はじめに

 総合防災コミュニティ「学防 manabou」運営メンバーの生活密着型ママ防災士セイコです。主婦と子どもの視点から考える「普通の暮らしの中の防災」を担当しています。

 全国的な長雨の中、みなさま不安なく過ごされていますか? 

 今日は、前回の続き「水害避難所体験リポート<後編>」を予告しておりましたが、予定を変更し、今、現実に起きていることに目を向けたいと思います。

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令和3年7月3日午前 静岡県熱海市で大規模な土石流が発生
死者3名、安否不明113名
建物被害は推計で少なくとも約130棟
(7月5日午後10時現在)

熱海市は静岡県の最東部、つまり私の住む神奈川県に接した町で、我が家からは最寄駅から電車1本1時間ほどで気楽に旅行気分が味わえる、私にとって身近でなじみ深い観光地です。

亡くなられた方のご冥福を
安否不明の方の無事の救出を
ご無事だった方の心身の早期ご回復をお祈りいたします。

また救助活動などにあたられている方々に感謝し、
今後2次災害が発生しないことを心から願っております。

被害を受けられたすべての方にお見舞いを申し上げます。
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 前回の水害避難を考える記事でも書きましたが、我が家はまさしく土砂災害警戒区域にあります。さらに今回、おそらく熱海市と同じような時間帯に自宅周辺の心配をする時間を過ごしていたのではないかと思うと、ますます胸が苦しくなります。

 この記事を読んでくださっている方の中にも、ご自身の生活地域が大雨による災害の警戒対象地域になっている方がいらっしゃるでしょうか。

 私が住む藤沢市では、7月1日から大雨警報が継続していました。長引く大雨は土砂災害の要因のひとつです。我が家は急傾斜地崩壊危険区域のそばなので、大雨警報の時点で土砂災害を意識し始めていました。

 一昨年の避難所体験後、原則的には自宅避難を選ぶ方針を固めていますが、自宅の中でも不安要素のある部屋は特に警戒をするようにしていて、状況によってはやはり自宅以外の場所へ避難することを考える必要があると考えています。

防災情報から、いつ、なにを判断するのか

 避難するか否か。
災害の状況を判断するにあたって、私が参考にした情報は主に以下の4つの公式な通知です。

・地域の防災情報メール(ふじさわメールマガジン配信サービス)
・LINEスマート通知
・iPhoneの緊急速報
・防災ラジオ
 
 これらの通知と併せて、天気予報アプリ、気象庁ウェブサイト、県のウェブサイト、ニュース、SNSなどに自分でアクセスして確認・検討していました。

私たちはいつ逃げるべきなのか

 それを考えるため、今回の大雨で私が参考にした情報を、時系列で整理して見直してみたいと思います。
(以下ボックス内は、私が受信したメール等の一部抜粋・改変)

① 藤沢市の大雨警報を受信

藤沢市 警報・注意報 大雨警報
令和3年07月01日08時04分 
「横浜地方気象台発表 神奈川県気象警報・注意報」
(東部では、土砂災害に警戒して下さい。)

藤沢市[特別警報]なし
[警報]大雨
[注意報]雷

大雨警報(土砂災害)[発表]
特記事項 土砂災害警戒
土砂災害 警戒期間2日朝にかけて 以後も続く
注意期間 2日朝にかけて 以後も続く

ポイント→
 7月1日の時点ですでに土砂災害の警戒を含む大雨警報が出ていました。対策・行動の準備をする時間が十分にあります。

② 大雨警報のため、娘が通う市内の公立中学の休校が決定
ポイント→
 以前よりも休校の決定などが早くなったと思います。家族(特に子ども)がばらばらに離れた場所にいるより安心です。親戚・知人宅やホテルなどへの避難など早めの対策も計画しやすくなると思います。

③ 神奈川県の土砂災害警戒情報メール第1号を受信

神奈川県土砂災害警戒情報第1号
令和3年07月03日01時15分
神奈川県 横浜地方気象台 共同発表 
【警戒対象地域】
横浜市北部、横浜市南部、平塚市、小田原市、秦野市、大磯町、二宮町、中井町、大井町
【警戒文】
<概況>降り続く大雨のため、土砂災害警戒区域等では命に危険が及ぶ土砂災害がいつ発生してもおかしくない非常に危険な状況です。
<とるべき措置>避難が必要となる危険な状況となっています。【警戒レベル4相当情報[土砂災害]】。崖の近くや谷の出口など土砂災害警戒区域等にお住まいの方は、市町村から発令される避難指示などの情報に留意し、少しでも安全な場所への速やかな避難を心がけてください。

ポイント→
 【警戒文】まで、かなり詳しく避難を促してくれている内容だと思います。この通知では、まだ自分の住む藤沢市は警戒対象に入っていませんでしたが、対象となっている近隣地域を考えれば、時間の問題と推察できます。

