【2022年10月21日(金)1面】
9月7日。飛知和(ひちわ)寿行(としゆき)1陸曹は、埼玉地本朝霞地域事務所(所長・澤谷3陸佐)で一般曹候補生の受験を翌週に控えた対象者への「模擬面接」に臨んでいた。対象者は、通信制大学1年生の19歳の男性。「災害派遣など人を助ける仕事がしたい。苦しんでいる人を一人でも多く笑顔にできれば」と陸自の衛生科を志望。入隊後も通信制の大学を続けるという。
地本に連絡した際、飛知和1曹が朝霞駐の見学を提案した。駐屯地を案内され、さまざまな説明を受け、「自衛官になりたいという気持ちを後押ししてくれた」と話す。
模擬面接中、緊張していた男性は、「面接でのあいさつの仕方や動作も、飛知和1曹が手本を示してくれたので、分かりやすかった」と安堵(あんど)の表情を見せた。
空挺団で培った経験を伝えていきたい
広報官に着任して今年で4年目。陸上総隊直轄の精鋭部隊である1空挺団出身という、肉体派の広報官だ。新隊員前期教育の班長、後期教育では先任助教曹長も務めた。新隊員と接するうちに、彼らがどのような経緯で入隊したのか興味を持った。「空挺団で培った自身の経験を、志願者にしっかり伝えていきたい」。そう思い、広報官を志願した。
新隊員と接する機会も多く、面倒見の良い性格。「訓練一筋でやってきた空挺団とは全く違う環境だが、それが良い経験になっている。志願者の相談に乗る業務は自分に合っていて楽しい」と振り返る。運動部所属で体力に自信のある志願者の中には、空挺団に憧れを抱く者もいる。そんな時は、「自身の経験を基に専門的なアドバイスができて良かった」と手応えを感じた。
模擬面接では、受験予定者の家族構成や趣味など、試験対策以外のことも聞き出す。「志願者が試験に合格したら終わり、ではありません。入隊までしっかりとフォローできるよう、なるべく多くの情報を集めたい。そのための時間は惜しまない」と、先を見据えた狙いがあった。
一方で、入隊した隊員に連絡することは少ないという。「入隊後に頼るべきは班長ら直属の上司」というこだわりがある。
一人でも多く志願者を獲得し、恩返しを
埼玉県越谷市出身。朝霞所は自身が入隊に至った思い出の場所でもある。「今は一人でも多くの志願者を獲得することが、自分を育ててくれた空挺団と朝霞所への恩返しになる」と忠誠心に厚い。
飛知和1曹の地道な募集業務が実り、令和3年度は目標を上回る成果を上げ、優秀広報官を受賞。朝霞所も3年度の募集成果に対し、埼玉地本から褒賞状を授与された。
澤谷所長は、飛知和1曹の仕事ぶりについて、「どんな業務でも積極的に取り組む姿勢やスケジュール管理など、どれをとっても素晴らしい。『これぞ自衛官』と呼べる人材」と胸を張る。
広報官が年間に対応する募集対象者の数は、一人当たり100人を超える。「広報官から見たら100人のうちの一人かもしれないが、志願者は一人ひとりが人生を左右する重大な選択。一人もおろそかにはできない」(澤谷所長)
志願者が受験に至らないケースは多々あり、合格しても進学やほかの企業を選択する場合もある。飛知和1曹はいう。
「別の道に進む人にも、いつか振り返った時に『あの時、相談して良かったな』と、自衛隊に良い印象を持ってもらえたら」
―飛知和1曹からのMessage 「志願者が試験に合格したら終わり、ではありません。入隊までしっかりとフォローできるよう、なるべく多くの情報を集めたい。そのための時間は惜しまない」