約1カ月半にわたって続いてきた戦地シリーズも今回で終了となります。
前回まで紹介してきたのは戦地として有名な場所ですが、もちろんそれらだけが戦地だったわけではありません。ほかにも様々な場所で火の手があがり、血が流れてきました。
戦地となった太平洋諸国
今回は早速棚を見ていきましょう。まず最初に紹介するのがこちらの本。
「太平洋海戦シリーズ」(著 佐藤和正)
「Ⅰ 進攻篇」、「Ⅱ 激闘篇」、「Ⅲ 決戦篇」の全三巻。
この本は凄いですよ。もちろんその一冊の分厚さからもわかると思うのですが、この本では第二次世界大戦において起こった39の海戦について、全て網羅しています。
また戦いそのものだけではなく、その背景も併せて記されているのもポイント。図や地図、写真も交えて解説されているので、文章も相まってわかりやすく、かつ詳細に第二次世界大戦においての日本海軍のことについて知ることのできるシリーズです。
たくさんの艦隊、飛行機、そして人間の関わった「海戦」。全体を見渡せるので、入門書としても良いのではないでしょうか。
次に紹介するのはこちら。
「ハルマヘラ・メモリー」(著 池部良)
俳優としても有名な著者が綴る戦争体験。「ハルマヘラ」はインドネシアにある島の名前ですね。
中国にいた著者はある日、生々しい戦争体験記です。
しかし戦争体験記といっても、戦地で起こった戦いばかりが戦争ではありません。そこに至るまでの軍隊生活もまた「戦争」のひとつ。集団というのは纏まると強いものですが、それを構成するのは人間一人ひとりです。思考も違えば思想も違い、その中には当たり前のように陰湿なものや差別、今以上に激しい上下関係や学歴差、暴力などがまかり通っているのです。読んでいて一体何度「ええ……」と声を出したことか。
とはいえ文章も読みやすく、かつ「戦争についての本を読みたいけど、あまりひどい描写のある作品はちょっと……」という方にもお勧めしたい一冊です。
次に紹介する本はこちら。
「アラフラの海まばゆかり」(著 平井洋)
さて、この本実は非売品です。貰い物なのか、人づてに渡って来たのか。ルーツは不明ではありますが、手に入りにくい本がこの場所にある、というのはなんとも不思議で、縁のようなものを感じます。
本そのものの紹介に入る前に、ちょっとだけ脱線して装丁を褒めさせてください。
まずこの綺麗な水色の地に、金色で箔押ししているというのが良いですね。カタカナ・漢字・ひらがなで構成されたタイトルと「まばゆかり」の品の良さを金色が際立たせています。また本文は印刷機によるものなのか、文章を指でなぞると確かに凹凸があることに気づきます。最初のページを開いた瞬間の紙の匂いも良い。いやあ、いいですね。個人的に永遠の図書室においての「好きな印刷ランキング」があったら断トツ一位にしてしまいたいくらいです。
さて長々と脱線してしまったところで本編。この本は著者の南方での戦争体験記なのですが、体験と体験の間に戦時中に著者が作った俳句が書かれています。これがまた文章の凹凸に合っており、アクセントになっています。
以前「軍歌・用語・和歌・用語」回にて「うたは時世を映す」という話をしましたが本当にその通りで、文章でその背景の輪郭を瞼の裏に浮かばせて、俳句が色を付けていく、といった印象を持つ本です。戦地にも色々あるように、体験も人それぞれなのだとしみじみ感じる作品でした。
最後に紹介するのはこちら。
「南方戦線」(編 読売新聞大阪社会部)
「新聞記者が語りつぐ戦争」シリーズの第二巻。ちなみにこのシリーズは全十五巻となっており、終戦前夜や特攻、引き揚げや報道班員などにも触れています。
この本を取り扱おうと思ったきっかけが文章内にあったのでご紹介。
戦争とは、いつまでも消えることのない傷痕である。ある意味では、いまさら触れてほしくない傷痕である。
その傷痕を、わたしたちはさぐり、触れていく。傷口を舐めて少しでも痛みをやわらげたいという気持もある。しかしそれ以上に、その痛さを伝えることが大事だと思うからである。
きっと、本来あるべき報道のかたちというのは、こういう真摯な姿勢を言うのだと思います。「報道」という面から見ると、この二巻の中で気になるのが「大本営記者」というエピソード。元・大本営陸軍部担当記者が語る当時の記録は、虚報がどのように報じられたかが記されており、奇しくも前述した「報道とは?」ということについて考えさせられてしまいます。他にも記者の目から見たサイパン、以前も取り上げた白骨街道やガ島の話が、それぞれ個人の目から語られていきます。
「南方戦線」に関しては、どのエピソードも心臓がずきりと痛むようなやりきれなさを含んでいます。しかし、戦争という確かに存在する過去に真摯に触れる記者たちの姿勢のおかげで、悲惨なだけではなくなっているのがこの本の魅力だと私は思います。
最後に、これは紹介しておきたいと思わされた記述を抜粋して、今回のコラムを〆る事とします。
「戦場というのは、日常の論理、倫理を超えたところにあるものです。人を殺してはいけないという人間社会の普遍的な倫理を超えたところで、人間がうごめくんです。」
「むろん、戦争をやるのは人間なんですが、人間を離れて、戦争そのものが一人歩きしてしまうんです。人間を殺せ、というのが第一命題なんですよ。」
「殺さなければ、殺される。銃を人に向けず、空に向けろ、というのは美しい言葉です。しかし、敵に銃を向けなければ、間接的に、味方の人間を殺すことになってしまうんです。戦争は、きれいごとではないんです。」
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