④ 20分後に土砂災害警戒情報第2号を受信

神奈川県土砂災害警戒情報 第2号
令和3年07月03日 01時38分
【警戒対象地域】
箱根町※ 湯河原町※ および第1号発表地域

ポイント→
 先の情報で自宅が対象地域に入っていなくても、近隣地域が対象になっている時点で自分ごととして身構えておくべき。
 ※湯河原町が警戒対象地域に加わりました。湯河原町は熱海市の隣接地。神奈川県内情報なので当時の熱海市の状況は警報については未確認ですが、この頃には熱海市も避難をするべき状況になっていたのではないかと思います。

⑤ 第1号通知から30分後に、藤沢市が土砂災害警戒対象地域に指定される

神奈川県土砂災害警戒情報 第3号
令和3年07月03日01時55分
【警戒対象地域】
横須賀市※ 鎌倉市※ 藤沢市※ 逗子市※ および第2号発表地域

ポイント→
 藤沢市もそのうち対象地域になるだろうと思っていたら、第1号からほんの30分後に指定されました。

⑥ iPhoneの緊急速報を受信

避難指示を発令
藤沢市から発令
発令時刻:7月3日5時30分
対象地域:(対象)地区の土砂災害警戒区域
理由:土砂災害の危険性が極めて高まっているため
行動要請:今すぐ安全な場所へ避難
安全な親戚・知人宅への避難も検討、近所の方へも声をかけて避難
ハザードマップで自宅の安全を確認できれば自宅避難も検討
(藤沢市)

ポイント→
 実はこれまでiPhoneの機能のひとつである緊急速報通知を意識していませんでした。トップ画面の通知センターに全文表示され、見落としにくく便利な機能だと感じました。
※設定が必要。(設定→通知→(一番下)緊急速報→オン/オフ)

画像: スマホのトップ画面に現れるので、目に飛び込んできます。メールボックスを開いたり、リンク先に移動する手間もなく、全文を読むことができました。

スマホのトップ画面に現れるので、目に飛び込んできます。メールボックスを開いたり、リンク先に移動する手間もなく、全文を読むことができました。

⑦ 避難指示の発令をメール受信

令和3年07月03日05時45分
藤沢市から避難指示の発令について、お知らせします。
~~地区の土砂災害警戒区域に、避難指示を発令しました。
土砂災害のおそれがある区域にいる方は速やかに避難を開始してください。
土砂災害の危険が高まっています。
~~地区の崖の付近にお住まいの方で、未だ避難できない方は、緊急避難をしてください。

・「避難指示発令地区」詳細
・「開設している水害避難所」一覧

ポイント→
 この時点では、一部地域に限られた避難指示でした。

⑧ 藤沢市に洪水警報が追加される

藤沢市 警報・注意報
令和3年07月03日06時28分
藤沢市[警報]大雨、洪水

ポイント→
 土砂災害だけではなく浸水の危険も高まりました。これは浸水地域の住宅だけでなく、土砂災害警戒区域からの避難ルートが脅かされることも考えられます。

⑨ 防災ラジオで避難指示を受信

令和3年07月03日08時30分
「こちらは 防災ふじさわです
緊急放送 緊急放送 ただちに避難
緊急放送 緊急放送 ただちに避難
市内の 洪水浸水想定区域 および 土砂災害警戒区域に 避難指示を 発令しました
災害の 危険性が 極めて 高まっています
川や 崖の 付近に お住まいの方で 避難できていない方は 緊急に 避難をしてください
避難場所への 避難が 危険な場合は 近くの 安全な場所に 緊急に 避難するか
屋内の崖から 離れた 高いところへ 速やかに 避難してください
~繰り返し~
こちらは 防災ふじさわです」

ポイント→
 自動で作動し、大音量と照明の点滅とともに緊急速報が流れ、緊急性を感じます。祖母宅にも設置してあるのですが、メールをまったく利用しない祖母でも、状況を把握できます。

画像: 点滅がとても眩しいので、撮影のために照明を隠しました。ラジオの音量を最小にしていても防災行政無線は大音量で鳴ります。 写真:望彩図鑑

点滅がとても眩しいので、撮影のために照明を隠しました。ラジオの音量を最小にしていても防災行政無線は大音量で鳴ります。

写真:望彩図鑑

⑩ 避難指示の発令メール(2回目)を受信

避難指示の発令
[警戒レベル4]避難指示の発令
市内の洪水想定区域および土砂災害警戒区域に避難指示を発令しました。
災害の危険性が極めて高まっています。
川や崖の付近にお住まいの方で、避難できていない方は、緊急に避難をしてください。
避難場所への避難が危険な場合は、近くの安全な場所に緊急に避難するか、屋内の崖から離れた高いところへ速やかに避難してください。

