ごきげんよう、「永遠の図書室」店番でございます。

 図書室通信において人物棚を紹介し始めてから早5回。今回は6人目を紹介しようと思います。しかし思い返すと色々な人がいましたね。深堀していくうちに、人物たちひとりひとりと一対一で語り合いたくなる気持ちに駆られました。甘いものとお茶も用意したいところです。

 予告になってしまいますが、次週は「人物」というコーナーの紹介になります。個人をフューチャーした棚の紹介は今回が最後。最後に深堀りする人は陸軍大将として、大臣として数々の経歴を持ちながらも、その人生を死刑で締めくくった人物。第40代内閣総理大臣、東條英機のご紹介です。

現役軍人のまま第40代内閣総理大臣に就任

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 東條英機は明治17年、東京に生まれました。少年時代はかなりのわんぱくで、負けず嫌いという要素も加わり年中喧嘩ばかりしていたそうです。しかしそんな喧嘩坊主、勉強はあまり得意ではなかったようす。

 しかし世の中、腕っぷしだけでは渡っていけません。それに気づいた東條は猛勉強のち、成績をぐんぐん上げていったのだそうです。

 そうして少年はすくすくと成長し、結婚。なお東條はかなりの愛妻家で、お座敷遊びなんてもってのほか。のちに「俺は若い時も今も妻一筋」と、思わずほっこりするような事も発言しています。そんな奥様もまた、東條を最期まで支え続けました。

 そんな東條の人生の転機となったのが二・二六事件。この時東條は皇道派の青年将校たちを検挙、関東軍内の混乱の収束など、八面六臂の大活躍。これにより一人の軍人であった彼は、政治の道へと踏み出し始めたのでした。

 反政府・反関東軍の検閲や監視、逮捕や監禁などを行ったり、戦陣訓を出したり。様々な活動を政治の世界で行ってきた東條。余談ですが、ここで大激怒のち罵倒をしたのが何を隠そう石原莞爾でした。調べれば調べるほどかなりの不仲ぶりです。ここに関しては、考え方やスタイル、その他もろもろ真逆だから合うわけが無いよな……と思いつつ。

 しかし東條はこのあと、日本を戦争の道へ導くことになってしまいました。

 このあたりは皆さまも知っての通り戦争の流れがあるわけですが、戦局の行き詰まり、悪化と徐々に敗戦へ向かっていきます。ちなみにこの時東條は総理大臣、陸軍大臣、参謀長官の3つを兼任していました。

1941年(昭和16年)10月18日、東條内閣の閣僚らと

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 店番は一庶民であるので、「なんでそんなに一人でやっちゃったのかな……振り分けられなかったのかな……そんな簡単なことじゃないのかな」「ひとつだけでも充分すぎるのに3つも一気にやってたのはすごい」と思うのですが、裏を返せば「全部いいとこどり」みたいな状況です。これに関して陸海軍、右翼勢力、皇族からも非難の嵐。反東條派のグループまでできてしまい、もう滅茶苦茶です。ちなみに暗殺計画まで持ち上がったほどなのですが、その計画には石原莞爾も噛んでいたのだとか。良く名前の出てくる人だ………

 この暗殺計画にかかわった人物を挙げると、他にも津野田知重、牛島辰熊などの名前が挙げられますね。津野田さんについては彼の関連書籍をあとで紹介させていただきますが、牛島さんについては図書室に関連書籍が無いのでこちらでちょっとだけ補足説明。

 牛島さんは「鬼の牛島」と呼ばれるほどの気象の荒さと強さを持つ柔道家。柔道と暗殺というのはなかなか結びつかないのですが、実は彼、思想家でもありました。暗殺内容も、別に己の腕でどうこうする……ということではありません。プロのスポーツマンであるなら、己の技を殺人に利用するだなんて思わないでしょうしね。

 話を戻して。計画自体は、オープンカーに乗っていた東條目掛けて木の上から青酸ガス爆弾を投げつけて暗殺する、というものでした。ちなみにこの計画が実行されたのかというと、答えは否。詳細を聞き、さすがに暗殺まではどうかな……と思った三笠宮崇仁親王のリークにより主謀者である津野田・賛同者である牛島は逮捕されました。

 そして終戦前に総理大臣の椅子から降り、その後は自宅で畑を耕して生活していたのだそうです。おしまい。

 ………ではありませんでした。終戦後、彼を待って居たのはかの有名な東京裁判。ちなみに戦犯逮捕令が出た際、東條は自殺未遂を図りました。しかし手元が狂ったこと、アメリカ側の適切かつ素早い応急処置により、彼は一命をとりとめました。これに関しても国内からは批判の嵐。そのうえ辞職後、細々と生活していた時から彼を訪れる客人がいなくなり、自殺未遂を図った時も家族以外の日本人は誰も見舞いに来ないという、あまりにもあまりな境遇に陥ります。同情するわけではないんですが、さすがにこれを書いてて心が苦しくなってきました。

