを詳述。国際社会が「戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入しつつある」との危機感を示した。

中露の戦略的連携、強い懸念

 厳しい安保環境の原因の一つが中国だ。透明性を欠いたまま国防費を増加させ、目指す「世界一流の軍隊建設」の実現時期を従来の「21世紀半ばまで」から前倒しを検討している可能性を指摘した。また、台湾との軍事バランスが「中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化している」と警戒。同国に対しては「中国の軍事動向などは、わが国の国際社会の深刻な懸念事項であるとともに、これまでにない最大の戦略的挑戦」と表現した。

 中国が台湾周辺での軍事力を活性化している状況を踏まえ、日本の南西諸島について「地域住民の脅威」と警戒感を強めた。一方、「米国単独では複雑で相互に関連した課題に対処できない」とも明記。安保3文書でも「歴史的なパワーバランスの変化が生じている」と、中国の台頭に伴う米国の相対的な国力低下に対する懸念をにじませた。

 ロシアに対しては、ウクライナ侵略の長期化で通常の戦力を大きく損耗し、「核戦力への依存を深めると考える」との見通しも紹介したほか、「中国との戦略的な連携と相まって安全保障上の強い懸念」となっていると警鐘を鳴らしている。かつてない高い頻度で弾道ミサイルを発射する北朝鮮に対しては、一昨年の朝鮮労働党大会で掲げられた国防5カ年計画に沿って「より実戦的な状況を連想させる形で挑発行為をエスカレートさせた」と非難。今後もミサイル発射を繰り返すとの見通しも示した。

画像: 日本を取り巻く安全保障環境(出典・令和5年度防衛白書)

日本を取り巻く安全保障環境(出典・令和5年度防衛白書)

安保3文書の章を新設 

 今回の白書は、安保3文書を解説する章を新設した。策定の経緯に関して、「わが国の領土・領海・領空そして国民の生命と財産を守り抜く必要がある」と明記。その上で、安保3文書の策定の経緯について説明した最上位文書の「国家安全保障戦略」では、日米同盟の強化や「自由で開かれたインド太平洋地域」(FOIP)、国際テロなどの外交手段を活用した取り組みに関しても言及。防衛対策の強化では、領域横断作戦に加え、スタンド・オフ防衛能力、無人アセット防衛能力などを強化する方針を掲げた。また、差し迫る危機に対応するため、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を強調した。サイバー安全保障では、サイバー攻撃を仕掛けようとする相手のシステムにアクセスするなどして未然に対処する「能動的サイバー防御」に触れ、「導入およびその実施のために必要な措置を進める」などと記述した。

 
 このほか、海上保安庁と自衛隊の連携強化を含めた海洋安全保障・海上保安能力、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と自衛隊などの連携強化を推進する宇宙安全保障に関しても説明している。日本の防衛目標を掲げた「国家防衛戦略」では、基盤的防衛力構想を詳細に解説している。このうち、防衛力の抜本的強化では、(1)スタンド・オフ防衛能力(2)統合防空ミサイル防衛能力(3)無人アセット防衛能力(4)領域横断作戦能力(5)指揮統制・情報関連機能(6)機動展開能力・国民保護(7)持続性・強靱性きょうじん ―の7つの重要分野を挙げた。
 

防衛力抜本的強化 5年間で予算43兆円

 統合防空ミサイル防衛能力では、イージス・システム搭載艦のイメージ図を初めて掲載した。同艦は、防衛省が秋田と山口両県への配備を断念した陸上配備型弾道ミサイル防衛(BMD)システム「イージス・アショア」の代替として建造が計画されている。「防衛力整備計画」では、防衛力の抜本的強化に関する7つの重要分野における主要事業をまとめている。防衛省幹部は今回の白書について、「分かりやすく解説することで国民に理解を深めてもらいたい」と話している。

画像: イージス・システム搭載艦のイメージ図を初めて掲載(出典・令和5年版防衛白書)

イージス・システム搭載艦のイメージ図を初めて掲載(出典・令和5年版防衛白書)

 5年間で43兆円の予算を必要とする「防衛力抜本的強化」に関しては、「これまでと全く異なる水準の予算規模により、防衛力の抜本的強化に向けてさまざまな取り組みを実施」と防衛力強化に注力する方針を示した。防衛力抜本的強化の「元年」予算と位置付けた令和5年度防衛関係費予算は6兆8219億円で前年度の1.3倍と、11年連続で増額となった。

 安保3文書の一つである「防衛力整備計画」の基本的な考え方については、「宇宙・サイバー・電磁波を含む全ての領域における能力を有機的に融合する」とし、「平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする『多次元統合防衛力』を抜本的に強化」と明記している。こうした中で、9年までに侵攻が発生した場合には、「同盟国の支援を受けつつ、阻止・排除できるようにする」と、抜本的な防衛力強化を図る決意を表明した。

 5年度予算の重点事項として、(1)可動向上と弾薬確保(2)自衛隊施設の強靱(きょうじん)化(3)研究開発(4)隊員の生活・勤務環境の改善―を挙げた。このうち、可動向上と弾薬確保では、部品不足を解消して保有装備品の稼働数を向上するため、装備品の維持整備に前年度比1.8倍となる2兆355億円を計上した。継続的な部隊運用に必要な各種弾薬を確保するために同3.3倍となる8283億円を投じる。隊員の生活・勤務環境の改善では、備品や日用品、被服、宿舎などの費用として、同2・5倍の2693億円を充てた。このほか、「反撃能力」として敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」やドローンなどの「無人アセット防衛能力」などに大幅に予算を投じる。

画像: 防衛力強化のために予算配分を見直した(出典・令和5年版防衛白書)

防衛力強化のために予算配分を見直した(出典・令和5年版防衛白書)