・「避難指示発令地区」市内の洪水浸水想定区域及び土砂災害警戒区域(区域内にいる方は全員避難)一覧
・「開設している水害避難所」一覧

ポイント→
 避難指示が一部地域から市内全域に広がり、「区域内にいる方は全員避難」の文言が現れました。我が家もここにあてはまります。

⑪ 藤沢市の土砂災害の警戒が解除される

神奈川県土砂災害警戒情報 第10号
令和3年07年03日21時40分
【警戒解除地域】全地域
【警戒文】<全警戒解除>
大雨が弱まり、多発的な土砂災害が発生するおそれは少なくなりました。

問い合わせ先(電話番号)神奈川県県土整備局河川下水道部砂防海岸課
            横浜地方気象台

ポイント→
 「多発的な」と「少なくなりました」とあるように、土砂災害のおそれが無くなったというわけではありません。

⑫ 大雨、土砂災害警戒は継続

大雨警報 → 大雨注意報に変更され継続中
特記事項 土砂災害注意 
土砂災害 注意機関 5日夕方まで(7月5日11時55現在)

ポイント→
 土砂災害の危険が無くなったわけではありません。 

 以上が、7月1日の大雨警報から7月5日までに私が受け取った公式通知の記録の一部です。このほかにも、藤沢市近隣地域が土砂災害警戒対象地域に加えられた通知などがあり、
[警報・注意報]メールは、計27件
[神奈川県土砂災害警戒情報]メールは、第10号まで届きました。
 4日間のうちに少なくとも40回もの警告を受け取っていました。これにほかの防災アプリなどの通知を加えれば、さらに増えます。

私たちは、いつ逃げればよいのか

 もし、我が家の近くで土砂災害が発生していたとしたら…

 熱海の土石流が発生した3日の午前。私が受信した防災情報をさかのぼって、避難のタイミングを考えてみます。

 おそらく最後のチャンスは上記の⑨。防災ラジオが「ただちに避難」と直接的な避難指示を大音量で鳴り響かせたタイミングです。この時ならまだ、ひと通りまとめて避難所へ移動できたと思います。

 もうひとつ前のチャンスは⑤のタイミング。「神奈川県土砂災害警戒情報第3号」の時点です。それまで複数受け取っていた防災情報の中でも、自宅地域が警戒対象地域に加えられ、緊急度が明確になりました。
 ただ、この情報が発表されたのは午前1時過ぎ。多くの人が就寝中の時間帯です。もし目が覚めたとしても、その時間に起きだして雨の中を避難しようと行動に移すのは難しいでしょう。

 ですが、いよいよ危険が迫った段階での避難指示を待たずとも、その前から何度も危険を知らされ、避難を促されていたのです。その時点で動き出せたなら時間はたっぷりありました。

 結局、外部への避難をしなかったのが我が家の選択でしたが、未来の実際はだれにもわかりません。逃げなくても大丈夫な場合もあるし、そこから絶対に離れなくてはいけない、そういう場合もあるのが事実です。そして時間は戻せません。

地域特性を知っておくこと

 今回の熱海の土石流は、ハザードマップの「土石流危険渓流」のエリアにほぼ重なっていたようです[NHK NEWS WEB(2021.7.3)]。2018年の西日本豪雨を思い出します。甚大な被害のあった岡山県倉敷市真備町地区の被災状況もハザードマップにほぼ重なっていたにもかかわらず、多くの方が犠牲になってしまいました。

 ハザードマップが存在しても、想定が正しくても、いくら警戒情報が流れてきても、そこにいる人が情報を知っていなければ理解していなければ、役に立ちません。

 まだ雨は続きます。土砂災害の危険は雨が降っている最中だけではありません。地面の中は見えません。水は静かに地中に浸透し、見えないところで少しずつ変化が積み重なります。それがいつどのタイミングでバランスを崩すかわかりません。今、地震が起きたら、絶対に土砂災害の警戒区域に近づいてはいけません!

 静かで緩やかですが、私たちは今、災害の中にいるのかも知れません。

 自宅・職場・学校、緊急時の避難ルート、お買い物で行くところ、ただ歩くだけの道、ぜひどうかもう一度、ハザードマップを確認してみてください。そこが危険区域に含まれていなくても、近隣に危険地帯があるなら、そこも意識していてください。

 私たちは、これまでの犠牲を伴ってしまった災害から学んだことを、いっときも忘れてはいけないと強く思います。

画像: 熱海は海と山の町。 写真:望彩図鑑

熱海は海と山の町。

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画像: 海岸沿いの"お宮の松/貫一お宮の像"も土石流警戒区域内に。土石流の警戒はこんなところまで!(重ねるハザードマップ) 写真:望彩図鑑

海岸沿いの"お宮の松/貫一お宮の像"も土石流警戒区域内に。土石流の警戒はこんなところまで!(重ねるハザードマップ)

写真:望彩図鑑

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