さて、今回のテーマは「日本陸軍・参謀」です。このコラムではどんな形であれ、ほぼ毎回に近いぐらいの頻度で触れていますね。言ってしまえばここ永遠の図書室は戦争・昭和関連の本が集まっている図書室。戦争と陸軍および参謀は、切っても切り離せない関係なのです。

日本での「軍」という言葉の意味

 余談ですが「陸軍 参謀」と検索したときに、真っ先に出てくるのが辻政信です。あの「昭和の参謀」と呼ばれた瀬島龍三よりも先。参謀と言って思い浮かぶ人は沢山、そして人それぞれいるでしょうに、一番最初。

 今までなら「1ページ目にこんなに名前が載ってるなら、この人かなりすごい人なのではないか?」と思ったでしょうが、今となっては「確かに良くも悪くも目立つ人だしな………」となんて思いますね。

 話を戻しましょう。そもそも陸軍とはなんぞや?と思い調べてみると、「主に陸上において軍事作戦を遂行する軍隊の一種である」(Wikipediaより抜粋)と出てきます。この文章を読んで、「なんだか簡素では?」と思う人もいらっしゃるかもしれません。

 そうです、これはあくまで「陸軍」の説明。今回紹介する「日本陸軍」とは、別名「大日本帝国陸軍」とも呼ばれている、当時の軍隊組織です。ちなみに「陸軍」というともしかして今の自衛隊のご先祖様?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、自衛隊のご先祖様は警察予備隊と呼ばれる組織。警察予備隊が名前を変えながら今日まで活動してきたのに対し、「日本軍」は令和の世では「旧日本軍」「旧帝国陸軍」と呼ばれる、過去のものになっています。

 日本陸軍という言葉を聞くと、なんとなく大きな組織である、というイメージが浮かぶのではないでしょうか。実質かなりの規模があり、官衛(陸軍省や参謀本部など)軍隊・学校(陸軍士官学校など)・陸軍病院・特務機関(元帥府・軍議参議院など)といった、言ってしまえば部署に分かれていたわけです。

 しかしそんな軍にも仕える相手がいます。それが天皇です。

 天皇は軍を直接指揮することができるという権利を持っていました。それに加え、「軍人は政治に関わっちゃ駄目だよ(意訳)」とも言われており、「天皇」「政治」「軍」はしっかり分かれておりました。

………と、言えればよかったのですが。

 指揮できるとは言っても、そんなに頻繁に指示を出す事はできないわけです。学校で例えるのなら、校長先生は直接生徒に授業をしないよね、というイメージ。では誰が生徒に授業をするのかと言われたら、それはもう先生なわけです。

 実質権限を持っていると言ってもいい軍は突き進み、五・一五事件や二・二六事件によって「軍は政治にかかわってはいけない」はどこへやら。これを踏まえて東條英機のことを思い返すと、総理談人と陸軍大臣、参謀総長を兼任していたという事実に、思わず「あっ……」と色々と察してしまいますね。

 さて、そんな二重の意味で大きかった日本陸軍。いったいどんな人がいたの?ということでまずご紹介する本がこちら。

「歴代陸軍大将全覧 昭和篇/太平洋戦争期」

 なんと著者は半藤一利、横山恵一、秦郁彦、原剛という早々たる顔ぶれ。この4人が一堂に会し、章ごとに複数人を取り上げ、ピックアップした一人について座談会形式で語っていく……というスタイルになっています。

 座談会形式というとなんとなく軽いイメージを持ってしまいますが、そんなことはありません。4人が4人、会話というより解説で解説に返す、といった印象です。さながら壇上でマイクを持ってパイプ椅子に座って話しているような感じ。

 しかし「書く」と「話す」は違います。話し言葉であるからこそ、普通に書かれた歴史書よりも読みやすい。一人ひとりの人柄を感じるようなエピソードも差し込まれ、取り上げている軍人さんに実際に会ったという人もいます。語られている陸軍大将の数は全部で26人。ちなみにこのほかにも3冊、「明治篇」「大正篇」「昭和篇 満州事変・品事変期」も発売されており、海軍大将を取り上げた「海軍大将全覧」も出ております。人物を知りたい人はもちろん、この4人の淀みないトークでしか得られない栄養を好む人にもぜひお勧めしたいシリーズです。

 さて次にご紹介するのは、有名な「歴史と旅」シリーズから昭和61年に発行された、「歴史と旅 日本陸海軍のリーダー総覧」

 「リーダー」「参謀」は似ているようでちょっと違う意味を持ちます。それを踏まえて、この本が取り扱うのはあくまで「リーダー」の姿。明治から一人ずつ、作家の手により見つめられているリーダーたち。その姿は時に凛々しく、時に哀しく、そこにあるのは「軍人」でありながらも、ひとりひとりという「個人」であります。