人的基盤の強化 多様な人材を確保

 白書では、防衛力の中核を担う自衛隊員の今後の勤務環境に関して、「全ての隊員が高い士気と誇りを持ち、個々の能力を発揮できる環境を整備すべく、人的強化を進めていく」と強調した。防衛省では、多様な人材を確保するために一般曹候補生・自衛官候補生の採用年齢上限を、平成30年度から「27歳未満」から「33歳未満」に引き上げた。また、貸費学生制度の拡充を図るほか、サイバーなどの専門的領域人材、中途退職した元自衛官の採用拡大を図っている。

 隊員の生活・勤務環境の改善は欠かせない。白書では「即応体制確保のために必要な隊舎・宿舎の確保および建て替えを加速する」とした。施設の老朽化対策や耐震化を推進することも明記した。
 女性隊員の生活・勤務環境にも触れ、「隊舎や艦艇・潜水艦における女性区画を整備、演習場などにおける女性トイレや浴場の新設・改修などを行う」と改善策を進める方針を記述。さらに隊員の処遇向上、再就職についても言及している。近年、問題となっている自衛隊内でのハラスメント問題では、「自衛隊員の相互の信頼関係を失墜させ、組織の根幹を揺るがす、決してあってはならないもの」と強調し、対応強化に注力する考えを示している。

画像: 少子化の影響もあり、厳しい募集環境が続く(出典・令和5年版防衛白書)

少子化の影響もあり、厳しい募集環境が続く(出典・令和5年版防衛白書)

浜田防衛大臣が会見 「10年間の変化に焦点」 

 浜田靖一防衛大臣は、7月28日の閣議後会見で、「令和5年版防衛白書」について、「わが国を取り巻く安全保障環境や、防衛省・自衛隊の取り組み、米国を始めとする各国との協力などについてまとめた」と述べた。また、「戦略3文書(安保3文書)策定の経緯を説明する一環として、より長期的な視点から解説するために、これまでの約10年間の変化に焦点を当て、戦略3文書の策定に至る背景や、今後の防衛力抜本的強化の方向性について解説した」と説明。その上で、「わが国を取り巻く安全保障環境や防衛省・自衛隊の取り組みについて、国民の皆様にご理解をいただきたいと考えております」と強調した。

画像: 7月28日の会見で防衛白書を掲げる浜田防衛大臣

7月28日の会見で防衛白書を掲げる浜田防衛大臣

表紙の題字は自衛隊員が揮毫

「令和5年版防衛白書」の表紙の題字は、自衛隊員が筆を執った。防衛省は「国際社会が戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入しつつある」との危機感から、「国民の命と暮らしを守り抜く防衛力の中核である自衛隊員が、表紙の題字をしたためた」と説明。題字は、「しなやかで勢いと力強さのある筆の運びにより、全自衛隊員27万人を代表して、防衛省・自衛隊の『新たな決意』を表現している」と強調した。

 揮毫(きごう)したのは空自三沢基地(青森県三沢市)3航空団整備補給群修理隊の的野誠2空曹。これまで「全自衛隊美術展」の書道の部で内閣総理大臣賞や防衛大臣賞などを受賞している。

※防衛日報2面では防衛白書の要旨を掲載しておりますので、PDF版でご覧ください


◆関連リンク
防衛省・自衛隊
https:/https://www.mod.go.jp/


<編集部より>

 本日は、防衛省など行政官庁にとっては最重要な報告書のひとつである「防衛白書」で1面、2面すべてを使って掲載しました。そもそも、「白書」って何なのでしょうか。資料などを紐(ひも)解くと、「政府の各省庁が、その所管とする行政活動の現状や対策・展望などを国民に知らせるための報告書」とありました。日本では、昭和22年(1947)の片山内閣が発表したのが最初で、もともと、英国政府の報告書が白表紙を用いたところからいうようです。

 1面で「令和5年版防衛白書」の全体的な内容、2面にその要旨を入れました。一般紙の場合、白書を作成している行政官庁を担当する記者は、必ずこの執筆作業を経験します。私事ですが、個人的には計5つの白書について書きました。内容が「今、何をしているのか」を事細かく説明しているだけでなく、日本の行く末に大きな影響を与える言葉も多いため、新聞での扱いは大きくなり、それだけ作業も倍増し、大変な思いをしたことを覚えています。

 防衛白書は、中国やロシア、北朝鮮などのこの1年間の国際情勢、防衛省・自衛隊の取り組み、人的基盤などさまざまな現状などを紹介しています。当然、起こった事実などを紹介するのが中心なのですが、白書の場合はこれに合わせて解説をし、さらにはこれまではっきりと言われていなかった文言をあえて付け加えるのがミソ、と思っています。メディア的にはいわゆる「字になる」フレーズが結構出てきます。たとえば、はっきりと「国際社会は戦後最大の試練の時、新たな危機の時代に入った」などと指摘したのは、当てはまるのかな、と思います。それだけ、国の護(まも)りを預かる防衛省・自衛隊のある意味、「覚悟」のような意識が感じられました。

 厳しさを増してきたこの10年の安全保障環境を特集したり、昨年12月に改定された「安保3文書」のうち、とくに「国家安全保障戦略」の章を新設するなど、少しでも多くの国民に実情を理解してもらいたいという意識もまた、痛切に感じました。

 防衛省は白書に合わせて、小中高校生向けに防衛白書を分かりやすく解説した小冊子を作成しました。今年で3回目です。子供向けとはいっても、意外と大人にもすーっと読める内容だと思います。ぜひ、これからの日本を支える子供たちにもしっかりと読んでもらいたいと思います。

続きはPDFにて防衛日報をご覧ください。

→防衛日報8月8日付PDF


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