東京2020 オリンピックで、自衛隊体育学校所属の選手たちがメダルを獲得した。

 7月29日の柔道女子78キロ級で初出場の濱田尚里1陸尉が初戦から4試合すべて一本勝ちで金メダルに輝いた。翌30日には、フェンシング男子エペ団体でエースの山田優2陸尉を擁する日本チームが、決勝でROC(ロシア・オリンピック委員会)を下し、日本フェンシング界初の頂点に輝いた。

 8月7日に行われたレスリング・男子フリースタイル65キロ級決勝に臨んだ乙黒拓斗2陸曹は、初戦から持ち前の高速タックルを発揮。決勝でも、アゼルバイジャンの選手を接戦の末、下し、初出場で金メダルを獲得した。レスリングの日本男子の金メダルは、2012ロンドン大会の米満達弘選手(自体校)以来。同4日のボクシング・女子フライ級では、並木月海3陸曹が、小柄な体から繰り出す破壊力あるパンチで銅メダルに輝いた。

柔道 女子78キロ級 金メダル
濱田 尚里 1陸尉

画像: 柔道 女子78キロ級 金メダル 濱田 尚里 1陸尉

 「絶対、金メダルを取る」。強い気持ちで臨んだ決勝。濱田1尉はM・マロンガ選手(フランス)に対しても、ひるまず寝技で抑え込んだ。開始1分9秒。崩れ四方固めの圧勝だった。

 2回戦。合わせ技で一本勝ちすると、準々決勝は技ありを奪った後、そのまま送り襟締めで一本勝ち。準決勝では腕ひしぎ十字固めで一蹴するなど、「世界屈指の寝技師」と呼ばれたその技術を遺憾なく発揮した。全4戦の試合時間は計7分42秒。圧勝だった。

 金メダルを決めた後のインタビューでは、「一戦一戦集中して戦った。寝技は狙っていた。(寝技で)勝ててよかった」と笑顔と涙を見せた。

 山梨学院大時代、寝技や関節技を軸とするロシアの格闘技「サンボ」を学んだことで寝技が大きな武器となった。2018年の世界選手権で元世界チャンピオンや世界ランク1位を次々に撃破して金メダルを獲得すると、その後の国際大会でも頂点に立ち、東京五輪の切符を手にした。

 もちろん、寝技だけでは世界では勝てない。

 その前段となる立ち技の稽古にも時間を費やした。防衛省のホームページでも、濱田1尉はこんなコメントを出していた。

 「得意の寝技と強化した立ち技を駆使して、金メダル獲得を目指します」。約束通りの結果を出した。

 濱田1尉は防衛日報社が今年2月、自衛隊体育学校所属の主な東京五輪内定者に聞いた企画「挑戦者」に登場、「華麗な一本に注目して楽しんでもらいたい」と自信をのぞかせていた(写真、2月18日付)。

 世界選手権を制したこともあり、東京五輪に向けた周囲の期待は大きくなっていた。このことについて濱田1尉は「一戦一戦をしっかりと勝ち上がり、金メダルを獲得できるように頑張る」と意欲を見せた。「一戦一戦…」こそまさに、本番で栄冠を勝ち取った後のインタビューでも口にした言葉でもあった。

 そこにあるのは、「一瞬で勝負が決まることもあれば、最後の1秒まで勝負の行方が分からないのが柔道。想定外のことにも対応できるように、日頃からの準備を大切にしている」。そこには、自衛官としても通じる気持ちもまた、ある。

 所属する体校について、濱田1尉は「施設や環境が整っていて、思い切り競技に専念できる。職員の方々も選手のことをいつも応援、サポートしてくれる。とても温かい雰囲気です。少しでも恩返しができるよう金メダルを獲得し、いい報告をしたい」と答えていた。その「決意と約束」を見事に果たしてくれた。

フェンシング 男子エペ団体 金メダル
山田 優 2陸尉

画像: フェンシング 男子エペ団体 金メダル 山田 優 2陸尉

 日本フェンシグ界の歴史を塗り替えた日本代表チーム。4選手の中では最高ランクである世界4位のエース、山田2陸尉は、歓喜の中で喜びを爆発させた。

 日本の快進撃を支えた。準々決勝で4連覇を狙った世界ランク1位のフランスを破り、準決勝では韓国を下した。そして、迎えた決勝。重要なトップバッターを務めた山田2尉は、5-4で勝ち点をリード。チームに勢いをつけ、栄冠に結び付けた。「最初、勢いをつけられたら、絶対勝てると信じていた。その勢いに乗って優勝できて、本当にうれしい」

 2019年にアジア大会で優勝し、全日本でも個人・団体で頂点に立った。昨年3月には、グランプリ・ハンガリー大会を制した。

 妻もフェンシングの元日本代表選手だった。19年に日本代表をはずれたことなどから現役を引退し、その後は夫を支え続けてきた。だからこそ、「妻の分も…」。そんな思いもあった。

 代表チームでは、ムードメーカー的な存在。プレースタイルも「楽しく」がモットーだ。防衛省のホームページでは「つかんだチャンスを自分らしく、精一杯プレーする」とコメントしていた。

 金メダル獲得後、ほかの選手とともにとびっきりの笑顔を見せた山田2尉。「楽しく」、そして「自分らしく」こそ、真骨頂といえる言葉だった。

 三重県出身の山田2尉は本番前の6月、母校の三重県立鳥羽高校と自衛隊三重地本を相次いで訪問した。母校では、後輩たちに楽しむことの大切さを伝えた。その内容は、防衛日報の紙面(写真、7月2日付)でも紹介している。

