2003年、2010年、2015年、2020年…ブルーインパルス パーフェクト・ガイドブックの最新刊が2020年の今年、ブルーインパルス創立60周年版として11月5日に発売された。

 今年も写真と解説と資料と盛りだくさんのメニューを楽しめる、手応え十分かつ益々進化した一冊に仕上がり安心した。何よりブルーインパルスもファンも大変なこの時期に刊行してくれたことが嬉しい。

 筆者にとってはバイブルであり一級資料である。前記事「ブルーインパルスの存在意義-広報活動と抑止力-」の終わりに、筆者をブルーインパルスへの熱狂へといざなった言葉として、当時の隊長の「自衛隊と国民の一体感を示すフライト」という言葉を2003年版より引用させて頂いた。その言葉に出会ったときの、航空自衛隊の隊長はこんな凄いことを言えるのか!と鳥肌が立ったことや初めてイベントで声をかけたナレーターのTRパイロットが救命装備の紹介ページのモデルになっていたこと、そのひとつひとつが嬉しくて、毎日毎日見返していたことを今でもよく覚えている。

 この本は、熱狂的ブルーインパルスファンとしての筆者をBOOT(起動)してくれたのだ。当時はいまのように通販で何でもグッズが手に入り、SNSで今日の訓練で何が行われたかが瞬時に伝わるようなことはない時代だった。しかし、何か世の中が2000年の事故から完全復活したブルーインパルスを盛り上げようとする大きなうねりの中にあり、この本もその一部だったように思う。[

 今年2020年はどんな年であったか。忍び寄る新型コロナウイルスに怯えながら何とか聖火到着式を終え、11機も集められたアクロ仕様機のうち初期からの新造機は到着式後にすべて引退した。感謝飛行で東京の空を飛び、T-4全機改修中のエンジンは教育任務が優先され実質の機数減少となり、ブルーインパルスの年内展示飛行がないことが発表され、航空祭の中止が発表された。

 そんな背景の中で、この本は感謝飛行ではじめてブルーインパルスを見て興味を持ったファンには、その圧倒的なディテールや美しさ、そして輝かしい記録を示してくれる一冊となるであろう。

 もちろん、往年のファンにも、その定評のある資料性を含め大きな意味を成す一冊となるであろう。

 筆者は今年、初期新造アクロ仕様機ロスに陥った一人である。はじめて見た時に1番機であり隊長機であった725号機が数年前に退役し、少しずつ改修機に置き換えられていった中で、最後に731号機と745号機が引退し、初期新造アクロ仕様機が今年すべていなくなった。ブルーインパルスが恐らく聖火到着式のみならず何等かの形で参加してくれたであろう東京オリンピックが延期されたことや、航空祭がオールキャンセルになったことも残念で仕方がないが、世の中すべての人がこの逆境に耐え忍んでいる中、それに不平不満を言えば我儘にしかならない。だが、初期新造アクロ仕様機全機引退は違う。本書を読みながら気が付いた。筆者は「俺の知っているブルーインパルスがいなくなってしまった!」「俺は泣き喚きたいほどに悲しくて仕方がなかったのだ!」という気持ちだったのだ。

 初期新造アクロ仕様機が全機引退したのが3月末だった。それから(自覚していなかったが)ずっと沈み込んでいた気持ちが、ここにきて本書により救われた。

 後述する赤塚カメラマンのコメントにあるように、多忙なブルーインパルスを空撮できるチャンスは4、5年に一回しかないという。テレビなどの取材が多くなったこともあろうが、それ以外に元々六機揃った空撮には七機の機体と七人のORパイロット(ブルーインパルス六機+撮影機)が必要となる。練成訓練の進捗状況やIRANと呼ばれる重整備の日程も加味すると、条件が揃うのは年間でも限られた日数しかない。天候条件も加わり、空撮のチャンスはもっと限られてくる。

 そうした条件下で、巻頭を飾る三機の空撮は、実は10月27日(火)にテレビ東京で放映された「よじごじDays『〇〇が好きすぎる!ブルーインパルス密着』」の取材と同じ日に行われた。同番組の地上から撮影された飛行シーンの映像は、カメラシップがチェイスする空撮シーンだった。また、実はブリーフィングシーンの中央にも、赤塚カメラマンが、目立たないようにしていたが(笑)映っていたのだ。さらに11月6日(金)には、NHK「にっぽん縦断 こころ旅 とうちゃこ▽951日目 宮城県 東松島市」で、本書巻頭グラビアのデルタループの空撮シーンが映し出されていた。

画像: 《写真:赤塚聡氏》

《写真:赤塚聡氏》

 本稿のトップ写真をお借りするにあたり、赤塚カメラマンより新田原航空祭展開時の六機の空撮写真もあるとのご提案をいただいたのだが、この一枚を敢えてリクエストさせて頂いた。この一枚を含む本書の巻頭グラビアこそ、限られた条件の中、機数減少の中でもその機数を駆使して訓練を進める今年のブルーインパルス、そのものではないか。

