令和6年(2024年)7月6日(土)、秋田県能代市の能代港大森埠頭用地で開催された「のしろみなと祭り2024」でブルーインパルスが展示飛行を実施した。松島基地からリモートの増槽タンク付きD2形態で編隊連携機動飛行を行った。
 6日(土)、7日(日)の2日開催で日曜日には海上自衛隊大湊音楽隊の演奏も予定されていたが悪天候のためイベントは土曜日のみとなり音楽隊の演奏会は市内ショッピングセンターでの開催となった。
 ブルーインパルスは5日(金)にも事前訓練(予行)を予定していたが、これも悪天候で中止となり当日のみの飛行となった。

画像: 87式偵察警戒車と16式機動戦闘車(写真・今村義幸)

87式偵察警戒車と16式機動戦闘車(写真・今村義幸)

 岩手県滝沢市の陸上自衛隊滝沢駐屯地から第9偵察戦闘大隊の87式偵察警戒車と16式機動戦闘車、青森県大湊市の海上自衛隊第15護衛隊からは護衛艦「はまぎり」も一般公開された。宮城県東松島市の航空自衛隊松島基地から第11飛行隊ブルーインパルスの展示飛行を合わせれば東北の陸海空自衛隊による統合展示ミッションだ。自衛隊秋田地方連絡本部がこれを取り仕切った。主催は能代商工会議所青年部・みなと祭り実行委員会だった。

画像: 風が強く堤防の外で白波を立てる能代海岸(写真・今村義幸)

風が強く堤防の外で白波を立てる能代海岸(写真・今村義幸)

 普段は入れない大森埠頭用地には秋田杉と思われる材木や鉱石が山積みされていた。日本海を望み、背後には14kmにおよぶ「風の松原」が横たわる。その黒松は30度も名陸側に傾いており風の強い土地であることがわかる。この日も堤防の外は白波が立っていた。江戸時代から植栽されてきた能代海岸防砂林は近年景観などが見直され「風の松原」となった。松原の眺めに重なって風力発電機の風車も延々と立っている。風車は堤防の沖合の洋上にも立っていた。隣には火力発電所が建ち、その奥には松原に隠れているがJAXAロケット実験場もある。市内に入れば能代バスケミュージアムがある。人気漫画「スラムダンク」に高校バスケットボール界の王者として登場する山王工業のモデル「能代工業」(現・能代科学技術)が能代市にある。
 能代市から北に進めばブナの原生林が生い茂る白神山地の入り口となる。南側には八郎潟干拓地や男鹿半島がある。松島基地とは海岸続きの牡鹿半島は“おしかはんとう”と読むが男鹿半島は“おがはんとう”だ。観光で行ってみたい場所ばかりである。展示飛行の翌日に少し回ったが、それもまたブルーインパルスが飛んでこそ足を延ばすことができた観光だった。

画像: 一般公開された護衛艦はまぎり“DD155”(写真・今村義幸)

一般公開された護衛艦はまぎり“DD155”(写真・今村義幸)

 一般公開された汎用(はんよう)護衛艦「はまぎり」のマストには高々と天辺に第15護衛隊司令乗艦を示す白地に赤い桜一つの隊司令旗が掲げられ、その下に「W・E・L・C・O・M・E」の国際信号旗で迎え入れられた。弾道ミサイルへの対処能力こそ備えないものの、対潜・対艦・対空戦闘に対応する汎用護衛艦だ。ヘリコプター飛行甲板を備えており、「そういう艦はDDHと呼ぶのではないのか?」と隊員に質問すると、どの護衛艦も一機はヘリコプターが搭載できるようになっており、DDHはもっと本格的な搭載型になるという。船は専門外の筆者にどの隊員も丁寧に説明をしてくれる。士気は極めて高い。組織の空気が死んでいるか生きているか、少し足を踏み入れればすぐにわかる。

画像: 写真を撮らせてほしいと航空電子整備員の隊員に声を掛けるとヘリコプターを誘導するときのポーズをしてくれた。トップガンと同じような格好をするのかと尋ねると「あそこまで派手なことはないがやっていることは同じです」とのことだった(写真・今村義幸)

写真を撮らせてほしいと航空電子整備員の隊員に声を掛けるとヘリコプターを誘導するときのポーズをしてくれた。トップガンと同じような格好をするのかと尋ねると「あそこまで派手なことはないがやっていることは同じです」とのことだった(写真・今村義幸)

画像: 潜水員の隊員は、主にスクリューに異物が絡まったりして航行不能な場合や人、物が海に落ちた場合に海に入るという(写真・今村義幸)

潜水員の隊員は、主にスクリューに異物が絡まったりして航行不能な場合や人、物が海に落ちた場合に海に入るという(写真・今村義幸)

