はじめに
こんにちは。元自衛官のヨメナルドです。今回は、災害時や防災についての制度についてお話したいと思います。
災害時には市民が素早く避難ができるように、また、救助や救援が素早く行えるような制度や仕組み作りが着々と行われていることにより、私達市民の生活にもプラスとなっているのをご存知でしょうか。私も、防災や法律に関する勉強をするまで、災害に関する法律がたくさんあることを知りませんでした。しかし、学べば学ぶほど様々な法律があり、災害を教訓にどんどん改正されていることを知りました。
防災の面では、できるだけ多くの人が制度を知ることによりスムーズな避難や災害対応が可能となり、社会全体にとって大きな利益となります。
そこで今回は、記憶に新しい「大雪での立ち往生」に焦点を当て、災害時に素早い避難や復旧が可能となる制度や、その制度が私たちにも有益となることをご紹介したいと思います。
豪雪の際の立ち往生
今シーズンも、豪雪による道路での車両の立ち往生が多く発生しています。その際、国土交通省の各地域の国道事務所や県の土木事務所など道路の管理者が立ち往生の解消にあたっています。自衛隊は、災害派遣要請が発出されると、ドライバーの安否確認や物資の配布を徒歩で行うほか、スタックしてしまった車両をつり上げるなどの処置も行っています。
実は、豪雪での立ち往生の解消は、つい7年前まではさらに時間がかかり、数日間にも及んでいました。
しかし、現在はそれほどの時間を要せずとも立ち往生の解消が可能となっています。これは、大雪や地震、津波などの災害時に素早く道路を開通させることに対し、安心して市民が協力できるような制度作りがされたことも一つの要因となっているのです。
避難や救助が素早く行えるような制度をつくるきっかけ
素早く道路を開通させるための制度の必要性が認識されるきっかけとなったのが、東日本大震災です。
当時、東北地方の道路では甚大な被害が生じました。スピードが命の救助・救援のためには、道路の素早い啓開(緊急車両等が通れるよう、早急に最低限の瓦礫処理を行い、簡易な段差修正等により救援ルートを開けること)が必要でした。そこで「くしの歯作戦」という方法で、被災沿岸部へのアクセスルートを確保しました。
この「くしの歯」作戦により、被災地へ自衛隊や消防などの緊急車両を迅速に通行させることができ、復旧や支援活動を行うことができるようになりました。
しかし、同じ大震災でも緊急自動車の通行が困難となったところがあります。それが首都圏です。
写真の通り、震災当日夕方の一般道には、高速道路や公共交通機関が利用できなくなったことにより車両が溢れました。もし、想定されている首都直下地震が起こったら、運転手が徒歩で避難してしまった車(中には鍵を付けたままにすることを忘れて車両を離れる運転手がいることも考えられる)や地震の衝撃で事故を起こしてしまった車などが道路を塞ぎ緊急自動車が通れなくなり、救える命が救えないことが予想されました。
さらに、平成26年2月14日の関東甲信地方を襲った大雪では、様々な道路で立ち往生が発生。車両が除雪の障害となり、除雪車での除雪が滞り、立ち往生箇所が増えるという状況に陥りました。
この首都圏で予想される渋滞等による乗り捨てや移動困難車、大雪による立ち往生をいかに早く移動させ緊急車両や復旧車両を通すかがその後の災害での課題となりました。
車両を持ち主でない人(道路管理者)が動かせる制度の追加
そこで国は、平成26年に災害時に道路を素早く啓開するための制度を盛り込んだ「災害対策基本法」の改正を行いました。
内容として、緊急車両の通行を確保するために、大雪時や災害時に災害対策法で区間指定された道路で立ち往生や放置車両が発生した場合に、道路の管理者がその車両を持ち主の許可がなくとも移動できるという条文の追加です(同法76条6項)。
でも、持ち主にしてみたら「移動させられたときに大事な愛車に傷をつけられるのは嫌!」と思う人もいるかもしれません。そうなると、車両を移動させることができずに道路の開通が遅れ、救援や復旧、市民生活への影響が考えられます。
そこで、万が一車両を移動させる際に車が傷ついた場合、やむを得ない限度での車両の破損に道路の管理者から補償がされるという法律の条文も一緒に追加されました(同法82条関係)。
例えば、
・ロックやサイドブレーキを外すために割ったガラスの修理代
・また、擦り傷やバンパーのへこみ、車両の変形の修理代
など、車両の移動等に際し生じた損失の修理に要する費用を想定しています。
まとめ
上記のような損失の補償など災害時の制度や仕組みを知っていれば、皆さんも安心して災害時に行動ができ、復旧も早く行えるようになると考えます。現に、この制度が作られた直後の平成26年12月の大雪での四国の愛媛県と徳島県を結ぶ国道192号の県境付近・広島県と島根県を結ぶ国道54号の県境付近の立ち往生では、制度を利用した迅速な道路の啓開により道路の開通が早まったとのことです。
災害時の制度を知ることは自分を助ける「自助」であることはもちろん、社会全体が上手く回る助けになります。しかし、たくさんの制度があり、その情報収集や取捨選択は難しいものです。
私もできるだけ多くの皆さんに、災害の際にためになる制度を周知できるように、自分ができる範囲でお伝えできればと考えております。
【参考文献】
・衆議院HP「第187回国会 災害対策特別委員会 第6号(平成26年10月31日(金曜日))」
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigirokua.nsf/html/kaigirokua/002218720141031006.htm
・国土交通省『平成22年度国土交通白書』
・国土交通省『災害対策基本法に基づく車両移動に関する運用の手引き』
https://www.mlit.go.jp/road/bosai/vehicle_movement/guidance.pdf
・国土交通省HP「改正災害対策基本法の初適用による立ち往生車両の排除」
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