2021年4月22日、「第70回となみチューリップフェア」が開幕しました。会場の砺波チューリップ公園では開幕式に続き、富山県では初となるブルーインパルスの展示飛行が実施されました。昨年5月29日の医療従事者等に対する敬意、感謝を示すフライトから実に328日ぶりとなる展示飛行は注目度も高く、会場にはたくさんの報道各社も詰め掛けておりました。

砺波という地名は知っていたが

画像: 新旧チューリップタワーの上をデルタダーティローパスで航過するブルーインパルス (写真:ブルーインパルスファンネット)

新旧チューリップタワーの上をデルタダーティローパスで航過するブルーインパルス
(写真:ブルーインパルスファンネット)

 砺波という地名は知っておりました。北陸道が通り、東海北陸道と交差するところ。東日本のブルーインパルスファンにとっては小松基地航空祭へ行くときに通過する場所、というイメージが強いのではないでしょうか。

 いつも9月の新米の収穫される頃に通る砺波の道は、4月の田植えの時期に違った景色を見せてくれました。空気がまだ冷たいこの時期には、右手富山湾の向こうに能登半島が先の方まで見え、左手には雪を被った冬山の立山連峰が連なっていました。そして砺波ICに着こう頃には綺麗なチューリップ畑が出迎えてくれたのです。おわら風の盆、黒部ダム、剱岳…憧れの場所はいくつもあれど、富山県に降り立つのは初めてで、富山県の県花がチューリップであることや砺波市の市花がチューリップであり日本一の球根の産地であることを、ブルーインパルスが行くことで初めて訪問し、知ることができました。花を愛でる人にとっては、チューリップといえば砺波なのでしょうね。恥ずかしながらそんなことも初めて知りました。

 前売りで最初の入場枠8:30からのチケットを取っておりました。列に並び、前日の事前訓練(予行)でどちらから飛んできたかなど、ご挨拶もほどほどに情報交換です。報道の取材に「今日はアクロバット飛行はやらないから間違ってもアクロバット飛行などと書かないようにね」「宙返りや背面飛行はやらず、旋回を使った編隊連携機動飛行だからね」などと念を押して話しているとすぐに開門になりました。

 開場のカウントダウンを皆とやり、検温して会場に入ると、目の前に新旧のチューリップタワーが目に入りました。ちょっとくたびれた旧タワーと出来上がったばかりのピカピカの新タワー。そのタワーたちと進入コースとの関係に気を取られていましたが、しばらく歩き回って気付いたのは旧タワーに書かれたメッセージたちでした。

画像: 写真:ブルーインパルスファンネット

写真:ブルーインパルスファンネット

「いつまでも忘れない I never forget」「楽しい時間をありがとう」「たくさん遊んだね」「見守ってくれてありがとう」「Thank you so much」…

 ああ、主催者はブルーインパルスを呼んで、新タワーを盛大にお披露目したいけれども、この旧タワーが居てくれたことの心の糧を最後に多くの人に知って欲しかったのだなと、そう思え、その錆が浮き出た手摺りを見ながら涙が出そうになりました。

 ブルーインパルスはその想いに応えるべく展示飛行を披露してくれました。

1番機編隊長は誰が務めるはずだったのか

画像: 小松基地に飛来したブルーインパルス1番機(写真:塚田圭一)

小松基地に飛来したブルーインパルス1番機(写真:塚田圭一)

 前日4月21日の朝、ブルーインパルスは、リモート展示の母基地となる小松基地に展開しました。午後には事前訓練(予行)も行っています。翌日展示当日にも午後3時過ぎには松島基地に帰還しており、年度始めからキビキビとした展開姿勢を示してくれました。

 当初から気になっていたのは誰が編隊長を務めるかということでした。隊長の遠渡2空佐は昨年東京上空の感謝飛行で飛んだだけ、片や新飛行班長の平川3空佐がOR(=展示飛行有資格者)に昨年度中になっていますので、どちらが飛ぶかというのは難しい判断であったと考えられます。

 1番機は元々二人のORが在籍するようになっており、いつでもどちらかが展示飛行をできるようになっています。ですが例年であればある程度の予定の元にどちらが飛ぶか決めているものです。

