「防災~明日を考える~」は、日頃からの防災意識を高めてもらい、いざという時のための役立つ情報発信の場として立ち上げた防災コンテンツです。
防災には、「自助・共助・公助」があり、みなさんも耳にしたことがあると思います。自助は自分自身、共助は地域で、公助は国(公的機関)が行うものです。防衛日報社では特に“自助”に焦点をあて、防災アイテムや防災に携わる企業を紹介するとともに、実際に防災に取り組まれている個人、団体のみなさまのご意見をコラムとして配信していきます。
今回、新コンテンツ「防災~明日を考える~」をスタートするにあたり、心強い方々とタッグを組むこととなりました。
アスプラウト株式会社代表取締役でもあり「Re防災project」を立ち上げる喜多村建代さんです。2024年1月1日に発生した能登半島地震では、自らもフラスコオンラインEXPO危機対策&アウトドア総合展のメンバーとともに被災地入りし、情報収集や物資提供などを行った喜多村さん。テレビなどでは発信されていない(されにくい)事も多く、必要な物が必要な人へ行き届いていない事態や、女性だからこそ気付いたことも多くあったそうです。
コラムでは、喜多村さんはじめメンバーの方々に実際に見て感じたことから今後に生かすべきことなどをテーマごとに連載として紹介していただきます。
第2回は、アスプラウト株式会社代表取締役の喜多村建代さんより「学びと意識~活かされない教訓と変わっていく備え」をお送りいたします。
ブレーカーを落とすことが最も重要
能登半島地震で起きた輪島での大規模火災、総務省消防庁が「屋内の電気配線が地震で傷ついた事による出火の可能性」と2024.2.15に調査結果を公表。
「やっぱり…」と私はとても残念でたまらなかった。
なぜなら、こんなにも伝わらず大変で儲からない「災害対策」を私が生業としているのは、震災時火災原因の大半を占める電気火災と、復旧時の通電火災を防ぐ『感震ブレーカー』を全世帯に設置する目標を持ったことがきっかけだったからである。
「火災」というと大体の人は燃料(油やガスなど)が原因と想像し、電気は安全と勘違いする。
しかし、燃料系の火災より電気火災の方が1,000℃以上高温だという事と、通電している物に対しての消火活動はとても危険で電気対応の消火剤が必要な事など、知っているだろうか?
また、発災直後の電気火災と復旧時の通電火災、この両方を防ぐにはブレーカーを落とす事が重要だという事も伝えたい。
ブレーカーを落とす勇気
ブレーカーそのものを落とす『感震ブレーカー』は一定の揺れを感知しブレーカーが落ちる仕組みだ。しかし、便利になった世の中ではブレーカーを落とすことへの抵抗が大きい。「ブレーカーが落ちると医療機器が…」「そもそも電気がないと…」とブレーカーを落とす事を火災以上に問題視する傾向が強いが、なにも停電は感震ブレーカーの作用だけで起こるものではない。
電気量の使い過ぎでもブレーカーは落ち停電になるし、風水雪害や落雷によっても停電は引き起こされる。様々な要因がある“停電”だが、なぜか人為的に起こす停電のリスクだけが問題視されるため、震災時火災を防ぐための感震ブレーカーへの理解が進まない。
停電に対する備えをしておく事が火災防止へとつながり、命や財産だけでなく、大切な思い出も守るのである。
広める側、決定する立場の責任
東京都や江戸川区が無償配布している特定の場所だけ通電を止めるコンセント型タイプ、これを設置して安心と勘違いする世帯が出てしまう事も危険と私は危惧している。
ーなぜ特定の場所だけではだめなのか?
