さて、いきなりなのですが。皆さんは地理には自信はありますか?
私はてんでダメでして、メジャーな国でさえ「だいたいこのあたりでは?」という始末。なので恥ずかしながら、ガダルカナルがどこにあるのかさえあやふやでありました。
しかし、人の知識というのはそれぞれ。一人ひとり違う分野で知識を尖らせている人もいれば、円のように丸く広範囲で知識がある人もいるでしょう。つまり何が言いたいかと言うと、きっとこれをお読みいただいている皆さんの中にも、私と同じくガダルカナルについてあまり詳しくないよ、という人もいる(はず)なのです。
ですので本の紹介をする前に、まずはガダルカナルの場所と、どんな戦いが行われたかについて触れておきましょう。
飢えとも闘った「ガダルカナルの戦い」
まず、ガダルカナルの位置ですね。南太平洋にあるソロモン諸島の中で一番大きい島です。だいたいオーストラリアの北東あたりにあります。前回取り扱わせていただいたフィリピンは共和国ということで「国」の話だったのですが、今回のガダルカナルは国ではなく、あくまでソロモン諸島の中のひとつ。
そんなガダルカナルが戦地になったのは1942年。日本軍とアメリカ軍の間で戦闘が起こり、大勢の死傷者を出しました。フィリピンもそうでしたが、この戦いでも補給不足に悩まされ、兵士たちは飢えとも闘わなくてはいけない状況に陥りました。その悲惨さは「餓島」と呼ばれるほど。
余談ですが毎回コラムを書くたび、テーマについて予め軽く調べながら打ち込んでおります。なので今回もガダルカナルでの戦いについて調べさせてもらったのですが、もう一言で言えば最悪だ……という感情です。砲撃、飢餓、伝染病、現場と司令の差、状況とその対応など、どれを取っても頭が痛くなるような戦場。「戦場であるというだけでどこだって最悪だろう」と思っていましたが、「戦場ごとに最悪さのベクトルが少し違う」と認識を改めました。共通して言えるのは餓死が多いことですね。
それではまず最初に紹介するのがこちら。
「ガダルカナルを生き抜いた兵士たち 日本軍が初めて知った対米戦の最前線」(著 土井全二郎)
ガダルカナル島の戦いにおいて戦場を生きた兵士たちの肉声で綴られたノンフィクション。「生き残ってくれてよかった……」という想いが常に頭の中に漂います。個人的に心に残ったのは「ふたたび三たび」。ぼろぼろの状態の飛行場設営隊員に食料を分けた男が、その後自分がマラリアにかかった時に、かつて助けた設営隊員から薬をもらう……というエピソード。作中で「因果応報」という言葉を使っていますが、まさにその通り。因果応報という言葉も今では悪い方の意味で使う事の方が多いですが、本来は善や幸も含まれる言葉。善を向けたら善が還って来た……という話ですね。極限状態の中でこういった話を見ることができると、人間性を持ち続けることの良さと言いますか、暗闇にひとすじ光が見えたような気になります。
もうひとつ心に残った……というよりは刻まれてしまったのが「極限を越えた最前線」という項目。言ってしまえば人肉を食べた話なのですが、その1ページには余白が多く、人を解体し、処理し、食べた様子が淡々と描写されています。それがかえって恐ろしいというか、心の置き場がわからなくなるような気持ちになります。水炊きだそうです。
やりきれなくなったところで次のご紹介。
「ガダルカナル」(著 辻政信)
第8話「辻政信」において十五対一と潜航三千里についてのお話をしましたが、実はこちらにもあったのです。
昭和42年に出された本なのですが、昔の本って奥付の著者紹介で連絡先どころか住所まで書いてあることが多いですよね。例にもれず辻も著者紹介で住所が書かれているのですが(ここに住んでたんだ……という気持ちになった)、そのすぐ上に「現在消息不明」と書いてあるところがなんともシュールです。
ガダルカナルにおいての辻、と言うといい印象はありませんが、ともあれ現地にいた人間から見た文章というのはかなり貴重です。
辻の文章では無いのですが、この書において「アウステン山籠城」という項目があります。小尾少尉という青年の籠城日記は、最前線の惨状と飢餓を生々しく物語っています。しかもこの小尾氏、この日記を書いたのはなんと22歳と書いてあるではないですか。月並みな言葉ですが、本当に戦争はよくない……と胸の痛みと共にそう思ってしまいます。
では最後に紹介しますのがこちら。
「最悪の戦場に奇蹟はなかった」(著 高崎伝)
フォントからしておぞましく、表紙の写真には暗い色の中にひとつの真っ白な骸骨があります。この中には一体どれだけの怨嗟と絶望があるのだろう?私はそれを呑みこむのことができるのだろうか?と思ってしまいました。
さてそんな内容は、ガダルカナルとインパール、なんとふたつの戦場を経験した著者によるノンフィクション。そして本を手に取った時の第一印象と違い、文章のなんと読みやすいこと。語られる内容は勿論重く苦しいものなのですが、それでも語ろうという意思がページを捲らせてくれます。そのうえ九州出身のゴロツキ連隊、という肩書も合わさり、妙な安心感というか、信頼感さえ覚えるほど。やはり九州は凄い。
戦場を生きてきた彼の言葉や記憶は一つひとつ生々しく、これが戦争なのだと心に刻み込まれます。表紙は怖いですが、ぜひ読んでほしい一冊。
戦争は人間性を奪い取り、戦場に奇蹟はないけれど、ここには確かに人間性があるのだと読んでいて感じました。
昭和史について学んできたけれど、まだまだ知らない事ばかり。とりわけ戦場のこととなると、複雑かつ心が苦しくなる情報で見ています。しかしその情報はまぎれもなく、日本が歩んできた歴史そのもの。呑みこみ、書くこともまた歴史を語り継ぐお手伝いなのだと思いながら今回はこれにて筆を置かせていただきます。
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