 今回どちらが操縦桿を握るかギリギリまで検討していたと感じられたのは、1番機コクピットのキャノピー脇に貼られたデカールからでした。

「LT.COL ENTO / MAJ HIRAKAWA」

 航空祭と違い目の前に観客がいる場所からタキシングしていくわけではありませんが、誰が見ているかわからない、こうして写真に残る可能性がある展開と展示飛行であることを考えれば、このデカールが示す意味は本当に直前までどちらがやるか検討していたということが考えられます。4月に入って直前の日程発表になったことも、そうなった一因でしょう。もちろんコロナ過の状況を鑑みてギリギリになったことは想像に難くありません。

 結果論的にはなりますが、4月29日の所沢市での展示飛行がまん延防止等重点措置の適用で中止になったことも、平川3空佐をデビューさせておきたいという思惑の想定に入っていたことと思われます。

 そして平川3空佐は、自身に加えて3番機・鬼塚1空尉、6番機・真鍋1空尉という二人の初展示飛行ORを従えて、約1年ぶりの注目度が高くプレッシャーの高い展示飛行を成功させました。この三人同時デビューを任せられたのも、遠渡隊長が総合的にそれを任せられると判断されたからです。この展示飛行を成功させてことで、ブルーインパルスは大きなステップを乗り越え、次のステージに入ったといえましょう。

編隊連携機動飛行を実施

 一部の報道では「アクロバット飛行」を披露したという表現がありましたが、ブルーインパルスが実施した展示飛行は「編隊連携機動飛行」です。アクロバット飛行は宙返りや背面飛行を含む飛行ですが、編隊連携機動飛行は旋回や上昇を伴うものの宙返りや背面といったアクロバットは行いません。

 ブルーインパルスのアクロバット飛行は安全策のために飛行場でしか実施されません。こうしたイベントの飛行場外での展示飛行は編隊連携機動飛行や航過飛行が実施されます。航過飛行は編隊を組んでまっすぐパレードするような飛行方式で、これは編隊連携機動飛行の中にも含められて実施されます。砺波の演目ではデルタダーティローパス、リーダーズベネフィットローパス、フェニックスローパスがそれに当たります。また、今回は会場すぐ後方に高圧線の鉄塔が立ち、送電線が通っていたため、通常よりも高度を上げるという安全策が取られていました。

画像: となみチューリップフェア展示飛行演目 ①デルタダーティローパス(1,2,3,4,5,6番機) ②リーダーズベネフィットローパス(1,2,3,4,5,6番機) ③デルタ360°ターン(1,2,3,4,5,6番機) ④フェニックスローパス(1,2,3,4,5,6番機) ⑤さくら(1,2,3,4,5,6番機) ⑥レベルキューピッド(5,6番機) ⑦720°ターン(5番機) ⑧レベルサンライズ(1,2,3,4,6番機) 写真は聖火到着式でも実施されたリーダーズベネフィットローパス(写真:ブルーインパルスファンネット)

となみチューリップフェア展示飛行演目
①デルタダーティローパス(1,2,3,4,5,6番機)
②リーダーズベネフィットローパス(1,2,3,4,5,6番機)
③デルタ360°ターン(1,2,3,4,5,6番機)
④フェニックスローパス(1,2,3,4,5,6番機)
⑤さくら(1,2,3,4,5,6番機)
⑥レベルキューピッド(5,6番機)
⑦720°ターン(5番機)
⑧レベルサンライズ(1,2,3,4,6番機)

写真は聖火到着式でも実施されたリーダーズベネフィットローパス(写真:ブルーインパルスファンネット)

往年のデルタダーティローパスで展示開始

画像: デルタダーティローパス(写真:ブルーインパルスファンネット)

デルタダーティローパス(写真:ブルーインパルスファンネット)

 そうした展示方式の中、第70回となみチューリップフェアでは、20分間という短い時間ではありましたが、2020年3月20日の聖火到着式で聖火を出迎えたリーダーズベネフィットや同日描かれたオリンピックシンボルの基礎となった人気課目さくらを織り込むなど、八課目の見ごたえ充分の展示構成となりました。ナレーションもそうした聖火到着式の実績を紹介するなど進化しており、聖火到着式と同じ課目を見られたことはチューリップフェア関係者にとっても誇らしいこととなられたのではないでしょうか。