想像していただければすぐに分かることではあるが、一部の家電の通電を止めたところで、そこが発火原因となるとは限らない。
人間の体に例えるのなら、心臓がブレーカー、配線が動脈、コンセントが毛細血管、血液は電流である。(心臓)ブレーカーを止めなければ(血の流れ)電流は止まらず、張り巡らされた動脈、毛細血管、このどれかに傷が付いたら大出血(火災)を起こすのである。
また、特定箇所遮断の感震ブレーカーでは、復旧時の通電火災も防ぐ事は出来ない。大元である(心臓)ブレーカーを止め(血の流れ)電流を止めるほかないのです。
「通電を止める箇所が選べることで設置率が増える」とか、「コンセントに差し込むだけだから簡単」など、皆さんの為を思って話しているように聞こえる内容だが、これほど恐ろしい広め方はなく、命の危険性を高めかねない行為である。
火災は命や財産だけでなく、大切な思い出さえも奪ってしまう…
「自分の家から火を出さない」事がどれだけ重要か。あなたの家から出た火が、家族だけでなく他人の命も奪ってしまうことを想像して欲しい。
広める側、決定する立場の方々はまず勉強していただきたい。そして過去の災害をまず調べ、今と昔は何が違うのか?何がリスクなのか?時代の変化と共に対策もアップデートする必要があることを考えていただきたい。
繰り返される被害
今年の能登半島地震。これは29年前の阪神淡路大震災と13年前の東日本大震災を足して被害を小さくした感じである。29年…こんなにも長い歳月が経っているのにも関わらず、家屋倒壊による圧死圧迫死、広域火災と同じことがなぜ起きてしまったのか?
災害も、流行りものと変わらない日本の体制が招いた結果が、毎回の災害での被害を繰り返し、時代と文化の変化と共に、その被害額は格段に上がっていく…命とお金の無駄使いはいい加減なくして欲しい。
前回にも挙げたとおり、災害は自然災害だけではない。人災も多くの命を奪い、甚大な経済損失を招くのである。→防災~明日を考える~「おごりからくる人災」
CBRNE(シーバーン)
全てを経験しているのは日本だけ
人災の代表が「CBRNE災害」である。これは 化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性物質(Radiological)、核(Nuclear)、爆発物 (Explosive) 、これらの頭文字を取っているのだが、この全てを経験しているのは世界で唯一、日本だけなのだという認識を持っていただきたい。
そしてCBRNE災害に加え、自然災害も世界トップクラスな日本が第一に取り掛かるべき政策は「災害対策」なのではないか?と考える。
便利な世の中だからこそ
便利な世の中になればなるほど不便は人を苦しめ、当たり前にある物がなくなることがどれだけ大変な事かを有事に思い知らされるのである。
なら、私たちはどうすれば良いのか?
「当たり前」から「有難い」に視点を変えて日常を見渡してほしい。
家に帰ってスイッチを入れれば電気が点く、蛇口をひねれば水やお湯が出る、ドアを開ければトイレがあり、汚物は触らずとも処理される…これだけでも「有難い」と意識したら備えは変わるのではないだろうか?
2種類の“水”
今回能登半島地震の支援に行って気付いた一つが「水は2種類ある」という事。
有り余るほどの飲料水があるにもかかわらず、それらを生活用水として使う勇気が出ないのである。これは実際被災しないとこの気持ちは分からない。だからこそ何もない今、飲料水と生活用水についての備えを考えるだけでも、有事の課題を乗り越える一つとなるのである。
「視点が変われば備えが変わる」「時代が変わるとともに備えも変わる」。災害対策は、平和に過ごせている「今」だからできる命を守るプロジェクトである。
災害対策のシートベルト化の実現に向けて
時代の変化と共に災害対策をアップデートし続ける災害対策の日常化、「災害対策のシートベルト化」を実現させるためには、『強い地域づくり』が必要である。それには産官学民連携での意識改革と継続的な取組みが必須で、このどこが欠けても強い地域づくりは出来ず、災害弱者は増え続ける一方である。「産官学」が連携し「学民」の強化に繋げ、それが本当の意味での「国土強靭化」となる。
これらの取組みを「Re防災project」とし、2024.3.15より社団法人を立ち上げる。
プロフィール
喜多村 建代
アスプラウト株式会社 代表取締役
一般社団法人住環境創造研究所 企画広報部長
日本防災スキーム株式会社 パートナー
FOEX(フラスコオンラインEXPO)危機対策&アウトドア総合展 リーダー
15年間専業主婦の経験から、主婦目線、母親目線、民間目線と、プロ目線だけでは見落としがちな部分に焦点を置き、同じ志を持つそれぞれのプロフェッショナルとタッグ組んで、あらゆる対策に対しての柔軟で的確なサポートを行う。
感震ブレーカー開発者との出会いから災害対策に関わる事業に加わり、その後会社設立。
震災時火災、停電対策、防災教育などを中心に活動を拡げる。