 改めてこの写真を見てほしい。シリアル番号も新しいアクロ仕様改修機が三機飛行し、真下の北上運河はコンクリートの堤防に替わり、その一部の流れはRWY07/25と平行に改修されている。この中に震災を乗り越えて進む東松島市とブルーインパルスの姿が凝縮されていて、何かこの一枚から、あの日から今日まで何もできなかった自分をやっと受け入れ、許す力をもらえた気がした。限られた空撮機会に“全集中”する赤塚カメラマンの写真には、見るものに何かそんな力を与えてくれる。

 5年に一度と言わず、もっと赤塚カメラマンならではのブルーインパルスを見せてほしいと願う。

 本2020年版は2010年の50周年版以来の完全撮りおろしで制作され、同じくレッドブル・エアレース世界チャンピオンのオフィシャル・カメラマンを務める今原太郎氏も制作に加わった。今原カメラマンのブルーインパルスメンバーの人物描写にも定評があり健在だ。

 ブルーインパルスファンとしての筆者はいま、本書により、その熱狂をREBOOT(再起動)されたような気持ちである。

赤塚聡カメラマンからのコメント

 最後に本書刊行にあたり赤塚聡カメラマンより頂いたコメントを掲載させて頂く。

『ブルーインパルスに憧れてパイロット、そしてカメラマンになった私にとって、今でもブルーは憧れの存在です。実際に同乗して空撮取材できるチャンスは4~5年に1度程度しかありませんので、とても楽しみな反面、そのプレッシャーはかなり大きなものです。2020年はブルーインパルスにとって創設60周年という記念すべき年ですが、残念ながらコロナ禍により展示飛行の機会が失われてしまいました。それでも前向きに訓練に励む隊員たちの姿を本書から感じ取って頂けたら幸いです。

 本書はビジュアル面だけでなく、ブルーインパルスに関する基礎知識や展示課目の詳細、60年のヒストリー、展示飛行の実績など、ブルーを深く知る上での資料としてもご活用いただけると思います。特に今回は3月20日の聖火到着式で描かれた「オリンピック・シンボル(五輪マーク)」の発案から本番までの経緯を関係者にインタビューし、詳細に解説した記事にも注目していただきたいです』

画像: 赤塚聡カメラマンからのコメント

イカロスMOOK『ブルーインパルス パーフェクト・ガイドブック』収録内容

◇T-4 Blue Impulse
◇ブルーインパルスが東京の空を飛んだ!
◇聖火到着の大空に描かれた五輪
◇こうしてエアショーが完成する!
 - 松島→新田原
 - 展開ミッション・ドキュメント4日間
◇2020年、ブルーの機体が全機リニューアル!
 - T-4ブルー徹底解剖
 - “戦技研究仕様機化”改修とは
◇どんなチーム? 知っていればもっとブルーが楽しめる豆知識満載!
 - ブルーインパルス基礎知識
 - 組織、ホームベース、ドルフィン・ライダー(パイロット)、ドルフィン・キーパー(整備員)、チーム編成、訓練
◇最新展示飛行課目ガイド
◇創設60周年! ハチロク、T-2、T- 4ブルーの足跡を追う
 - ブルーインパルス・ヒストリー
◇資料編
 - 航空祭ナレーション
 - ブルーインパルスデータブック
 - 歴代メンバーリスト
 - F-86ブルーインパルス公式展示飛行リスト
 - T-2ブルーインパルス公式展示飛行リスト
 - T-4ブルーインパルス公式展示飛行リスト

赤塚聡氏プロフィール

画像: 1966年、岐阜県生まれ。航空自衛隊岐阜基地の近傍で育つ。 小学校高学年の時に写真と出会う。 高等学校卒業後、航空自衛隊に航空学生として入隊。 第7航空団(百里基地)でF-15J戦闘機のパイロットとして勤務の後、カメラマンに転向。 前職の経験を活かし、主として軍用機の撮影を得意分野とし、同乗による空撮も多数手がける。 航空専門誌などに作品を発表する傍ら、各種カレンダーの制作・撮影などを担当、また映画をはじめ動画コンテンツでも航空機の空撮を行っている。 著書「航空自衛隊の翼 60th」(イカロス出版)、「ドッグファイトの科学」「ブルーインパルスの科学」「航空自衛隊『装備』のすべて」(SBクリエイティブ:サイエンス・アイ新書)、「T-4 Blue Impulse」写真集(TIPP) 日本写真家協会(JPS)会員 日本航空写真家協会(JAAP)会員

1966年、岐阜県生まれ。航空自衛隊岐阜基地の近傍で育つ。
小学校高学年の時に写真と出会う。
高等学校卒業後、航空自衛隊に航空学生として入隊。
第7航空団(百里基地)でF-15J戦闘機のパイロットとして勤務の後、カメラマンに転向。
前職の経験を活かし、主として軍用機の撮影を得意分野とし、同乗による空撮も多数手がける。
航空専門誌などに作品を発表する傍ら、各種カレンダーの制作・撮影などを担当、また映画をはじめ動画コンテンツでも航空機の空撮を行っている。
著書「航空自衛隊の翼 60th」(イカロス出版)、「ドッグファイトの科学」「ブルーインパルスの科学」「航空自衛隊『装備』のすべて」(SBクリエイティブ:サイエンス・アイ新書)、「T-4 Blue Impulse」写真集(TIPP)
日本写真家協会(JPS)会員
日本航空写真家協会(JAAP)会員

文:ブルーインパルスファンネット管理人


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