 そして死ねなかった彼は東京裁判においてA級戦犯(平和に対する罪、戦争を引き起こした罪)という判決を受け、巣鴨プリズンにおいて絞首刑になってしまったのでした。なお東京裁判についてはそれを含めたコーナーがあるので、近いうちにまた詳しく書かせていただきます。

 ………と、なんとなく政治家じゃなくて軍人の方が向いていたのではないか、と思う経歴でした。彼の責任に関してはもちろん目を瞑ってはいけない事ではあるのですが、彼のせいだけではないというのもまた歴史の事実。断定してはいけない、けれど曖昧にしておくのもまた罪とされます。誰が悪いと言い切ることは簡単かもしれないけど、それは果たして正しいことなのか。

 歴史に触れることは楽しいことではあるのですが、かなり難しいことでもあるんですよね。

 ちなみに東條、配給調査で自分の手でごみ箱を検分したり、子供たちや孫に対して本当に優しかったり、国家の頭であっても自分の生活は質素にしたり……と、細かい部分、穏やかな部分と様々な面が出てきます。また細かい性格は「メモ魔」というあだなを付けられるほどでした。なんと一度目のメモをカテゴリーごとにもう一度仕分けするという徹底ぶり。分けてほしいほどのマメさです。

 しかしその一方で自分にとって不利な人を容赦なく前線に送ったりと、反政府・反関東軍を取り締まっていた時代からではありますが、「排除」に関してはかなり容赦が無かったようです。なお石原莞爾も前述の「戦陣訓」批判時に予備役に編入させられました。もはや不仲とか簡単な言葉で片付けちゃいけない関係性ですね。

 と、記述した人間性を見てみると、圧倒的な批判の中でそれでも評価する人は一定数いる……という印象ですね。

 さて、前置きだけで長くなってしまいましたが続いて棚の紹介です。今回お勧めする本はこちら。

画像: 現役軍人のまま第40代内閣総理大臣に就任

「わが東條英機暗殺計画 元・大本営参謀が明かす『四十年目の真実』」(著:津野田忠重)

 前述した暗殺事件に関わった津野田知重。彼は一体その前後、何を考え、どう動いていたのか。語らずにいた真実を、一人の著者という視点から、そして兄であるという視点から書き切った一冊。牛島氏と知重氏のかくしごとに、喫茶店で対面する状況があまりにも生々しさを感じます。弟である彼の生い立ち、牛島氏との出会い、計画と暗躍、そして………実行されなかった計画と、関わった者たちの心情がここにあります。

 ちなみに暗殺事件関連の本は他にも「東條英機 暗殺の夏」(著:吉本安弘)も併せてご覧いただけたらと思います。こちらは東條内閣法改までの50日間を日録風に書いた一冊。かなり読みごたえがありそう。

それでは次にご紹介するのがこちら。

「東條英機〔わが無念〕」(著:佐藤早苗)

 東條が処刑される前に、巣鴨プリズン内で書かれた手記……いわゆる獄中手記ですね。人物棚を紹介する際、どちらかというと本人が書き記したものを紹介することが多いのですが、この本もまた東條本人による思いと言葉が綴られています。同時に著者による解説付きなので、東條本人を視る資料として、東條を外側から見て解釈した書として、どちらの側面も見ることのできる一冊となっております。

 また調べるうえで、乃木大将・五十六さん回でもかなりお世話になった、「日本の100人 No.004 東条英機」(発刊:DeAGOSTINI)も忘れてはいけません。まずは全体像を調べたい、読みたいと言う人にはぜひ手に取ってほしいシリーズです。

 余談ですが……東條英機といえば、数々の作品の登場人物になっていたり、題材になっていたりしますよね。映画だったら有名なのが「プライド・運命の瞬間」「日本のいちばん長い日」などでしょうか。プライドの方は図書室にVHSがありますが、残念ながら再生機器が無いので見ることは叶わず………
 他にも彼が登場している作品は数多くあるので、近いうちにどれか手に取って見てみたいですね。

奥深い近代史の世界

 6回に及ぶ人物棚の紹介、いかがでしたでしょうか。

 近代史について勉強するとき、当たり前ですがそこには時の流れの中にいた人物たちの姿があります。彼らの姿をとらえることで、時代の理解も一層深まっていくのではないでしょうか。ちなみに私は理解していくことで、人物どうしの横の関係性などを視ることができたのでかなり楽しかったです。「この人ってこの人と繋がりがあったの!?」という感じに。

 しかし、まだまだ近代史を語るうえで欠かせない人物はたくさんいます。永田鉄山、山下奉文、秋山好古、米内光政、等々……残念ながら全員紹介することはかないませんが、これを切っ掛けに紹介した人物たちに興味を持ってくださったらいいな、と考えております。

 それではまた来週お会いしましょう。それでは。

アクセス

画像2: 永遠の図書室通信 第13話「東條英機」

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