 筆者が注目したのは最初のデルタダーティローパスです。脚を出して着陸灯を点灯しながらゆっくりと会場に進入してくるこの課目は、展示開始に実施されるリモート展示における往年のブルーインパルスの王道というべき課目でした。2006年度までは定番だったこの課目も、2007年度より編隊連携機動飛行の課目構成が多彩になり、最初の課目として必ずしも実施されなくなりました。

 遠くの空に着陸灯の輝きを発見した観客は、ブルーインパルスが飛来したことに沸き立ちます。今回も新チーリップタワーの脇に通る立山連峰をイメージした4m高の回廊にいる観客がまず発見し歓声が上がりました。会場がゾワゾワとしてブルーインパルスを探し当てた観客から次々に歓声が上がっていき、最高潮に達したとき、真上を通過していくのです。

画像: 左・平川3空佐、右・吉田信也元飛行班長 (写真:ブルーインパルスファンネット)

左・平川3空佐、右・吉田信也元飛行班長
(写真:ブルーインパルスファンネット)

 筆者にとっての思い出深いデルタダーティローパスは、2007年3月に実施された航空学生62期卒業式祝賀飛行の開始課目のときでした。この祝賀飛行は、ブルーインパルスファンネットではお馴染みの元飛行班長・吉田信也3空佐(当時)のラスト展示でした。防府の山をバックにデルタダーティローパスで進入してくるブルーインパルスは、まるで心技体が一体となった神々の降臨の様。その姿に鳥肌が立ったのを覚えています。

 砺波で編隊長を務め展示デビューを飾った現飛行班長・平川通3空佐は、実はF-4時代の第302飛行隊において訓練幹部と飛行班長を務めた吉田信也3空佐の弟子ともいえる後輩でした。写真は2019年12月の百里基地航空祭でのお二人ですが、翌2020年3月にブルーインパルスに1番機飛行班長要員として入隊することを、どうやらこのとき報告されていたようです。吉田信也さんのその時の喜びようは、後輩との久しぶりの再会だけではない特別なもののようでした。

 今回、往年のデルタダーティローパスが開始課目に選らばれたことは、偶然かもしれませんが、何かお二人にしかわからない魂の繋がりが介在しているように感じられました。

好感の持てる運営

画像: さくら(写真:ブルーインパルスファンネット)

さくら(写真:ブルーインパルスファンネット)

 主催者よりコロナ対策として入場時間枠を設け、入場者がゲートに集中しすぎないようにすることや、砺波チューリップ公園以外の例えばイオンモール屋上がビューポイント会場として開放されるなど、会場の分散と地域企業の協力があったことも特筆すべきところでした。地域が一体となってブルーインパルスを迎えることは、規模こそ違え、サンフランシスコ・フリート・ウィークでブルーエンジェルスと海軍がWelcome NAVY!と町を挙げて迎えられる姿を彷彿させるものがありました。

 またYouTube「となみチャンネル」にて、この展示飛行のライブ配信も行われました。会場はチューリップ公園であり、まんべんなく音響が行き届く会場ではありません。そのため、会場でナレーションを録音して誰が搭乗したか(特に1番機について)確認したかったのですが、微かにしか聞こえず、叶いませんでした。しかし、YouTubeに残された配信映像を見返すことで、自分で録画したもの以上の品質でナレーションを確認することができ、目的を果たすことができました。

 機載カメラの映像も一部の報道を通じて公開されました。この辺り、聖火到着式から新しい展示様式が確立されてきた感があります。コロナ過にもめげず進化するブルーインパルスにこれからも注目です。

画像: メイン会場には新旧タワーの前に第70回を意味する70の文字がチューリップで表現された。(写真:ブルーインパルスファンネット)

メイン会場には新旧タワーの前に第70回を意味する70の文字がチューリップで表現された。(写真:ブルーインパルスファンネット)

 最後に、帰りの立山連峰の眺めがまた格別で、砺波は通過点ではなく、また来たい目的地となりました。うちの動画班長が即売の鉢植えを四つも買って帰ったことも書き留めておきたいと思います(笑)

ブルーインパルスファンネット管理人 今村義幸


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