はじめに
総合防災コミュニティ「学防 manabou」運営メンバーの生活密着型ママ防災士セイコです。主婦と子どもの視点から考える「普通の暮らしの中の防災」を担当しています。
今回は、6月に投稿しました 【防災コラム】水害避難所に行く? 在宅避難する?
~はじめての水害避難所の一夜(前編)~ の後編として、2019年に私が体験した水害避難所の記録を紹介させていただきます。
※現在のコロナ対策には今回は触れていません。コロナ禍以前の従来の避難所の記録です。ご了承ください。
<前回のあらすじ>ハザードマップでは避難すべき場所に位置する自宅。でも、建物の構造や居住階などの条件を考えると避難はしなくてもよさそう!?
台風や豪雨のたびに、避難するか否か迷うことを繰り返していた我が家ですが、ついに2019年9月8日の令和元年台風15号(令和元年房総半島台風)、在宅組と避難所組、家族二手に分かれて台風の一晩を過ごしてみることにしたのでした。
避難開始に手間取った3つの理由と反省
在宅組:父親と長男(高校生)、次男(中学生)
避難所組:母と娘(小学生)
東日本大震災を機に防災意識が芽生え、備蓄品や避難セットの準備を少しずつ進めてきた私。いよいよ実践のとき!と意気込んだものの、些細ながら無視できない問題が次々と浮上し、準備早々に出鼻を挫かれたのです。
反省①~避難開始のタイミングが遅かった~
私と娘2人で避難所へ行ってみることを決意したのは、避難情報【警戒レベル4】避難勧告※の発令を聞いてからでした。(※ 今年5月から「避難勧告」は廃止され「避難指示」に統一)
【警戒レベル4】の避難情報が発令されたのは午後8時近く。外は暗く、雨が降りだしていました。小柄な母娘2人にとって、雨の降る夜間の避難はなるべく避けたい行動です。
もっと明るく、雨が降り出す前に出発しておきたかったと最初の後悔をしました。【警戒レベル3】高齢者等避難準備※の避難情報が発令は夕方でしたから、その時点で動き出せば良かったのです。(※2021年5月から「高齢者等避難開始」に変更)
私たちは普段でしたら「高齢者等」に直接当てはまる対象ではありませんが、避難行動に困難が生じる恐れがあるなら、【警戒レベル3】の時点で動き出すべきなのです。
反省②~ペットの同行避難を断念~
我が家は猫を2匹飼っています。最寄りの指定避難所はペット同行避難受入れがあるので、持出用のケージや飼育セットなどは準備済み。問題は、だれがどう運ぶのか。
そもそも私の避難計画は、私と子ども3人はいっしょに避難することを前提に準備をしてきました。4人いれば荷物の分散をすることで猫2匹の避難も可能という計画だったのです。
ですが、雨の中を娘と2人きり、猫2匹と一式を運ぶのは難しい。無理と言ってよいでしょう。
今回は、自宅に残る家族に託すことができたので猫の同行避難は諦めましたが、本格的な避難が必要な場合は置いていくことはできません。
子どもたちの成長に伴い、家族の行動がばらばらになっていきますし、同じ家族でも変化があります。避難計画はこまめに丁寧に改訂し続けなくてはならないと痛感しました。
反省③~避難セットの構成ミス~
災害により自宅で生活できなくなった場合のことを考えて、避難所生活についてもそれなりに準備していたつもりだったのですが…。
今回の目的は、私と娘が、ひとまず台風の一晩を安全に過ごすという短期的な避難です。台風通過後に自宅周辺が無事なら帰宅できますし、もし万一、大きな被害がある場合は、危険区域外の親戚宅かホテルに身を寄せるという計画です。
ところが、我が家の避難セットは、基本的に母1人・子3人での避難をイメージしていましたので、2人一晩の避難に見合わない4人分の避難生活用品が詰め込まれていました。
万全なつもりの準備が、かえって重荷になるという、思わぬ落とし穴がありました。
風雨の夜間の子連れの移動ですから、荷物はできるだけコンパクトな方が安全です。水・食料や消耗品などで多すぎるものや、食器類や給水タンクなども不要と判断して家に残しました。
代わりに、今回だからこそ持っていきたいと思ったものを追加したりしているうちに、時間はどんどん流れ、夜更けと台風は刻々と近づいてきます。自分の想像力の甘さにがっかりして、本当にやきもきしました。
自動車で避難所へ!?
