平素より国防に従事される自衛隊隊員の皆様に心より感謝申し上げます。
令和6年(2024年)12月1日(日)、和歌山県美浜町の町制施行70周年記念イベント「WE LOVE MIHAMA シーサイドフェス」でブルーインパルスが飛びました。和歌山県での展示飛行は、平成30年(2018年)9月2日の南紀白浜空港開港50周年記念以来です。
浜松基地からのリモート展示で増槽を装着し、5課目の編隊連携機動飛行を実施しました。5課目と少なめに感じる課目数になったのは浜松基地から紀伊半島を迂回(うかい)して洋上を回ってきたからのようです。
浜松基地と美浜町の間には中部国際空港もあり、また北にはジェット機にすれば近くの関西国際空港があります。こうした立地条件も展示飛行のひとつの構成要素であり、難しさでもあり面白さでもあります。
筆者は少ない課目数の展示飛行に情熱を感じる方であり、先日のラリージャパン2024でも豊田スタジアムではなくJR恵那駅の方に行きました。ワンパスでも感動を与えるブルーインパルスにその魅力を感じています。それは医療従事者らへの感謝飛行でも証明されたのではないでしょうか。
そういえば、瀬戸大橋20周年記念で香川県を飛んだ時も、瀬戸大橋沿いのワンパスと高松港上空での7課目の編隊連携機動飛行が実施されましたが、筆者は瀬戸大橋のワンパスを選びました。周りからは「Imachanは男だ」と言ってもらえました(笑)。
美浜町より西にある瀬戸大橋で8課目も実施できたのは、その時は飛行ルートが浜松から真っすぐ瀬戸大橋に向かえたからではないか、と現地に展開した空自関係者のお話でした。また、同じ香川県でも善通寺駐屯地の記念行事では2課目だったと記憶したおります。恐らくは美浜町と同じ南回りで会場に向かったのだろうと考えられます。
美浜町は紀伊水道の入り口にあたる紀伊日の岬の袂(たもと)にあり、対岸は徳島県の蒲生田岬となっています。南に向いた煙樹ヶ浜は太平洋に面しており、波に削られた丸い石が敷き詰められた石の浜で、靴に砂が入るといったわずらわしさを感じることはありませんでした。潮の流れが速く遊泳禁止となっており、この日は穏やかでしたが、石の浜は波打ち際で急に海面へと下る、いかにも石が波によって打ち上げられたような傾斜になっていました。
陸側には紀州藩の初代藩主徳川頼宣が植えさせたという立派な防潮林が続いており、イベント会場となった煙樹ヶ浜キャンプ場には松林の中を抜ける道を通って向かいました。
イベント会場では展示飛行に先立つ午前中にサイン会が開催され、飛行班長の川島良介3空佐と3番機の松浦翔矢2空尉が対応しました。その後、美浜町出身のお笑いコンビ「ワンダーランド」の司会で川島3空佐がトークショーにのぞみ、来場者からの質問に答えるなどしました。
浜松基地からのリモート展示
トークショーでは、浜松基地から真っすぐ来れば最速で15分くらいの距離を35分くらいかけて燃費の良い飛行で美浜町に向かってくるとの説明でした。
13:40の展示飛行開始時刻に対し13:00ごろブルーインパルスは浜松基地を離陸しました。
冠雪した富士山をバックに浜松基地を出発するブルーインパルスの様子をよっちさんが投稿してくれました。
「日本の宝物」
富士山とのコラボが撮りたくて美浜町に向かうブルーをエアパークでお見送り&お出迎えしました。
左旋回を使った展示飛行
美浜町での展示飛行は左旋回をうまく使った編隊連携機動飛行でした。チェンジ・オーバー・ターン、スワン360°ターン、デルタ360°ターン、レター8の先頭の3機編隊などブルーインパルスの編隊旋回機動は右旋回を基調としています。右旋回基調は世界のアクロチームを見ても珍しいそうです。