 ちなみに先ほど「明治から」と書きましたが、そうなんです。なんと一番最初に書かれているのはあの西郷隆盛。時代がちょうど大政奉還を挟んでいるのでちょっと忘れがちなのですが、西郷さんもまた陸軍大将という肩書を持ちます。「陸軍大将」という面から見た西郷隆盛というのが個人的にちょっと新鮮。かつ、文章内に大久保利通という名前を見つけるとなんとなくしみじみとしてしまいます。「西郷どん」思い出しますねえ………と、事あるごとに大河ドラマの話をしてしまう店番ですが、気にしないであげてください。

 ちなみに紹介されている軍人さんは総勢150人。中にはお名前を存じ上げない人もかなりいらっしゃるんですが、その中に白川義則という人がいます。白川大将、と言う方が馴染みがあるでしょうか。実は今までこの人のことを存じ上げなかったのですが、昨年夏に「大将白川」(著:櫻井忠温)と白川さんに関連した寄贈品に関わったことから、ぐっと自分の中で近しい人となりました。これだから「知る」は楽しいのです。

 ここまで陸軍について、陸軍にいた名のある大将たちについて書いてきました。

 次にご紹介するのは、名もなき一人の青年兵。しかしこの青年兵、戦争という概念の中で完結せず、将星にならず、生き延びた先で人々に笑いをもたらす素敵な存在となり、人々に愛されました。青年の名は秋本安雄。のちの落語家・春風亭柳昇が書いた「陸軍落語兵」を紹介します。

「申告いたします」において著者はこう語っています。

「元陸軍軍曹の私が、現在、落語家になっているーーー、それは敗戦による変身でした。まさに『陸軍落語兵』という気概だったのです。」

 ジョークは解説するとおもしろみが解体されてしまうため、そんな野暮なことはしませんがーーーーおそらく仲間たちと並んでいたら、きっとこの本は書かれなかったでしょう。もしかしたら、著者もまた名もなきひとつの星になっていたのかもしれません。そう考えると変身してくれたことも、生きて噺をし続けたことも、なんだかとっても嬉しく感じてしまうのです。

 本編はそんな柳昇師匠の戦地でのエピソード、戦後落語家になるまでを描いています。「続与太郎戦記」とあるように、前作「与太郎戦記」にて書ききれなかったエピソードを記しているのだそうな。これは両方読みたくなりますね。

 噺家さんなだけあって、テンポがいいんですよね。すいすい頭に入ってくる上に、写真やイラストも挿し込まれているので見ていて楽であり楽しくあり。戦争体験を見て楽しいとは何事だ、と思われるかもしれませんが、実際に読んでみるとそこで浮かび上がるのは「楽しい」という感情なのです。個人的に軍用犬のお世話係になったエピソードと虱退治のエピソードがお気に入りです。

 さて今回、「日本陸軍・参謀」というテーマでしたが、あんまり日本陸軍について触れなかったことを反省しております。もちろん人を紹介してこその組織ではありますが、組織自体の紹介をしている本はないのか、と。そしてもうひとつ、序盤でなんとなくそれらしき解説こそしたものの、いざ陸軍ってなに?と聞かれたときに最適な受け答えが自分にできるのか…………とふと疑問を持ったから、という理由があります。

 その矢先、どちらも叶いそうな本を見つけました。こちらです。

「日本陸軍がよくわかる事典 その戦力と兵器のすべて」(著 太平洋戦争研究会)。

 「よくわかる」とタイトルについてるだけあり、みっちりと「日本陸軍」についての解説をしています。その成り立ちから徴兵令、兵力増強や精神教育といった面、各種部隊の兵力や下士官について、教育、そして兵器など。「陸軍」という大きな枠組みをすみからすみまで解説し、それが1冊に納められているという優れもの、いや優れ本です。写真や資料もあり、まずは陸軍という組織を知りたいという人にはお勧めの1冊です。

 陸軍という組織について思考をしていると、あまりにも量が多く限りがありません。しかしそれを知ることで、戦時中について調べているときにすんなりと理解できる部分というものが、きっとあると思うのです。例えば軍と政治の関わりについて調べてから二・二六事件を振り返ると、また違った印象を受けるのではないかと思います。

 それでは今回はこのあたりで筆を置かせていただこうと思います。それではごきげんよう。

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画像5: 永遠の図書室通信 第17話「日本陸軍・参謀」

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