ごきげんよう、永遠の図書室の店番を務めている者です。

 永遠の図書室はそもそも、昭和・戦争に関連する本や手記・資料が並ぶ私設図書館。戦争について全く知らない人も、元から詳しい人も、出るころには新しく知識を得て帰ることのできる場所です。図書室という建物じたいが知識の塊であるといってもいいでしょう。
 しかしそんな知識の塊であっても、大きな歴史という流れを前にした時に「すべてを知ることができるか」「すべてを理解することができるか」と言われたら、それは無理なわけです。歴史をすべて理解するというのは、森羅万象の理解の次の次くらいに難しいことですからね。

 そんな時に生まれるのは疑問であり、「謎」です。そして謎に相対したとき、人は真実を見つけようと進み始めるーーーーということで、今回のテーマは「戦争の謎・戦争の真実」です。

「戦争」について知ること

 では、一体どこを謎としているのか。まずは棚に並ぶ本たちに聞いてみましょう。
ということでまず紹介するのはこの1冊。

「太平洋戦争99の謎 開戦・終戦の謎から各戦闘の謎まで」(著 出口宗和)

 まさか99もあるとは。この本ではサブタイトルからわかる通り、開戦の謎……「大東亜戦争が太平洋戦争になったのはなぜか?」といったものから真珠湾攻撃、南方戦線や指導者、体制についての疑問を99個提示し、それについてひとつずつ解説していく、という内容。
 99もあったら読みづらいのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、基本的に1つの疑問に対して解説は約2ページ半といったところ(疑問の内容によって少しずつ量は変わりますが)。
大きさも文庫本かつそこまで厚くないので、戦争について疑問はある、けどうまく言語化できない……という方、疑問があるけどどれを読んだからいいのかわからないという方はぜひこちらの1冊をお勧めいたします。

 さて上記の本には「開戦を決意させたものはなんだったのか?」という疑問もありました。現在でも開戦の理由については様々な場で語られ、討論されています。しかし。この「永遠の図書室通信」でも何度も書いている通り、「当時の声」というのはそこからしか得られない貴重な情報源。

 次に紹介する本は賀屋興宣氏が雑誌に寄稿した文章を有志の手でまとめた小冊子、「開戦の真相」です。

 これを読んでいる皆さんは「賀屋興宣」という名前に心当たりはありますでしょうか。ざっくりと言ってしまえば日本の政治家さんなのですが、なんとこの人東條内閣で大蔵大臣を務めていたことがあります。

 そうなんです。「開戦の真相」は年数が経ってから考察されて書かれたものではなく、渦中にいた人物がその当時のことを記したもの。
 兎角渦中の人物というのは真相を明らかにせよと言われがちではあるのですが、彼の場合戦後A級戦犯として巣鴨に10年入所していたこともあり、また周囲の人々のいたわりなどもあったため、追及の声は少なかったのだとか。

 しかし他でもない賀屋氏本人が話したい、語りたいと思ったことから「真相をお話しよう」と決意に至ったのだとか。誠実な印象を受けます。
 そんな彼が語るのは東条内閣への入閣の経緯から重要な会議の内容、そしてハル・ノートへの言及など、詳細に当時のことを記しています。陸軍統帥部(大本営?)の思惑や開戦反対派だった賀屋氏の葛藤など、全体について語り、個人としても語った貴重な資料となっています。

 ここでひとつ、目から鱗な一文があったのでご紹介しますね。

戦争を始める以上は、戦争を終結する方法を考えておくべきである。これが常識であるが、それを考えていなかった、だからああいうふうに結末に終わったのであるという非難があるが、然し戦争の終結方法は当時の外務省も軍部も、連絡会議においても充分検討したのである。ただ名案がない。

 戦争を終結する方法をあらかじめ考えておく、というのは、今の自分の感性からすると「そうなの?」という感じなのですよね。「開戦の真相」、読んでいると随所随所で「こうしたいのはやまやまなんだけど、こういう理由が合ってうまくいかない」という場面が多く出てきます。そのうまくいかないことの積み重ねで戦争はああいう形になったのではないか……と思ってしまいますね。

 なおこの賀屋氏、文章を読んでいると真面目な方であるという印象があるのですが、なんとあの山本五十六と殴り合いをしたこともあるのだとか。その派手な喧嘩は鼻血を出すレベルだったのだという………いや、誰か止めようよ。

 戦争についての問いかけを生み、その謎を解く本と、戦争を見てきた人物がその真相について語る本を見てきました。それでは次は、戦争の中を生きた民のすがたから戦争のかたちを見ていくこととしましょう。

「日本の戦時下ジョーク集 太平洋戦争編」(著 早坂隆)

 人間は日々、笑いを求める生き物。「笑い」はどれだけ厳しく苦しい状況でも、その言葉ひとつで人を笑顔にできるもの。
 奇しくも前回、言葉の力について少し書かせていただきました。今回の場合は同じ武器でも、お互いの心を守り、温かくするための力といったところでしょうか。やはり使い方によって大きく変わるものです。

 この本は戦時下という状況の中で漫才師が、落語家が、様々な人々が生んだジョークの詰まった本となっております。ジョークや言葉遊びは当時の時世や生活を映す鏡のよう。情勢もなんのその、時事ネタに変えてしまう彼ら彼女らの手腕と頭の回転の速さはあっぱれ、という他ありません。きっとその、いい意味でのらりくらりした面と逞しさ、したたかさがあったからこそ人々は笑うことができたのでしょう。改めて漫才師や落語家、市井のおもしろい人はすごいなあ、と敬服してしまいます。

 そして当たり前といえば当たり前なのですが、「国民の結束を強めるぞ!絶対に戦争に勝つぞ!スローガンはこれでこういう感じで、国民一丸となってやりましょう」と言っても、「国民」は個人の集まりですからね、ましてや戦争という大事、好きでやりたがる人間なんていないわけです。ですので特高の目を掻い潜って国や政治を揶揄するような替え歌を作ったり、公衆トイレに「戦争やめろ」と書いたり、どちらかというとそういう面で一丸となっている面もあったそうです。そらそうだ。

 内容の充実さに加えて、この本の魅力はもう一つあります。それは著者である早坂隆氏の書かれる文章がかなり誠実なこと。

時代が違っても、人間というものは『だいたい同じ』だ。やること為すことがそんなに変わるものではない。であるならば、人間の集合体である社会も同様である。

その『同等性』を考えると、どうしても遠い存在として認識しがちな戦時下の世相も、もっと近しいものとしてとらえることができるように思う。

『陽』を知って初めて『陰』も身近なものとして理解できるということである。

 と、ジョークだけではなく著者の書かれる言葉もまた歴史を負としてだけでなく、冷静かつあたたかな目線で見つめていることがわかります。なんというか、読んでいて考えさせられることはあれど、ざらつきや胸のざわつき、ぎすぎすしたものが無いんですよね。それだけでかなり好印象があります。
 なお当館にはこのジョーク集の満州事変・日中戦争篇もあります。こちらも面白いのでぜひご一緒にどうぞ。昭和という時代に溢れだす笑いの数々と人間の姿がそこにあります。

 「戦争」というものは大きく深く、目を向ければまだまだたくさんの謎も真実もあります。大を知り小を知り、どちらも知ってこそ、そこに「真実」があるのではないでしょうか。

アクセス

画像4: 永遠の図書室通信 第19話「戦争の謎・戦争の真実」

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