 ブルーインパルスの少し前に早めに乗艦し、順路にそってまず後部甲板に出ると、シースパロー短SAM発射装置があり、その横で艦長と記念撮影を撮ってくれた。飛行甲板に上がって航空電子整備員、潜水員、肩に赤十字のマークを付けた衛生員と声を掛けて聞いていく。衛生員は准看護師の資格を取る者もいるという。どの隊員も話していて気持ちがいい。

画像: (出典・能代商工会議所青年部・みなと祭り実行委員会HP)

(出典・能代商工会議所青年部・みなと祭り実行委員会HP)

 さあ、展示飛行を見ていこう。デルタ・ローパス、スワン・ローパス、デルタ360°ターン、フェニックス・ローパス、サクラ、ビッグ・ハート、720°ターン、レベル・サンライズの8課目が実施された。後半は空が白み、苦しい撮影環境であったが、護衛艦の上から見るブルーインパルスは格別だ。翌日が雨だったことを考えても、梅雨のつかの間の晴れ間に良く飛べたものだ。松島基地からのリモート経路の天候も確保されなければならず、飛べたこと自体も含め最良の展示飛行だった。ここでは読者投稿もたくさん送っていただいたので、それらも交えて紹介する。パンフレットの会場案内図も見ながら位置関係をイメージしてみてほしい。
 編隊長は飛行隊長の江尻卓2空佐。仙台からこちら、川崎、能代と江尻隊長と飛行班長の川島良介3空佐で交互に飛んでいるようだ。川島3佐は地上統制官として能代港会場に来場していた。

デルタ・ローパス

画像: はまなす展望台とブルーインパルス《写真・5兵衛》

はまなす展望台とブルーインパルス《写真・5兵衛》

のしろみなと祭り初日の7/6、天候が心配されていたがブルーインパルスの展示飛行の時間になると青空が広がり、松島基地から飛来してきたブルーインパルスがデルタ・ローパスで登場した。

画像: 松島基地から飛来したブルーインパルス(写真・今村義幸)

松島基地から飛来したブルーインパルス(写真・今村義幸)

 最初のデルタ・ローパスは「風の松原」が横たわる陸側から護衛艦側面に向かって実施された。

スワン・ローパス

画像: 2課目目のスワン・ローパス(写真・今村義幸)

2課目目のスワン・ローパス(写真・今村義幸)

 前方から護衛艦と平行に進入し、米代川下流方向へと上空を通過した。艦尾へ抜けた巻頭のカットも参照いただきたい。

画像: 真下からのブルーインパルス《写真・渡辺智明》

真下からのブルーインパルス《写真・渡辺智明》

前方から初めて生で拝見いたしました。ずっと見てみたいと思っており、やっと見ることができました。遠くから飛んで来た時は鳥肌でした。感動いたしました。ありがとうございます。

画像: ババヘラアイスの売店とブルーインパルス《写真・5兵衛》

ババヘラアイスの売店とブルーインパルス《写真・5兵衛》

秋田の夏の風物詩となっている「ババヘラアイス」はビーチパラソルの下で販売員がヘラを使ってアイスを盛り付けてくれる。販売員が若い女性のときには「ギャルヘラ」「ネネヘラ」、男性のときには「ジジヘラ」「アニヘラ」などと呼び方が変化するらしい。夏になると幹線道路沿いの様々な場所に出店しているがのしろみなと祭りにも出店していた。アイスの販売の列に並びながらブルーインパルスの展示飛行を見るご家族。全国から来たブルーインパルスファンも秋田名物に舌鼓をうっているようだった。

画像: 護衛艦上空を抜けて米代川下流に達するブルーインパルス《写真・芳賀空流》

護衛艦上空を抜けて米代川下流に達するブルーインパルス《写真・芳賀空流》

メイン会場から離れた場所で親父背中越しに撮影しました。

デルタ360°ターン

画像: 催し物会場から見上げるブルーインパルス《写真・5兵衛》

催し物会場から見上げるブルーインパルス《写真・5兵衛》

のしろみなと祭り会場には催し物が開催されるステージと観客が座って楽しめるテーブルと椅子が用意された。キッチンカーや露店も多数出店し家族や友達同士でグルメを楽しみながらブルーインパルスの展示飛行を楽しむことができた。

画像: 護衛艦の直上から開始したデルタ360°ターンを描き終えるブルーインパルス(写真・伊藤宜由)

護衛艦の直上から開始したデルタ360°ターンを描き終えるブルーインパルス(写真・伊藤宜由)

 かわさき飛躍祭とは逆方向の右旋回で本来のデルタ360°ターンをみせた。

画像: 艦上から北西の空で実施されたデルタ360°ターン(写真・今村義幸)

艦上から北西の空で実施されたデルタ360°ターン(写真・今村義幸)

