こんにちは。永遠の図書室の店番をしている者です。

 さて、今回のテーマは「軍事教育・組織」。皆さんは軍事教育という言葉を聞いて、何が一番最初に思い浮かぶでしょうか。恐らく人によって様々であると思うのですが、ここで一回「軍事教育とは?」という疑問についておさらいしておきましょう。

「一般に軍事要員に対して作戦行動を遂行するために必要な知識と技術を付与する教育である。」
(Wikipediaより抜粋)

 士官学校などがこれに当たります。内容としては戦闘訓練や兵器学や通信など、言ってしまえば戦場で発揮される訓練・教育内容となっています。
 本棚を見ると陸軍幼年学校、士官学校、防衛大学校など、様々な組織や教育機関の名前が見えますが、今回は一つの教育機関にスポットを当てて書いていきたいと思います。

陸軍に実際に存在したスパイ養成学校

 その名は陸軍中野学校。いわゆるスパイ養成学校です。

 さてこの中野学校、いわゆる先ほど挙げた軍事教育とは少し違います。士官学校などで行う教育は格技や射撃などといった物理的なもの(もちろん専門教育もありましたが)、言ってしまえば表舞台に立つのはこちら側になりますね。
 対して中野学校で行う教育というのが、防諜や諜報などのいわゆる秘密戦……言ってしまえば、裏方的な役回りです。

 どちらも軍ではあるのですが、在り方は全然違います。表から見てみれば裏のやり方は、言ってしまえばこそこそしている、卑劣だ、と思うかもしれません。
 しかしご存じでしょうが、表舞台は裏方がいないと成り立たないもの。情報はそれだけで充分力になり得るものであり、例えそれが裏方であろうが、影であろうが、何と言われようが。諜報戦は無くてはならない戦闘手段のひとつだったというわけです。

 それでは早速、歴史上の裏側に存在した中野学校に関連した本を見ていきましょう。

「陸軍中野学校シリーズ」(著 畠山清行)

 コラム内では初めてシリーズを紹介させていただきます。こちらの作者・畠山さんは陸軍中野学校に関する書籍を多数執筆しており、かく言う永遠の図書室にも

「陸軍中野学校」(発行:昭和41年)
「秘録 陸軍中野学校」(発行:昭和46年)
「続 秘録 陸軍中野学校」(発行:昭和46年)
「陸軍中野学校 秘密戦史」(発行:昭和46年)

画像1: 陸軍に実際に存在したスパイ養成学校
画像2: 陸軍に実際に存在したスパイ養成学校

の、計4冊が並べられています。発行年を見てもらえるとわかるのですが、1年のうちに中野学校関連の書籍を3冊も出しています。それも1冊1冊がすべてボリュームたっぷりな情報量。そこまで駆り立てるものはなんなのでしょう、と書こうとしましたが、確かに中野学校には人を駆り立たせる、言葉にしにくい「なにか」がありますものね。

 ちなみに「秘密戦史」にて、まえがきにはこう記されています。

「取材で吸収と関東をひとまわりすると、またまた材料があまりすぎて、とても盛りきれなくなった。へたな料理人だから、水を割ってひきのばすなどという芸当もできないが、それかといって適当にちぢめて押しこむという器用さもないのである。」

 しかし畠山氏の凄いところは、それらを余すことなくきっちり調理し、いくつかのお皿に分けてお出ししてくれるところ。そのうえ料理も、「陸軍中野学校」という同じ具材を使っているのにいくつもいくつもエピソードがあり、それぞれ異なった味がある。もうプロの料理人といっても過言ではない……と、思うようなシリーズになっております。まず中野学校について知りたい!と言う人は畠山氏の著作から手を出してみることをお勧めいたします。
 ちなみに「陸軍中野学校」には暗号の実例も掲載されています。その中の「スパルタ式」は簡単なので、挑戦してみるのも面白いかもしれません。

 次にご紹介するのはこちら。

「諜報員たちの戦後 陸軍中野学校の真実」(著 斎藤充功)

 戦前、戦中は様々な場所で活躍した諜報員たち。そんな中野学校も、終戦と同時にその姿を消しました。
 しかし、これを読んでくれている方たちは「戦争は終わったらそこで終わりというわけではない」ということを知ってくれていると思います。
彼らの一部は国内外で、戦争が終わってもなお裏の世界に身を投じていました。なんと、あのGHQに潜入した者もいたのだとか。
 こちらの作品は当時の関係者に取材し、その声を聞くというノンフィクションとなっています。作品が書かれたのは平成17年、関係者が高齢化していく中、当時裏の世界を生きていた彼らは何を語るのか……上記のGHQ潜入や下山事件にも触れ、巻末には中野学校で実際に使われていたという教材も附録となっています。

 「陸軍に実際に存在したスパイ養成学校」。その言葉の特異性に、その組織の在り方に人はどうしようもなく興味を惹かれるものです。
 裏の世界に生きる彼ら彼女らにスポットライトを当てると、そこにあるのは情報の海。中野学校に興味を持ち、それを知るために当時の世界・日本の情勢を知り、世界で暗躍していたスパイにも目を向けるようになり………そのころにはきっと、裏側から見た「戦史」への理解が深まっていることでしょう。

 表から知ればやがて裏にたどり着き、裏を探ればいずれ表に出る。昭和史というのは、そういう所が面白いのです。

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画像2: 永遠の図書室通信 第21話「軍事教育・組織」

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