ー新災派から8カ月ー 17隊員の証言
「どう行動し、何を思ったか」 災害派遣活動 ー 防衛日報社アンケート

 今年1月31日、中国・武漢から日本人帰国者を乗せた民間チャーター便に、自衛隊の看護官2人が同行した。新型コロナウイルス感染症関連で初の災害派遣活動だった。以後、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の医療支援、民間宿泊施設での生活支援や健康管理、医療施設への輸送、空港検疫、自治体や企業などへの感染症予防の教育支援まで、活動は広範囲に及んだ。この約8カ月、コロナと向き合った隊員たちはどう行動し、何を思ったのか。防衛日報社は自衛隊の協力を得て6月以降、アンケートを実施。17人から回答が寄せられた。今後、予想されるインフルエンザとの同時流行を前に、隊員の貴重な証言を紹介する。

 **趣旨・質問内容**

 防衛日報社では、新型コロナウイルス感染症に伴う災害派遣で出動した部隊などの隊員の生の声を取り上げ、今後のコロナ対策、災派活動の参考にしてもらうことを念頭に、統合幕僚監部を通じてアンケート調査を実施。7組織17人の回答が寄せられた。質問は、

①実際の活動内容
②派遣決定時の気持ち
③活動で難しかったこと
④活動を通して学んだこと
⑤自衛隊員としての思い

 の5項目とした。

 ※本企画での写真は活動の様子を紹介するものであり、アンケート回答の隊員とは一致いたしません

(1)20代男性 2陸尉・医官(陸自東北方衛生隊)

 横浜港に停泊した「ダイヤモンド・プリンセス号。陸自東北方面衛生隊(仙台駐)の隊員25人は、2月6日から3月16日までの40日間、現地へ派遣された。その中に、乗客への支援や自衛隊中央病院での外国人乗客対応の通訳を続けた隊員がいた。20代男性の2陸尉(医官)だ。

 ◇確実に完遂できるか◇

 活動は、①船内で感染が疑われる人の検体の採取とその処理に関する業務 ②健康相談 ③夜間の当直業務を含む診察 ④トリアージによる搬送の調整 ⑤薬剤の仕分け―など多岐にわたった。

 「自分より能力も経験もある先輩医官がいる中で(災派のメンバーに選ばれ)、任務を確実に完遂できるか不安だった」。2陸尉は、派遣が決まったときのことをこう振り返る。

 また、活動を続けていく中で感じたこともあった。「他省庁との組織文化の違いや部隊の派遣サイクルのずれがある中、確実に意思の疎通を図り、共通の認識を持った上で任務にあたる難しさがあった」

 ◇意思疎通の重要性◇

 日本では、同号での集団感染がきっかけとなり、まったく経験のない新しい感染症の脅威が静かに浸透していたことが知れ渡った。隊員たちは命がけで活動を続け、さまざまな支援にあたった。2陸尉もまた、任務の完遂のため必死に取り組んだ。

 「他の組織と連携し、業務が複雑・多岐にわたる際は、積極的なコミュニケーションによる意思の疎通が重要であることを学んだ」

画像: ダイヤモンドプリンセス号での検体採取の様子

ダイヤモンドプリンセス号での検体採取の様子

 ◇いかなる状況下でも◇

 自然災害以外でも、さまざまな形で災害派遣活動の要請は増え続けている。今回の活動に対する自衛隊員としての思いを、2陸尉はこう書き記している。

 「今回の災害派遣で得た経験を糧に、いかなる状況下でも適切な医療を提供できる医官に成長できるよう研鑽(けんさん)を重ねたい。そのためにも、日々縦横のつながりを大事にし、任務を遂行していく」

この8カ月の経緯

 世界各国で未曾有の大流行となった新型コロナウイルス感染症。日本では、陽性者が約8万人を超え、1500人以上が死亡している(9月30日現在)。

 国内では、3月下旬の連休を機に感染が拡大。4月7日には政府が「緊急事態宣言」を発出した。これに伴い、各都道府県知事からの派遣要請が増え、医官らによる帰国者・入国者に対する水際対策支援も強化された。

