自衛隊のメンタルヘルスの取り組み
提言の主な内容は、(1)指揮官を含む全隊員への啓発教育(2)カウンセリング体制の充実(3)地区病院のメンタルヘルスセンター機能の保有(4)緊急事態を経験した人々がトラウマ(心的外傷)から生じる影響を可能な限り和らげるために行うグループを対象としたアプローチ「ディブリーフィング」の研究・導入(5)自殺事故のアフタケア(6)いじめ、セクハラ相談体制の整備-などだ。
令和3年版を見ると、ストレスやハラスメントなどについては、「人的基盤の強化」の項目で紹介している。
その中で、「防衛力の中核は隊員であり、自衛隊が組織力を発揮し、さまざまな事態にしっかりと対応していくためには、隊員が士気高く安心して働ける環境を構築する必要がある」とした上で、「パワー・ハラスメントやいじめは、隊員の人格・人権を損ない、自殺事故にもつながる行為であり、周囲の勤務環境にも影響を及ぼす大きな問題である」と記している。
自衛隊員の自殺者数は、平成16年度から18年度は100人以上だったが、19年度以降は緩やかな減少傾向にある。しかし、白書では「依然として年間60人以上の貴重な隊員の命が自殺により失われていることは、組織にとって多大な損失であるとともに、ご家族にとっても大変痛ましいことである」と説明している。
また、パワー・ハラスメント対策の一環として、平成28年度に人事教育局服務管理官付に「防衛省パワハラホットライン」を常設し、隊員からの相談に対応している。その相談件数は、29年度が140件、30年度が252件、令和元年度が519件、2年度が1010件と、年々倍増している。
白書では、パワー・ハラスメントなどの問題を解消していくため、(1)隊員の啓発・意識の向上のための集合教育・e-ラーニング(2)隊員(特に管理職)の理解促進・指導能力向上のための教育(3)相談体制の改善・強化などの施策―を行っている。
また、暴行、傷害およびパワー・ハラスメントなどの規律違反の根絶を図るため、令和2年3月から懲戒処分の基準を厳罰化したほか、同年度から第三者である弁護士によるハラスメント相談窓口を設置した。
コロナ対応メンタルヘルス教訓事項とは
自衛隊中央病院メンタルサポートセンターでは、「コロナ対応メンタルヘルス教訓事項」=表参照=をまとめて共有している。どの組織にも通じるその内容を紹介する。
京都地本宇治地域事務所では心理幹部の所長が活躍
京都地本ホームページの人気コーナー「京都自衛隊特集 輝く人」には、同地本宇治地域事務所長の河村3陸佐が登場している。
河村所長は臨床心理士と公認心理師の両方の資格を持つ。大学で学んだ心理学を生かしたいと考えていたところ、「自衛隊は自己完結型の組織だから、どんな仕事でもありますよ」という広報官の言葉に後押しされ、入隊を決意したという。
河村所長は、入隊後、夜間の大学院や各種講座に通って資格を取得。その後は、自衛隊内での学校や部隊などでメンタルヘルス教育やカウンセリングを行い、学生や隊員が心身ともに健康で勤務できるような対策を考える仕事をしていた。
また、宇治所では心理学を専攻する大学生に対する説明会、自衛官を目指す受験者らへの勉強会などを実施。今年度も、河村所長が自らの経験などを話す様子を投稿してくれた。
<防衛日報 2021年9月10日(金)2面>
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【特集】自衛隊員のメンタルヘルスを考える
①「臨床心理士全国参加集合訓練」から
② 東方総監部作成ハンドブックから
▷③「防衛白書から」