皆さまごきげんよう、「永遠の図書室」店番でございます。
毎回この挨拶を書くところで一瞬迷います。「いつ見るかわからないからこんにちは、じゃおかしいんじゃないか」「でもおはようございますから三つ繋げて書いたらさすがにくどいぞ」「いっそよくラジオで聞く『おはこんばんにちわ』とかでいいのではないか」「さすがにそれは軽すぎないか」などなど脳内会議を三秒ほど交わした結果、「………ごきげんようでいいか」と決着がつきます。なんだか少しお嬢様学校の挨拶にも見えますね。
と、余談は置いておくとして。今回のコーナー紹介は「日本史全集」となります。
64年の昭和の歴史が1シリーズに
前回より大きく出てしまいました。「まさか今回は邪馬台国から話を始めてしまうのか……!?」あるいは「この店番、さては次は明智光秀について語り倒す気ではないだろうか」と懸念を抱かれた皆さま、ご安心ください。きちんと近代史です。
こちらの棚にある本の正式名称は「決定版昭和史」。
このシリーズのすごいところは、なんと近代史に至る「少し前」から「終焉」までを紹介しているところです。なんせ一巻のサブタイトルが「昭和前史・文明開化 幕末ー明治18年」です。幕末、幕末ですよ皆さん。新選組も西郷さんといった「歴史に詳しくない人けど名前は知ってる」といった面々がそこにいらっしゃる上、一巻の表紙は鹿鳴館の華のごときマダムの写真です。中身は解説とともにかなりの量の写真が大きなサイズで掲載されており、虫眼鏡で見れば細部までよく観察できます。
このクオリティが全19巻に別冊が2冊、合計21冊。しかもかなりの大型本です。ずらりと並んでいるさまは壮観としか言いようがありません。よくぞここまで写真が残っていたものだ、と感服しつつ驚いています。
しかしこちらの本、発刊されたのが昭和の後半です。その時代に今のような表現の規制やモザイクはあるでしょうか。率直に言いましょう、ありません。
写真は今以上にそのままを映しているものが多いです。あえてどういう写真があるのかは書きませんが、「どれもすべて近代史を映したものなのだ」と思うと、背筋が凍るような感覚になりますね。近代史におけるひやりとした部分を垣間見ることができます。
さて先ほど「近代史をあますことなく紹介している」のようなニュアンスの事を書きました。そうです。もちろんこの決定版昭和史、明治・大正もございます。
明治といえば日露戦争、洋風化や海外交流などが有名ですね。3巻「昭和前史・日露戦争」を見ると、当時尾崎紅葉の「金色夜叉」がヒットし、主人公貫一のマント姿がファッションに取り入れられた場面もあったそうです。黒いマントの下に柄物のお召し物の写真の女性のなんと格好の良いこと!素敵な一枚につい見とれてしまいました。
この頃になると女学生も袴にリボンという服装になっていきました。いつの時代もお洒落を楽しんでいるさまはかわいらしいですね。
むろん日露戦争のはじまりからおわりまで、そしてその戦争が日本にどんな影響を与えたかーーーーもしっかりと記されております。戦地の凄まじさ、武器、凄惨さが写真という形でこちらに訴えかけています。いや、たぶん写真そのものが持つメッセージというよりは、「そこから目をそらせない力」のようなものがあるのだと思うのです。
改めて見ると、明治もかなりの情報の密度ですね。華やかさと昏い影が寄り添っているような印象です。
巷のアニメブームで、大正時代にも再注目?
ここで少し話は変わるのですが、作品の影響でその時代に興味を持つ、ということがままあります。その時代を描いた作品に触れることで背景も気になり始める…といったものですね。明治だったら頬に傷のある逆刃刀の流浪人だとか、金塊争奪戦だとかが有名だと思います。そのなかで最近流行っているのは長男が鬼退治するお話。あちらの刃の時代の舞台となっているのは、最近注目が集まっていて、明治の次の元号である「大正」です。
大正時代はわずか15年と短い時代でした。
平成から令和になるとき、なんとなく「改元」って不思議な感覚がしたものです。まさにその瞬間、自分はふたつの時代を生きた人間になったんだな……なんてことを考えてしまったものですが、きっと当時、人によっては明治・大正・昭和という三つの時代を駆け抜けた人も多かったのでしょうね。
15年という短い期間なら出来事も少ないだろうと思ってしまいますが、そんなことはありません。むしろ「たった15年でこんなに色々あったのか」と思う密度です。
そこで「決定版昭和史 昭和前史・関東大震災」を見てみましょう。
大正の初めと言えば好景気、近代文明の発展、欧米文化の影響などにより日本が活気づいておりました。このころから女性の社会進出が始まります。婦人運動が起こり、参政権の獲得運動へと発展していきました。婦人運動家といえば平塚らいてうさんが有名ですね。
日本がオリンピックに初参加したのもこの年です。第五回ストックホルム大会に金栗四三さんと短距離の三島弥彦さんが参加しました。この時金栗さんは長距離マラソンの途中で倒れてしまい、「消えた日本人」として話題になったそうです。
172ページを見てみると他にも嘉納さんや大森監督、岸さん、そして水泳からは高石さんと馴染みのあるお顔と名前が並びます。「いだてん」好きとしては顔がほころび、隅から隅まで眺めていたくなるページであります。
さて大正といえばもうひとつ、大きくも痛ましい出来事がありました。それが大正十二年九月一日、正午を前にして人々は大きな揺れに襲われました。「関東大震災」です。
罹災者は340万以上、死者は9万超を越えました。正午ということもあり、揺れと共に火の手も人々を苦しめました。当時浅草のシンボルであった「浅草十二階」もこの地震で崩壊してしまいました。食料、住処の問題、肉親を失った人が彼ら彼女らの行方を訪ねて歩き、そのうえ「自警」の暴走と、悲惨な光景がそこには広がっていたそうです。
しかし、いつの時代も底力があるのが人間という生き物。大正の人々はそれでも上を向いて、復興へと突き進んでいったのです。
歴史から学んだ、逆境に立ち向かう力
近代史を学んでいると、どうしても人間の愚かさのようなものに心が痛む瞬間があると思います。しかし忘れないでください、人間には逆境に立ち向かえるだけの底力や、やさしさ、気高さがあるのです。
きっと誰にでもあるその良さを持って、令和の世に蔓延る疫病という逆境に立ち向かっていけたらいいなと思います。もちろん、疲れたら休むのも忘れずに。
話がだいぶ逸れてしまったような気がしますが、「歴史から学ぶ」という意味ではコラムらしいコラムだったのではないでしょうか。
それでは今回はこれにで筆を置かせていただきます。それでは!
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