結局、避難所の前まで家族の車で送ってもらうことになりました。自動車での避難はそれまで考えたことがなかったのですが、今後、風雨に関わる避難の際は、自動車での輸送も検討に加えるべき移動方法のひとつだと思いました。
高齢者など要援護者の移動やペットの同行避難、物品の運搬は、車なら徒歩よりずっと楽に安全になります。
ただし、あくまでも人や荷物の”一時的”輸送手段としてです。
多くの避難所では、自動車の受け入れがないと思います。避難に困難が生じる人や物品を避難所に輸送した後、自動車を自宅や駐車場に置きに戻り、再び徒歩で避難所へ向かうのです。
往復することになりますが、荷物は運搬済みなので身軽。荷物を身に着けての移動より簡単になるはずです。
とはいえ、いったん危険な地域へ戻ることになりますので、危険が迫ってからの避難では、避けるべきです。台風が本格的に接近する前に完了できる場合に限られるでしょう。
早い時点で避難開始をできるなら、独り暮らしの方もタクシーで避難を手伝ってもらうこともできるのではと思います。実際、高齢者の避難のためにタクシー会社と協定を結ぶ地域もあるようです。
以上、3つの反省点で共通したのは、
避難情報(警戒レベル)に関わらず、早めに避難行動を開始すべき
という点です。
避難所での一晩
我が家の近くで開設された水害避難所は3か所。私たちは地震の時の指定避難所にもなっている小学校体育館に避難することにしました。娘も私も通い慣れている学校です。到着すると、初めてお顔を見る市の職員さんが、やさしく迎え入れてくれました。
開設からだいぶ時間も経っていましたが、体育館には私たちの母娘のほかに誰も来ていませんでした。すぐ近くの公民館には、数組の避難者がいると聞きました。
もしかしたら私たちが来てしまったことで職員さんの手間が増えてしまうのではと心配になり、思わず「避難してきても良いですか?」と聞いてしまったのですが「もちろん。避難なさってください!」と明確な答えをいただいて、はっとしました。
そうですよね。危険の可能性をせっかく知らされているのですから、根拠もなく遠慮したり躊躇したりしているくらいなら、避難した方が絶対良いのです。
避難所で貸していただけたもの
さて、入って最初に確認されたことがあります。
「食べ物・飲み物はお持ちになりましたか?」
避難所に行けば水や食料が提供されるはずという誤解は多いのですが、地域で備蓄されている水や食料は避難所生活が長期化する場合に使われるもので、今回のような場合は、自分のものは自分で持参しなければなりません。
私たちは、台風が通過する一晩を安全に過ごすだけの予定でしたので、翌朝分プラスαのイメージで食料を準備していました。
持参した飲料・食料
[飲料]
・500mlペットボトル5本(水4本、無糖紅茶1本)
・熱湯1L(保温水筒)
・氷(保冷水筒500mlに入るだけ)
・冷凍したパウチタイプのスポーツドリンク2P
[食品]
・アルファ化米(おにぎりタイプ)4個
・冷凍グレープフルーツ(自分で皮をむいて冷凍している常備食)
・自然解凍の冷凍食品を詰めたお弁当
・カニパン1袋
[おまけ]
・スティック式のインスタントコーヒー1本
・一口ようかん1袋、
・砂糖不使用ガム(歯磨き代わり)
・カロリーメイト2箱(予備)
避難所で貸していただけたもの
・運動用マットにゴザを敷いたスペース
・折りたたみいす2脚
もう一つ貸していただけるものがありました。毛布です。が、明らかに暑いシーズン。職員さんも「あとは毛布があるんですが…」と控えめに伝えてくださいましたが、毛布は丁重にお断りしました。
トイレ事件
午前1時も回ったころ、外は台風のピーク。強い風が窓を激しく揺らし、外の木の枝葉の音も騒がしく、在宅組が心配になってきました。
私は眠れず、SNSや台風情報を見ながら過ごしていたのですが、隣で眠っていた娘がふと目を覚まし、「トイレに行きたい」と言い出しました。
避難所に到着した安心と興奮で、トイレのことをすっかり忘れていました。大失敗です。体育館内にはトイレがありませんでした。いったん体育館の扉を開けて外に出なくてはならないのです。
外と言っても、屋根付きのコンクリートテラスをほんの数メートル歩くだけなのですが、その時は台風のピーク。窓も扉も、暑い中あえて閉め切っている状況です。
台風の進行予報では、まだしばらく同じ状況が続きそう。子どもにトイレを我慢はさせられません。
避難所の見守りをしてくださっていた職員さんに手助けをしていただいて、勇気を振り絞って風にあおられながらトイレへ。
トイレは清潔でしたが、なにせ古い小学校、狭い和式トイレです。校舎内のトイレが洋式化されていたので、和式であることをすっかり忘れていました。
和式トイレに不慣れな娘にとって、雨風吹きすさぶ深夜のトイレ経験は恐怖の記憶となったのでした。
私たちは少し頑張れば使うことができますが、高齢者や身重の方、一人で和式トイレが使えない子どもには、とても使いにくい環境です。使いにくいということは、汚れやすくもなります。
トイレ問題は健康に直結します。不安のある人は、自分が使いやすい避難所と使いにくい避難所を事前に下調べしておいたり、やはり早めに避難所入りをして環境を確認した方が良いと思いました。
水害避難所は暑かった!まぶしかった!