平成18年(2006年)の那覇基地航空祭でそれまでの航過飛行から格上げして初めて編隊連携機動飛行を実施するとなった時、冬の北向き滑走路で他の民航機の進行方向に合わせて、デルタ360°ターンを北向きに実施し、陸側でなく海側で旋回するために左旋回を取り入れたのが左旋回編隊機動の始まりでした。
震災以降、この左旋回を航空祭などでも取り入れるようになった、いわばブルーインパルスの最新トレンドが左旋回編隊機動です。
美浜町では地図を見ると煙樹ヶ浜から海に向いて右手(西側)に紀伊日ノ岬が突き出ており、小高い山となっているため、右手からの進入は望ましくありません。このために取り入れたのが左旋回のスワン360°ターンでした。スワン360°ターンをしかも増槽を付けたD2形態で見たのは初めてです。
ローパスと左旋回と描き物の絶妙なコンビネーションを、この地形とリモート展示ゆえの限られた燃料という条件の中で最高の展示飛行として見せるというブルーインパルスの妥協しない姿に、心を打たれました。これだからブルーインパルスは展示課目数の多少に関わらず見逃せません。
後述しますがスワン360°ターンはさらに特別な飛び方をしてくれました。
①デルタ・ローパス
最初はオリンピックや医療従事者らへの感謝飛行と同じやや幅広いデルタ隊形のデルタ・ローパスからスタートです。
南を向いた煙樹ヶ浜に正面から進入し、太陽の位置が午後早めの時間であることを示しています。
しまっちさんからは紀伊日ノ岬の上にある西山ピクニック緑地からの写真を投稿頂きました。その進入を横から見ると、紀伊日ノ岬より高い高度で飛んでいることがわかります。
本番当日は天候にも恵まれ、大勢の観客がブルーインパルスの展示飛行を楽しんだ。全長約4.6kmにも及ぶ煙樹ヶ浜を埋め尽くすのではないかと思われた観客は後に6万人以上と発表された。
会場からでは有りませんが、会場を見渡せる
西山ピクニック緑地から撮影しました。当日は通行規制のため徒歩でしか登れませんでしたのでブルーインパルスファンよりハイキングの方の方が多い感じでした。
なので、初めての方が多く最高の天気の中でのブルーインパルス展示飛行を楽しめたと思います。
②スワン360°ターン
デルタ・ローパスを終え紀伊日ノ岬とは逆方向へ向かったブルーインパルスは折り返して会場の方へ向かってきました。おや、ここでは浜より海側を飛んでくると思いきや、後ろの防潮林に沿って飛んでくるではありませんか。
ナレーションで「本日は特別に会場の皆様を包み込むように」と紹介されています。そう、通常であればこの旋回課目は会場の正面で旋回全体を外側から見えるように回るのです。それがこの日は会場を中心に回ってくれました。
ブルーインパルスが自分の周りを回って飛んでくれるのはファンの夢であります。それをブルーインパルスがかなえてくれました。しかもスワン隊形で。その姿は何か本当にスワン(白鳥)が飛んでいるかのようでした。また、正面で飛べば逆光となる光景も、後ろを回ってくれたことで、順光でその姿を撮ることができました。
5兵衛さんのコメントにあるように実は前日の事前訓練ではデルタ360°ターンで飛んでおり、遠くからそれを見ていましたが、当日会場に立ってスワン隊形で入ってきたことと進入ラインが後方であることがわかった時には粋なサプライズに大変びっくりしました。
ブルーインパルスを初めて観覧しました。予想以上の迫力に感動し、一気にファンに。今後は他県で行われるイベントにも情報収集し、観に行きたいなと思いました!
青空を颯爽と彩るブルーインパルス。
12月とは思えない暖かい快晴の元ブルーインパルスを初めて見ました。
どこから来るのか...と360度見渡せる空をキョロキョロしていると彼方(かなた)からやって来たブルーインパルス!見る見る間に近づき白いラインが大空を一気に横切った爽快感!
