【2023年1月13日(金)2面】 

中国

「台湾有事は日本有事」

台湾統一へ向けて軍事力増強を継続

 ――中国の話に戻ります。では、中国の今をどうとらえていますか。

 岩田氏 「中台紛争の生起の可能性は非常に高いと思います。習近平主席は毛沢東を超えようとしている。毛沢東は国を作りましたけど、それを超えるということは台湾統一。ここに向けて、習氏は軍事力の増強拡大を継続するとともに、ペロシ米下院議長の訪台に合わせて、台湾侵攻を模擬した重要軍事演習や、中間線を越えた戦闘機の行動を常態化させるなど、緊張状態をさらに高めています。アメリカは2027年までに台湾侵攻があり得るとみていましたが、もっと早くなる可能性があると、ブリンケン国務長官や海軍トップのギルディ大将が警鐘を鳴らしています。『台湾有事は日本有事』です。与那国島と石垣島上空は戦闘地域になります。島民の保護や、台湾在住の邦人救出、台湾の避難民の対応が大きな課題になります」

中台紛争の生起、可能性高い

 ――いざという時、2つの島ではどんな状況が考えられますか。

 岩田氏 「与那国、石垣の上空を含めた台湾周辺空域には、制空権を取ろうとする中国戦闘機と、これを阻止しようとする台湾空軍機の戦闘が生起します。もちろん、そこに航空自衛隊の戦闘機が領空侵犯対応に出てくるので、与那国、石垣島上空は3カ国の戦闘機が対峙たいじする空域になります。与那国の1700人と石垣および宮古島も含めた約10万人をどう避難してもらうのかが重要です。法的には国民保護法があり、有事になると国としての統制も可能となりますが、有事になってからでは避難が間に合わないと思います。国民保護法を改正するのか、あるいは現行法の中で可能な対策を講じるのか、検討を急ぐべきです。中国から見て、先島諸島は、軍事的にも重要で、その無力化を図ることは、台湾侵攻の成否にも影響します。軍事に頼らずとも、島の電力と通信を止めれば、それで身動きの取れない孤島になります」

 ――日本への影響は先島諸島以外にも及ぶのでは。

 岩田氏 「米軍の参戦を阻止・遅延させたい中国は、日本の対米軍支援を妨害してくるでしょう。サイバー攻撃、破壊工作、フェイクニュース、経済恫喝どうかつ、そして核恫喝。最後は、日本国内の政権中枢、重要インフラへのミサイル攻撃の可能性も否定できません」

北朝鮮

金正恩体制を存続させるため核を所有

 ――北朝鮮問題に移ります。北朝鮮は現在、何を目指していると思われますか。

 岩田氏 「金正恩の思惑は、アメリカ全土に届く核ミサイルを持って、アメリカと交渉できる戦力を持つことにある。2016年から17年の2年間、中距離弾道ミサイルの射程を延伸し、在日米軍基地、次いでグアム、さらにアメリカの首都ワシントンまで届くミサイルの発射試験を継続しました。同時に核弾頭の小型化を図るため、これまでに核実験を6回実施し、既に核攻撃できる能力を保持したとされています。金正恩体制を存続させるための交渉力は核しかないと思っており、その核戦力の強化と投射手段の多様化を計画的にやってきているのです」

画像: 金正恩体制を存続させるため核を所有

 ――日本はどう立ち向かうべきなのでしょうか。

 岩田氏 「やはり、反撃能力の保有です。日本に攻撃しようとしたら、そのコストに見合わないほどの痛手を伴う、というわが国の意志と能力を示すことが重要です」

 ――その反撃能力については、タイミングや先制攻撃とならないことなどの難しさが指摘されています。

 岩田氏 「わが国から先に攻撃というのはないでしょう。手順的なイメージとしては、もし、相手からミサイル攻撃を受けた場合、最初のミサイル攻撃を、能力を向上させたわが国のミサイル防衛網により迎撃しつつ、相手からの次なるミサイル攻撃をさせないため、わが国から有効な反撃を相手に加えるという形態を、政府は念頭に置いていると理解しています」

安保3文書

反撃能力保有は脅威認識の表れ

 ――改めてですが、昨年12月16日に改定された国家安全保障戦略などの安保3文書について、どのような感想を持っていますか。

 岩田氏 「増大する中国の脅威に対し、政府が深刻な危機感を持った証左。わが国の防衛政策上、戦後最大の転換となるもので、歴史的に評価したいと思います。特徴的に言えば、脅威対抗の防衛力をさらに強化したことです。相手の持つ能力に着目して、これに確実に対抗する、という戦略と意志を鮮明にしたことです。その具体策が、反撃能力の保有です。また、反撃能力として、国産のミサイル開発と同時に、外国製のミサイル(トマホーク)を保有しようとしていることは、一年でも早く反撃能力を持つ必要性に迫られているという脅威認識の表れだと思います」

