災害派遣などに臨む自衛隊員へのメンタルケア
東部方面総監部医務官室医務幹部の植村1陸尉によると、ハンドブックは、駐屯地で勤務する臨床心理士の業務の手引として、同総監部の指揮のもと、東部方面隊の臨床心理士らが作成。今年6月7日に東部方面隊の臨床心理士らに配布された。
ハンドブックによると、隊員のメンタルヘルスへの対応は、平成11年、護衛艦で発生した海自隊員の自殺がきっかけだった。訴訟の末、「上司の言動が指導の域を超える違法なもの」との判断で国の責任を認める判決が下された。
防衛省ではそれまでに、陸自に部外カウンセラーを導入したり、初の心理幹部を設置していた。判決後は、部隊へのヒアリングを実施することになったほか、「自衛隊員のメンタルヘルスに関する検討会」「防衛省におけるいじめ等の防止に関する検討委員会」などを設置。異動時期に合わせた「メンタルヘルス強化期間」の設定など、さまざまな対策に乗り出した。
平成15年度から、戦闘ストレスへの対処を目的とした「惨事ストレスセミナー」が開始。26年度からは、幹部特技課程「心理」として位置づけられた。各方面隊にも心理幹部を、部内病院に臨床心理士をそれぞれ配置した。さらに、駐屯地にも臨床心理士を配置し、平素における全隊員に対する心の健康チェックを行うようになった。
このほか、(1)海空自に部外カウンセラーを導入(2)隊員や家族を対象とした無料電話相談「さぽーとダイヤル」を開始―などの対策を行った。
一方で、自衛隊は平成4年度のカンボジアへの派遣を皮切りに、国際平和協力活動を展開している。不安定な現地の治安情勢、環境の過酷さ、緊張感の高い生活や任務など、隊員の心理的負荷は大きく、派遣隊員や留守家族の不安を軽減するためにさまざまな支援施策を実施してきた。
具体的には、派遣隊員と家族が直接連絡できるメールやテレビ電話などの通信手段の確保や、家族からの慰問品の追送支援などを行ったり、家族説明会を開催して必要な情報を提供している。
海外派遣と並び、自衛隊の主要任務として位置づけられるようになったのが、災害派遣。とくに、平成23年に発生した東日本大震災は大きな影響を与えた。
災害派遣隊員は延べ1058万人。約9500体の遺体を収容した心理的負荷、派遣期間の長期化による疲労、放射能汚染への恐怖などから、PTSD(心的外傷後ストレス障害)発症のリスクが高まり、心理幹部などで構成された巡回チームを各宿営地に派遣。その後、活動を通したメンタル面を支える「派遣隊員ケア推進チーム」を設置した。
東方CP(臨床心理士)も発生後の4月5、6の両日に7人のCPが派遣され、現地の隊員が直面している精神的ストレスに関する情報を収集するなどした。
現在は、方面・師団・旅団に心理幹部の配置が完了。その後も、メンタルヘルスに向けた施策は定期的に実施している。
<防衛日報 2021年9月10日(金)2面>
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【特集】自衛隊員のメンタルヘルスを考える
①「臨床心理士全国参加集合訓練」から
▷② 東方総監部作成ハンドブックから
③「防衛白書から」