青と白のコントラストの美しさ!ガッチリシャッターを押した一日でした。
③クリスマス・ツリー・ローパス
クリスマス・ツリー・ローパスは異なる二つの三角形でツリーをイメージした冬限定の航過飛行課目です。本来の名称はツリー・ダーティ・ローパスで、脚を出した着陸形態で着陸灯を点灯させて正面から進入してきます。キラキラとライトが点灯したツリーが、スモークの裾を広げて飛び、その姿はまさにクリスマス・ツリーのようです。
れもねーどさんの投稿写真はまるで超新星の誕生した空をブルーインパルスが飛んでくるようです。スモークは背後から太陽に照らされ、さらにそれを際立たせています。
ソースおじさんはなんと漁船をチャーターして海上からのアングルで撮ってくれました。
初めてブルーインパルスを拝見させて頂きました。山の向こうからゴーと音が聞こえてくると、いい大人が子供の様に来た来たと大はしゃぎしながら、写真を撮ってました。とても楽しかったです。今度は航空ショーも見てみたいです。1~6号機まで、奇麗に整列されて写真が取れました。
地震、災害で、落ち込んだ日本を、希望の光に向かって突き進んでいくイメージだなあと思いました。
今回初めてのブルーインパルスを拝見しにいきました。テレビなどで、インパルスの事、パイロットの方の努力のされている日々の訓練、等拝見しており、一度は見たいなあと憧れていました。
しかし、近畿でなかなか見れるタイミングがなかったし、遠方に行く時間もなかったんですが、今回和歌山県美浜町で、展示飛行されると聞き、是非是非インパルスを自分の目で見てみたいと思いフェスにいきました。
とっても感動しました。あんな人に勇気を与えれる事、自分も出来たらとパワーをもらえました!
みんなパワーや勇気で励まされました。
本当にありがとうございました。ぜひ、また、関西で展示飛行してほしいです。
海の男の船長も展示飛行が始まった途端、エンジンを停めて空を見上げていました。
3月15日の年間スケジュールが発表されると同時に、いつも釣りでお世話になっている美浜町三尾漁港の利昌丸さんをチャーターしました。 煙樹ヶ浜の周辺は道路も狭く、当日の大混雑を予想して前日から三尾漁港近くの民宿に宿泊。海上からブルーインパルスを観る機会もそうそう無いので良い思い出になりました。
④フェニックス・ローパス
左前方から斜めに会場前を横切るフェニックス・ローパスは次のサクラへの序章でもあります。このローパスが終わるとサクラの実施高度を獲得するために上昇します。この上昇は紀伊日ノ岬を避ける上昇にもなり、それはしまっちさんの写真で如実に分かりますが、美浜町の地形をうまく使った展示構成の組み立てと言えます。これはスワン360°ターンの進入と旋回方向でも言えたことです。
1~6号機の キャノピー?部分に後ろからの
太陽の光が当たり、奇麗な写真が撮れました。
今度はアクロバット的な航空ショーも見てみたいと思います。
⑤サクラ
サクラはブルーインパルスが得意とする「描き物」の課目の一つです。他にも星やハートを描く課目が代表的です。
美浜町ではスワン360°ターンに次ぐもう一つの左旋回課目でした。サクラの開発がスタートした時、当初は右旋回でこれを描いていたといいます。動画を見て右旋回で描くサクラをイメージしてみてください。そうすると手前から描き始めて奥を回り、手前がスモークの継ぎ目となってしまいます。それでは今ひとつ見栄えがしないものだったそうで、最初の発案者は当時の4番機パイロットでしたが、左旋回が3番機パイロットから提案され、もう一つ最初は中心の円がなかったものを飛行班長の提案で追加して、見栄えのするサクラの完成となったそうです。
こうしてできた日本の国花であり自衛隊のシンボルでもあるサクラが美浜町の空にも見事に咲かせられました。
ブルーインパルス6機がキレイな輪を描いて素晴らしい飛行です。
