某日、私はほぼ白紙のWordと睨み合っていました。

 こういうのは珍しくありません。なんだかんだ言いつつ、毎週迷い悩み、ウンウン唸ったりしながら書いている記事なのです。
 とはいえすんなり書ける時だってあります。そういう時はたいていテーマがはっきりしていたりだとか、書きたいことがもう決まっている時だとか、これだ!って本が見つかった時だとか。

 そして今回のテーマも正直悩んでいました。中国という大きな国で起こったこと、満州という傀儡国家、そして色々と言及されることの多い関東軍。
 下準備という意味で、あまりにも情報処理の量が多すぎる。というか捌ききれる気がしない。
 本のジャンルもテーマで集められてはいるけれど、日中戦争、兵士から見た戦争、日本人がしてきたこと、小説と細分化すると幅が広い。
 そしてなんとなく触れにくい話題も多々ある。できればそれは避けたい……でも避けるのは本当に正しいことなのか……言葉を間違えるくらいなら言わない方がマシなのでは……?正しさとは……間違いとは……あれ私何について考えてるんだ今……?

 と、まあこういう感じで毎回コラムに向き合っています。あまりにも重すぎないか?自分でも若干思う。
 そういうわけで今回は大陸が如く広大な「中国・満州・関東軍」の中の、知っているようで知らない場所にスポットライトを当てたいと思います。

秘匿部隊名「731部隊」

 皆さんは「731部隊」をご存じでしょうか。

 正式名称は関東軍防疫給水部本部。名前の通り部隊の給水活動や伝染病の予防などといった、衛生面での活動を行っていました。……案外、こっちの話を知らない人も多いのではないでしょうか。
 しかしこの部隊にはもうひとつの顔がありました。それが生物兵器や毒ガスの研究・開発、その実験的使用や人体実験を行っていたという面です。その内容はかなりの非人道的。なおかつ当事者たちは裁かれることもないまま、この事実自体長らく歴史の中に葬られてきたのです。

 ところがこの部隊の名前を一躍有名にしたのが、森村誠一の「悪魔の飽食」シリーズ。今まで明るみに出ていなかった731部隊を取り扱ったことで、かなりのベストセラーとなりました。しかしその信憑性については少し首をひねる所が多く、二巻に731部隊とは関係ない検死写真やペスト流行の際の写真が掲載されていたことで絶版となり、やがて改定された新版が発売されるなど何かと色々ある作品でもあります。(余談ですが手元にある「続・悪魔の飽食」、光文社の初版なので多分該当の写真も紛れてます。どれだろう……)

 とはいえ731部隊の事を知るのに読んでいるのと読んでいないのとでは大違い。ということで改めてこちらのシリーズをご紹介します。

画像: 秘匿部隊名「731部隊」

「悪魔の飽食」(著:森村誠一)

 そもそも森村氏が執筆していた「死の器」という作品にかの部隊を出したことがスタートでした。その際「あの部隊はこんなものではない。実態を知りたかったら協力する」といったお手紙が届き、本格的に731部隊の取材をすることとなったのだそうです。

 その実験内容の詳細や「マルタ」と呼ばれた人々についての記載だけではなく、細菌工場の地図や豊富な写真などといった目で見る資料も多く使用されています。
 今回テーマとして取り上げたものの、何度本を置いたことか。そのぐらい陰惨で生々しく、「よくもまあ人が人にこんなことできるよな」という内容がどんどん出てきます。

 戦争は人間から人間性を剥奪するものとは以前どこかで読んで記述ですが、理系であったこの731部隊に関しては「限りなく削がれた人間性に冷静さはそのまま」という雰囲気なので特異を通り越してむしろ怖いものを感じます。

 読み終わるのに体力がいるし、すべての人に勧められる本ではありません。

 しかし知ることで一層、「戦争をしてはいけない」「繰り返してはいけない」ということを実感できるのではないでしょうか。真実を問うことが難しい問題ではありますが、少しでも気になる、と思ったら読んでみることをオススメします。
 ちなみに一巻では実験内容をメインに、「続・悪魔の飽食 『関東軍石井細菌戦部隊 謎の戦後史」では戦後の彼らの足取りとその周辺、「悪魔の飽食 第三部」では今まで語られることのなかった被害者のサイドから見たものになっています。
 三部作を読んで、まずは731部隊についての知見を深めてみるのはいかがでしょうか。

「【証言】七三一石井部隊 今、初めて明かす女子隊員の記録」(著:郡司洋子)

 まず、作者の郡司さんの経歴がかなり特異。旦那さんに731部隊の隊員さんを持ち、その後731部隊の指揮官であった石井部隊長の私設司書として行動する、という個人としてはかなり731部隊に関わった人による記録です。

 戦後、ずっと沈黙してきた関係者たち。しかしある日見た731部隊に関する本において、関係者は「悪魔」と呼ばれていました。この違和感をどうにかしたいーーーそんな一心で、今まで秘匿してきたものを語りだそうと決めた著者による書です。

 当たり前の事ですが、戦争をやるのは人間以外にいません。人間は一口に善悪と言いきれない性質を持っていますが、この郡司さんのいた場所もまた然り。傍から見れば悪魔の実験室でも、内側から見れば優しい人も温かい人もいる場所である―――――「731部隊」について知るにはこの本は必要不可欠です。
 詳細な内部事情と、そこにいた人にしかわからない視点とその真情。他の本では味わうことのできない世界がここにああるのです。

 さて、今回はシリーズをひとつ、単体で読めるものをひとつ紹介させていただきました。

 731部隊に関連する本はまだまだ他にもたくさんあります。ただひとつだけ言いたいのは、調べるのなら一種類だけ読むのではなく、複数の本から情報を得、考えてほしいということ。難しい話ではあるのですが、語るのを憚ってしまうのはやはり間違っているのではないかと思うのです。
 日本人が何をしてきたか、何をされたのかで終わるのではなく、その先にこそ「戦争を語り継ぐこと」の本質があると思う店番なのでした。

アクセス

画像2: 永遠の図書室通信 第43話「中国・満州・関東軍」

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