 「鳥羽高校の生徒が得意とする『楽しむ』ということは、社会に出ても通用します。どんなときでも楽しむことができれば、きっと成長できます。まずは、自分なりの楽しさを見つける。そうすれば、社会での『いい過ごし方』ができる。社会に出ても『楽しむこと』を忘れないでください」

 一方、三重地本を表敬訪問したのは、「明るい話題で地域を元気にしたい」という思いからだった。

 懇談の中で「座右の銘」を聞かれた山田2尉は「『好きこそが、すべて』」と答えた。

 その理由として、(フェンシングが)好きだからこそ続けられ、好きだからこそ楽しめてきました。好きになってやってきたから今の成長があります」と、自身を成長させてくれた言葉について、熱く語っていた。

 アスリートとしてさまざまな経験を重ね、世界の頂点に立った山田2尉。「楽しむ」というスポーツ競技の原点ともいえる言葉を見事に体現して

レスリング 男子フリースタイル65キロ級 金メダル
乙黒 拓斗 2陸曹

画像: レスリング 男子フリースタイル65キロ級 金メダル 乙黒 拓斗 2陸曹

 決勝。序盤からタックルを決め、リードを守った。乙黒2曹は、2016リオデジャネイロ五輪銅のハジ・アリエフ選手(アゼルバイジャン)を5-4で破り、初出場で頂点に立った。

 持ち味のスピードを生かした攻撃的なレスリング。乙黒2曹は、夢の舞台でもその実力を遺憾なく発揮した。

 とくに、準決勝のガジムラド・ラシドフ選手(ROC=ロシア・オリンピック委員会)は、2年前の世界選手権で敗れている相手。現世界ランク1位の宿敵を五輪本番で圧倒した。

 「兄とともに、金メダル獲得を目指します」

 防衛省のホームページに掲載された乙黒2曹の「五輪の抱負」だった。しかし、同じ自衛隊体育学校所属の兄・圭祐3陸尉は8月5日の初戦、フリー74キロ級に出場したが、惜しくも敗退。兄弟の夢はかなわなかった。

 だからこそ、「兄の分まで」と気持ちを入れ替え、強い気持ちで臨んだ五輪の闘いでもあった。

 試合後、乙黒2曹は「自分が全力を出して、兄の借りを返したいと思って頑張った」と、兄のリベンジを果たした喜びを語った。弟の大一番をスタンドで見つめた兄もまた勝利の瞬間、涙を見せ、周囲の関係者と抱き合った。

 兄の後を追い続けたレスリング人生だった。スパーリングの相手はいつも兄だった。

 小学校時代から天才の呼び声が高かった。19歳で出場した2018年の世界選手権で初出場、初優勝。日本男子選手の史上最年少記録となる19歳10カ月での達成だった。

 しかし、世界の強豪たちは黙ってはいなかった。乙黒2曹は徹底的に研究され、翌19年の世界選手権は5位に終わった。栄光から一気に挫折を経験した。

 これが乙黒2曹の気持ちに火を付け、自らも研究を続けた。19年の全日本を制し、東京五輪の切符を手にした。20年のアジア選手権では金メダルを獲得した。乙黒2曹は「苦しいことが多かったが、周囲のサポートのお陰で少しずつ前に進めた」と振り返った。

 五輪では優勝候補の一人。プレッシャーは計り知れなかったという。

 何よりも、男子のフリーはここまで、日本選手のメダル獲得がゼロ。日本男子の希望、夢が乙黒2曹にすべて託された。

 そんな中で、難敵を次々と撃破して栄冠を手繰り寄せた。フリーの日本男子陣を救った乙黒2曹。「夢をかなえられて、すごくうれしい」と

ボクシング 女子フライ級 銅メダル
並木 月海 3陸曹

画像: ボクシング 女子フライ級 銅メダル 並木 月海 3陸曹

 並木3曹は悔しさをにじませていた。小柄でリーチが短い。周囲の不安の声を吹き飛ばしたかった。「金メダルを取れるってところを見せたかった。世界に私のボクシングを認めさせたかった」。大柄な外国人選手に立ち向かい、表彰台に上り詰めた。十分、世界に証明してくれたはずだ。

 気持ちの強さと負けず嫌いが並木3曹を支えた。背景には、幼少期から始めた空手があり、小学校ではキックボクシング、そして、中学2年から本格的にボクシングにのめり込んだ。生活の中には、いつも闘う気持ちがあった。

 高校時代は公式戦無敗。平成29年、練習環境が整った体校に入隊。2018年(平成30)の世界選手権では銅メダルを獲得した。

 並木3曹には、もう一つ強い思いがある。防衛日報社が今年2月、体校所属の五輪内定者たちを取り上げた企画「挑戦者」の中で、「女子ボクシングが少しでも多くの人に興味を持ってもらえるような試合をする」と話していた。最高の舞台で結果を残した。

 次のパリ五輪では、今回の経験を糧にし、新たな挑戦を続ける気持ちを口にした。

 3年後、世界に認めさせ、女子ボクシングをさらに知ってもらいたい。2つの大きな目標を達成させるつもりだ。


 最高の舞台で大輪の花を咲かせた4人の自衛官アスリート。防衛日報紙上でも本番に向けた自信と、体校や応援してくれる人たちへの感謝と約束の言葉を伝えていた。東京2020 オリンピックは8日、17日間の全日程を終了した。

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(再掲)【特集】挑戦者たち ~第1回~|自衛隊体育学校
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(再掲)【特集】挑戦者たち ~第2回~|自衛隊体育学校
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(再掲)【特集】挑戦者たち ~第3回~|自衛隊体育学校
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(再掲)【特集】挑戦者たち ~第4回~|自衛隊体育学校
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自衛隊体育学校
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