政府機関や国内企業の多くがサイバー攻撃にさらされている。近年では航空会社や港湾など公共インフラのシステム障害が目立つ。新たな戦場はサイバー空間に移りつつあり、防衛省・自衛隊ではサイバー防衛のための人材育成に注力している。こうした中、サイバー防衛に携わった元統幕長や元事務次官らがサイバー人材育成のための民間団体を設立する方針だ。このメンバーである島田和久元防衛事務次官に設立の目的やサイバー防衛の今後の在り方などを聞いた。(編集部・船木正尋)

サイバー攻撃は「この瞬間も」

――サイバー攻撃の現状は。

 「サイバー攻撃はこの瞬間でも発生している。狙われているのは政府機関だけでなく、公共インフラを担う民間企業などだ。そして攻撃主体は個人やグループではなく、国家主体だ。中国や北朝鮮などはサイバー攻撃をするための多くの人材を抱えている。防衛省・自衛隊もサイバー部隊を強化しなければならない。そのためにも人材育成は急務だ」

――自衛隊では、今後5年間で現状約900人の自衛隊のサイバー部隊を約4千人に増やし、サイバー防衛に従事する要員を計約2万人に拡充する方針だが。

 「この数字は、私が現役のときに積み上げたものだが、自前で養成できる規模からではなく、最低限必要な『あるべき規模』の数字として導き出した。現在は陸上自衛隊通信学校(令和5年度末に改編=陸上自衛隊システム通信・サイバー学校)を中心に人材育成を進めているが、現在でも一部は民間に委託しており今後は委託の拡充が必要だ。だが、カリキュラムの統一性がない。ある程度のレベルを育成するためにも統一的な育成カリキュラムや個々のサイバー人材の能力の認証制度などを構築しなければならない」

画像: 令和4年3月17日に新編された「自衛隊サイバー防衛隊」
令和4年3月17日に新編された「自衛隊サイバー防衛隊」

――サイバー人材育成のための民間団体を設立するようだが。

 「早ければ年内を目指し、陸上自衛隊通信学校や各種の研究機関が集積する神奈川県横須賀市を拠点とする方向で検討している。サイバー安全保障を支える人材の育成のために、官民との調整役を果たすプラットフォームとなる。発起人は私のほかに、自衛隊制服組トップの統合幕僚長を務めた斎藤隆氏、鈴木茂樹元総務次官、安藤久佳元経産次官、中村格前警察庁長官の計5人の予定だ。まずはOBから組織の垣根を超えた取り組みを始めたい」

官民を行き来する「リボルビングドア」制度の構築

――具体的な取り組みは。

 「今後、設置されるサイバー防衛の司令塔や防衛省などの政府機関と連携し、産業界の協力で高度な人材を育成できるよう協力していきたい。主な取り組みとしては、サイバー攻撃に対処できる能力を身に付けるための統一的な育成カリキュラムを作成するほか、レベル別の認証制度の創設を検討している。将来的には民間登用しやすいように人材を登録しておく人材バンクとして機能することも想定する。さらに政府機関と民間企業を行き来できる『リボルビングドア(回転扉)』制度を構築したい。政府機関で培った技術や経験を民間で生かすことできる。また逆もしかりだ」

サイバー空間の反撃能力「能動的サイバー防御」

――今年8月に公表したサイバー安全保障に関する提言書の中で未然に攻撃者のサーバーなどへの侵入・無害化する「能動的サイバー防御」の必要性を打ち出した。

 「今年に入り有識者を含めた会議を13回開き、主要国のサイバー安保戦略の分析などを通じて提言を検討してきた。安保3文書では、『能動的サイバー防御』が初めて明記された。いわばサイバー空間の『反撃能力』だ。政府は内閣官房に『サイバー安全保障体制整備準備室』を新設し、能動的サイバー防御の導入に必要な法整備の検討を進めている。まずは相手がどのような手法で、どこから攻撃してくるかを知る必要がある。そして可能な限り未然に攻撃者のサーバーなどへ侵入し、無害化する。まさに能動的に守らないといけない時代となっている」

――サイバー攻撃は政府機関だけではなく、民企業もターゲットになっているが、その対応は。

 「安保3文書では、民間事業者がサイバー攻撃を受けた場合の政府への情報共有や、政府から民間事業者への対処調整・支援等の取組を強化する、としている。官民連携を一層強化するために安全保障上の機密を扱う政府職員や民間人らに情報へのアクセス資格を付与する『セキュリティクリアランス』の導入は不可欠だ。事案が発生した場合、企業は、株主や個人情報保護法との関係で、政府機関との情報共有をためらうことがある。守秘義務を課す仕組みを導入することで、安心して通報できるだけでなく事後の対応も素早くできる」

「国を守る」志を持ったサイバー人材の育成へ

 ――防衛省・自衛隊で働くサイバー人材に望むことは。

 「防衛省・自衛隊でなければ経験できない仕事がますます増えていく。サイバー空間の安全を守る指揮官も必要になる。専門的な知識はもとより、国を守るという志を持った人材に来てほしい。そして、そうした人材を育成するためにも、さまざまな支援をしていきたい」

プロフィール 
しまだ・かずひさ 昭和37年、神奈川県生まれ。61歳。慶応大法学部卒。60年、旧防衛庁に入庁。調査課長、防衛政策課長、地方協力局次長などを経て平成24年から令和元年まで第2次安倍内閣で首相秘書官。防衛省で官房長、事務次官を務めた。令和4年7月に退任し、防衛省顧問や内閣官房参与に就いていた。現在はみずほ銀行顧問


This article is a sponsored article by
''.