たまたま太陽が先にあり、ダイヤモンド状態に見えてキレイな写真です。
また、平和の輪の先に希望の光が見える写真でもあります!世界平和になって欲しいという希望の輪です。
雲一つ無い青空に描かれた巨大な桜の花。あまりの大きさに驚いたのか、会場にいるほとんどの人が無言のまま空を見上げていたのが印象的だった。
今回写真や動画の投稿以外にもブルーインパルスへのメッセージを頂きましたので紹介させていただきます。
《cyoco_bellさんからのコメント》
2017年にステージ4の癌が見つかり、手術・抗癌剤治療の合間の2018年9月2日の白浜空港開港50周年で初めてブルーインパルスの展示飛行を見て、感動し、とても勇気づけられました。そして今年の春、桜を追いかけ福島へ…そして松島基地へ…
その日は残念ながら訓練はお休みでした。
気落ちしてる中、12/1に美浜町に訪れてくれると知りずっとわくわくしていました。
快晴の当日、追いかけて行った松島基地では桜は咲かなかったけど、美浜町(煙樹ヶ浜)で最高の満開の桜が咲きました。 もう感動で………
ブルーインパルスのスタッフの皆様本当にありがとうございました。
夢や希望を与えてくれて感謝しかないです。
今度は松島基地の満開の桜を見に行きたいと思います。
エシュロンで凱旋
展示飛行を成功させたブルーインパルスはエシュロン隊形に整列して浜松基地上空にアプローチし、コンバットピッチという一定の間隔で編隊解散し着陸する方式で凱旋しました。
よっちさん、浜松広報館からのお見送りとお出迎えをありがとうございました。
浜辺の飛行指揮所
飛行指揮所は浜辺の会場の真ん中に設置されました。ナレーションは分かれて音響装置のあるイベント会場から行われました。
飛行指揮所が会場の真ん中で観客がすぐ近くにいるのは珍しく、地上メンバーはその歓声をすぐそばで聞くこととなりました。
展示飛行が終わると、浜松基地から飛行指揮所や天候観測所の設置支援で展開した第1航空団の隊員もナレーションで紹介され、拍手を浴びていました。支援部隊の紹介も珍しく地上メンバーによる機転と考えられますが、これによってこうした地上支援もリモート母基地から行われることもあるのだと知ることとなりました。
「WE LOVE MIHAMA シーサイドフェス」編隊連携機動飛行 実施課目
①デルタ・ローパス
②スワン360°ターン(左旋回)
③クリスマス・ツリー・ローパス
④フェニックス・ローパス
⑤サクラ
「WE LOVE MIHAMA シーサイドフェス」編隊連携機動飛行 実施メンバー
1番機 江尻卓2空佐(飛行隊長)、浅香光司1空尉(6番機錬成)
2番機 松永大誠1空尉
3番機 藏元文弥1空尉
4番機 佐藤裕介1空尉
5番機 藤井正和3空佐、浦祐眞3空佐(5番機錬成)
6番機 加藤拓也1空尉
地上統制官 川島良介3空佐(飛行班長)
ナレーター 松浦翔矢2空尉(3番機)
地上支援 江﨑泰弘2空曹(飛行管理員)
地上支援 假屋智広2空曹(整備員)
陸上自衛隊の装備品展示や花火大会も開催された
美浜町には陸上自衛隊和歌山駐屯地があり、海岸線沿いや水際に対舟艇用の地雷・障害を設置し、敵の侵攻を阻止する水際障害中隊が配置されています。前日には和歌山駐屯地の開庁記念行事も開催され、当日にはイベント会場で同隊に配備されている94式地雷敷設装置も展示されました。
94式地雷敷設装置は陸上自衛隊でも数少ない水陸両用車であり、災害派遣にも使用され、東日本大震災では福島県相馬港周辺沿岸における行方不明者の捜索に使用されました。
当日夜には花火大会も開催され、しまっちさんが西山ピクニック緑地から撮った煙樹ヶ浜の花火を投稿してくれました。寒い中ありがとうございました。
読者投稿受賞作品(防衛日報社賞)
応募作品で防衛日報社賞に輝きましたのは、れもねーどさんの「クリスマス,ツリー・ローパス」です!
れもねーどさんには防衛日報社賞の記念品を贈らせていただきます。