外は暴風雨。窓や扉を閉めきらざるを得ません。停電はしませんでしたが、体育館にエアコンはなく、大きな扇風機が数台用意されていました。
職員さんが1台を私たちの近くに設置してくださったのですが、大型扇風機は風量調整をしても、近くで浴びる風は強く、音もかなり耳障り。
今回は私たちしかいませんでしたので、スイッチを切ってしまいました。けれども、ほかに避難者がいる場合は、自由にはできません。避難所の扇風機は近くても遠くても不便なようです。
また、いつ新しい避難者が到着するか分からないため、かなり遅い時間まで体育館内すべての天井灯がついていました。
あまりにもオープンな状態で落ち着かず、私は結局、一睡どころか横になることすらできませんでした。
避難所で事故が発生!
午前3時頃、飛散物が体育館の2階部分(キャットウォーク)の窓にぶつかり、ガラスが割れました。割れたガラスが1階のギャラリーにも落下している可能性があるため、体育館から校舎内の特別教室に移動することになりました。
ガラスが割れた窓の下のギャラリーには、誰もいなかったのですが、もしも寝ている人の顔に降ってきた可能性もあります。
避難所が絶対の安全空間ではないということが印象深く記憶に残りました。
持って行って良かったもの
<上履き>
避難所生活には上履きが必須です。スリッパでも良いのですが、動きやすく滑りにくい靴状のものが良いと感じました。私と娘は、普段から屋内用にしているスニーカーを持参しました。
<モバイル扇風機>
備品の扇風機が強力すぎたので停止した後は持参したモバイル扇風機で涼みました。
商品によってはモーター音やファンの回転音が非常に気になるものもあるのですが、私が持参したものはあまり気になりませんでした。
<氷>
暑さの想像はしていましたので、保冷水筒に入るだけ氷を持っていきました。
氷入りの飲み物ではなく、氷だけの水筒です。冷たい水を飲みたいときには、氷の水筒にさっとくぐらせてコップに注いで飲むことで氷がなるべく長持ちするようにしました。
<冷凍したパウチタイプのスポーツドリンク>
結局、飲まずに持ち帰りましたが、一晩の氷嚢代わりになってとても助かりました。解凍されれば飲み物になります。我が家では通年の冷凍庫ストック品です。
<熱湯>
アルファ化米のおにぎりは常温水でも無理なく食べられるのですが、やはりお湯で作った方が美味しいです。
台風一過の早朝に静かな学校で、温かいおにぎりと自然解凍された冷食おかず、冷たいグレープフルーツ、そして私はホットコーヒーをいただいて、一息ついてから帰宅しました。
暑い季節でも温かい食べ物の安心感。長期の滞在になる場合は自宅から熱湯を持ち出すことはできませんが、湯沸し用発熱材など、お湯を手に入れる手段を持っておきたいと思いました。
<大判のガーゼバスタオル>
避難所の毛布はお借りしませんでしたが、眠るときには身体に何かをかけておきたいものです。
大判のガーゼバスタオルなら、面積が大きくても持ち運びは軽くコンパクトで濡れても乾くのが速いという点で、避難グッズに選びました。
<空気を吹き込む簡易座布団>
今回は運動用マットを貸していただけましたが、避難者が多ければマットが不足して、硬く冷たい床で一晩過ごすのは辛いはず。
空気を入れるタイプのクッションがあるだけで、だいぶ過ごしやすくなると思いました。娘は枕代わりに、私は座布団代わりにしました。
空気を抜けばコンパクトになり、片付けも楽。再利用できます。
<砂糖不使用ガム>
歯磨き代わりにしました。
<ぬいぐるみ>
娘は、小さめのぬいぐるみを1体持っていきました。不安がずいぶん和らいだとのこと。
おなかにのせて、なんとなく撫でているうちに眠りに落ちていました。
避難するのか、しないのか。
この時の台風で、我が家が被害を受けることはありませんでした。在宅組によると、風雨の強さも感じず、むしろ避難所よりも穏やかな一晩だった様子。
地震については在宅避難を前提として準備している我が家は、今後は風水害の際も在宅で良いのでは?という考えに至り、その年の台風19号(令和元年東日本台風)は家族揃って在宅でやり過ごしました。
しかしながら、各地で発生する土砂災害の状況を見聞きすると、やはりハザードマップで危険区域になっているなら最大限の警戒をしておくべきです。
コロナ禍にある現在は、できれば避難所に大勢が集まるのは避けたくはありますが、避難をすべき場所に住んでいるなら、
・少なくとも避難所の情報を事前に確認する
・どのタイミングに避難を開始するのが自分にとって適切なのかを目算をたてておく
・自分が実際に避難をする心づもりで、感染性対策も含め準備をしておく
・避難所にこだわらず、安全な場所にあるホテルなどを利用することを検討
など、
すぐに避難行動に移せる準備をしておくべきです。準備だけでも、その都度、改善点を発見できると思います。
ハザードマップの記載に重なる被害が実際に発生しています。ハザードマップの危険区域は「危険が発生するかもしれない場所」ではなく「いつか危険が発生する場所」と捉えてみて下さい。
最後に
たった2人の避難者のために、4人の職員さんが夜通し数時間交代で見守りをしてくださいました。また施設の管理者である校長先生にも未明にお会いしました。職員の皆さんも台風迫る近隣地域にご家族がある中、泊まり込みのお仕事に就いて下さり、ありがとうございます。
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