 ――反撃能力の保有で、日本が「矛」の一部を持つことになるとされています。

 岩田氏 「これまで矛の全てをアメリカに頼っていた状況から、一部とはいえ、反撃能力を持つことは、独立国として当然のことだと思います。ただ、真の反撃能力を持つためには、相手国の攻撃兆候や、反撃目標を特定するとともに、反撃成果を評価するための情報収集力、そして陸海空から発射される長射程ミサイルを統制して目標に誘導・命中させる指揮統制力、さらにこれら一連の行動を指揮・統制する常設統合司令部の創設は不可欠です。また、日本一国でこれだけの能力を持つことは無理があり、やはりアメリカとの連携が欠かせません。速やかにアメリカの戦略・作戦との整合を図り、具体化を急ぐことが重要です」

国の総力で戦争を抑止

 ――3文書では、国の防衛は自衛隊だけでなく、国家全体が担い手になることを指摘しています。

 岩田氏 「サイバー対応力や宇宙空間の活用、技術力、情報力、公共インフラ機能の強化、そして国民保護に加えて在外邦人の保護、さらにはエネルギーや食糧安全保障という、国全体の機能を強化しようという戦略です。ウクライナの教訓が反映されていると思います。ウクライナでは、政治・経済・社会、サイバーや宇宙を始め国家全体の機能が狙われ、そして電力も水道も破壊された。そこに従事している民間人も犠牲者になっている。国の機能全てが攻撃対象となる以上、総合的に強化していかないといけない。自衛隊だけでは国を守れない時代になった。それを国家安全保障戦略において明確にしたことは大きな意義があると思います」

防衛力の抜本的強化に向けて
7項目の早期具現化を

 ――3文書や昨年末の令和5年度予算案でも根幹となっている「防衛力の抜本的強化」に欠かせないことは。

 岩田氏 「具現するためには、真に戦える防衛力の構築が重要。国家防衛戦略にも明示されている7項目(スタンド・オフ防衛能力、統合防空ミサイル防衛能力、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能、機動展開能力・国民保護、持続性・強靭性)の具体化を急ぐことが重要。われわれには残された時間があまりない、という認識に立ち、成し得ることをできるだけ早く具現することが欠かせません」

国民を守り抜く自衛隊に

 ――現役を離れた今だからこそ考える自衛隊の存在意義、価値などについてお話しください。

 岩田氏 「国家の条件は、領土・領海・領空・国民、そしてそれを統治する主権とされています。人が住んでいる領土、その人たち多数が支持する統治制度、政治機構、文化・言語、そういったものを全て含んだ、その人たちが認めた主権というものを継承することが大事なんですね。領土・領海があっても人がいなければ成り立たない。国家の根源は人なんです。領土・領海・領空はもちろんですが、人を守ることこそが自衛隊の究極の使命なんです。台湾有事においても、先島諸島の領土を守ると同時に、約10万人の島民をどう守り抜くか。中国大陸の約11万人、台湾の約2万5000人をどうやって守りきるのかが問われています」

大事なのは‥
「必ず守ってみせる」
と言える実力をつけること

 ――今こそ現役の隊員たちに伝えたいことは。

 岩田氏 「大事なのは、『本当に国を守れるのか、戦いに勝てるのか』ということが問われていると思います。世論調査では、災害派遣に対する評価が高い結果となっていますが、それはそれで大事な役割です。しかし、自衛隊の第一義の役割ではない。『中国の脅威から国を守れるか』と問われたときに、必ず守ってみせる、と言える実力をつけることが最も重要なことです。そのためには、さらに訓練を積み重ねることが重要。ロシア軍を見ていてもそうですが、平時の厳しい訓練なくして、有事に役立つことはありません」

 ――最後に、自衛隊のイメージはどうあるべきでしょうか。

 岩田氏 「国民に対する最大の優しさは強いことです。国家最悪の事態においても、絶対に国民を守り抜けるということ。強靱(きょうじん)な自衛隊になるために、努力しようとする姿を見てもらい、頼もしい自衛隊だというイメージを持ってもらうことが大事です。頼もしい自衛隊、本当に国を守ってくれる自衛隊、それを裏返せば、優しい自衛隊です」

プロフィル

 岩田 清文氏(いわた・きよふみ) 昭和32年、徳島県生まれ。防衛大学校(電気工学)を卒業後、54年、陸上自衛隊に入隊。戦車部隊勤務などを経て、米陸軍指揮幕僚大学(カンザス州)で学ぶ。71戦車連隊長、陸幕人事部長、7師団長、統合幕僚副長、北部方面総監などを経て平成25年、第34代陸上幕僚長に就任。28年に退官。著書は『中国、日本侵攻のリアル』(飛鳥新社)、『君たち、中国に勝てるのか』共著(産経新聞出版)など。

画像2: 防衛政策、戦後最大の転換 具体化待ったなし|岩田清文氏インタビュー

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