 南北方向の岸壁の北側、米代川河口から西沖合いへと斜めに伸びる能代港北防波堤を越えてデルタ360°ターンが描かれた。後半のビッグ・ハートやレベル・サンライズもこの北西からの角度で描かれたが、空が白んで見えにくかった。

フェニックス・ローパス

画像: 右手前方の南から斜めに入ってくるフェニックス・ローパス(写真・今村義幸)

右手前方の南から斜めに入ってくるフェニックス・ローパス(写真・今村義幸)

 サクラへと続くローパスはこの角度で入ってくる。衛生員の任務を説明してくれた隊員が中央に立ち見上げている。

画像: 大森埠頭の岸壁から見たフェニックス・ローパス(写真・伊藤宜由)

大森埠頭の岸壁から見たフェニックス・ローパス(写真・伊藤宜由)

 フェニックス・ローパスを見上げる来場者たち。復興祈願の隊形が能代港の空を舞った。

サクラ

画像: 演技後半の「サクラ」《写真・5兵衛》

演技後半の「サクラ」《写真・5兵衛》

演技後半ブルーインパルス6機で構成される「サクラ」は会場のやや北東の空で披露された。巨大なサクラの出現に会場からは歓声と拍手があがった。

画像: 飛行甲板からサクラを見上げる航空電子整備員と来場者たち(写真・今村義幸)

飛行甲板からサクラを見上げる航空電子整備員と来場者たち(写真・今村義幸)

 サクラは雲を避けてか、護衛艦から内陸側の風の松原にかけて描かれたようだ。

ビッグ・ハート

画像: ビッグ・ハートが描かれているはずの北西側の空(写真・今村義幸)

ビッグ・ハートが描かれているはずの北西側の空(写真・今村義幸)

 サクラを終え前方甲板に移動しながら振り返るが、空一面に雲が広がり、いろいろと補正してみたもののビッグ・ハートはほとんど映っていなかった。堤防の奥には洋上の風車も見える。山の天気は変わりやすいというが日本海の天気も変わりやすい。

720°ターン

画像: 5番機による720°ターン(写真・伊藤宜由)

5番機による720°ターン(写真・伊藤宜由)

 720°ターンは護衛艦の真上で無限大“”を描いた(写真・伊藤宜由)

レベル・サンライズ

画像: 最後の課目となったレベル・サンライズ(写真・伊藤宜由)

最後の課目となったレベル・サンライズ(写真・伊藤宜由)

 8課目目、最後のレベル・サンライズは護衛艦の右後方から開花した。白んだ空でなんとか写真をレタッチして見せているが、後半は難しい撮影となった

トークショーとサイン会

画像: トークショーに登壇した後、サイン会に対応した地上メンバー。手前から川島良介3空佐〈飛行班長、地上統制官〉、横澤弘恭3空曹〈飛行管理員、ナレーター〉、伊藤司1空曹〈整備員、地上サポート〉、逢坂祐次郎2空曹〈整備員、地上サポート〉(写真・今村義幸)

トークショーに登壇した後、サイン会に対応した地上メンバー。手前から川島良介3空佐〈飛行班長、地上統制官〉、横澤弘恭3空曹〈飛行管理員、ナレーター〉、伊藤司1空曹〈整備員、地上サポート〉、逢坂祐次郎2空曹〈整備員、地上サポート〉(写真・今村義幸)

 展示飛行後にはステージでのトークショーとサイン会も開催され多くの来場者が並んだ。

祭りの後

画像: 大森埠頭用地の4万トン岸壁に係留された護衛艦「はまぎり」(写真・今村義幸)

大森埠頭用地の4万トン岸壁に係留された護衛艦「はまぎり」(写真・今村義幸)

 日曜日ののしろみなと祭りは中止となった。ゲートが閉められた大森埠頭用地の4万トン岸壁に係留された護衛艦「はまぎり」がはまなす展望台下から見えた。背後の風車からは風がうなる音が聞こえていた(写真・今村義幸)

画像: 日本海中部地震大津波殉難者慰霊碑(写真・今村義幸)

日本海中部地震大津波殉難者慰霊碑(写真・今村義幸)

 飛行指揮所が置かれたはまなす展望台下近くには1983年(昭和58年)5月26日の能代沖を震源とする日本海中部地震大津波の殉難者慰霊碑が建立されていた。忘れてはならない記憶がここにもあることをまたブルーインパルスに導かれ教えられた。

読者投稿受賞作品(防衛日報社賞)

 応募で防衛日報社賞に輝きましたのは、渡辺智明さんの「真下からのブルーインパルス」です!
 渡辺智明さんには防衛日報社賞の記念品を贈らせて頂きます。

《投稿写真》5兵衛、渡辺智明、芳賀空流〈掲載順〉
(取材と文、写真)ブルーインパルスファンネット 今村義幸/伊藤宜由/Yuka MIyamoto


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