 4月以降は、市中感染拡大防止のための災害派遣が増え、陽性者や民間事業者らを対象に計29都道府県で感染者への対処などの教育支援を実施した。

 防衛省はホームページで、災派で隊員が感染しなかった要因として、(1)武漢からのチャーター便に看護官を派遣したことで、機内でのオペレーションが以後の活動に生かされた(2)防護服の着脱など自衛隊独自の高い防護基準を適用したことなどを挙げている。

 河野前防衛大臣の公式サイトによると、「1月31日から3月16日まで、『ダイヤモンド・プリンセス号』関連の災害派遣は延べ約4900人、3月28日から5月31日まで空港でのPCR検査の検体採取支援や帰国者の輸送支援、生活支援で延べ8700人が活動した」となっている。

 現在の災派は、教育支援活動が中心。感染予防策について、自治体職員や民間宿泊施設従業員、拘置所職員らへの教育を実施し、民間への引き継ぎを行っている。今後は、定期的な巡回による現地確認や助言を実施するとしている。

自衛隊の災害派遣

 令和2年版「防衛白書」によると、令和元年8月の九州北部豪雨では延べ約7500人が現地活動(活動人員は延べ約3万2000人)、航空機延べ約50機が活動にあたった。

 また、同9月、千葉県などを襲った台風15号では、延べ約5万4000人が現地活動(活動人員は延べ約9万6000人)、活動した航空機延べ約20機、給水量は延べ約1300トンに上った。

 さらに、東海、関東地方にかけて大きな被害をもたらした同10月の東日本台風(台風19号)では、延べ約8万4000人が現地活動(活動人員は延べ約88万人)、艦艇延べ約100隻、航空機約1610機が活動、給水量は延べ約7030トンだった。

 河野前防衛大臣は災害派遣活動について、自らの公式サイトで災派に出動した隊員の数が初めて100万人を超えたのは阪神大震災があった平成6年度で、延べ約157万人が従事したとしている。

 東日本大震災の翌月から始まった23年度は延べ約1074万人と最大級となり、熊本地震があった28年度は延べ約85万人、7月豪雨などの30年度は延べ約119万人、東日本台風があった令和元年度は約106万人が活動した。

統幕長会見から見る災派

 統合幕僚長の山崎幸二陸将は定例記者会見で、自衛隊の災害派遣の状況をその都度報告し、自衛隊としての責任や隊員への思いなども語ってきた。ホームページから、災害派遣の経緯と報告内容を時系列で掲載する(一部抜粋)。

 2月6日 (1月31日に)民間チャーター便による武漢からの帰国者に同行する看護官2人を派遣した。現在までに、帰国邦人らの宿泊支援、健康管理支援などの活動を行っている。「ダイヤモンド・プリンセス号」で感染が確認されたので、本日から活動する。

 2月27日 約80人で税務大学校での宿泊支援を行うほか、健康管理支援、民間船舶の患者や下船者の輸送支援などを計760人で実施。引き続き、国民の安心・安全のため、与えられた任務に万全を期す。

 3月19日 1月31日の災害派遣命令発出後、予備自を含む約8700人の隊員が支援を実施した。3月16日をもって、今回の自主派遣活動を終結した。

 「今回の特徴は、見えない敵であるウイルスとの闘いという、自衛隊が経験したことのない種類の災害派遣だったこと。任務にあたった隊員は、指揮官を中心に一致団結し、強い責任感・使命感を持って任務に邁進(まいしん)してくれた。これも日ごろの訓練の成果だと認識している」

市中感染が拡大しており、引き続き、支援ニーズを踏まえ、対応していく。

 4月2日 3月28日に「水際対策強化に係る災害派遣に関する命令」が下された。現在、約10人の医官らが成田空港で検疫支援を実施。約50人が空港から宿泊施設への輸送支援、約30人が宿泊施設の滞在者への支援、約30人が空港などでの指揮所活動などを行っている。また、後方支援や交代要員などに約130人が従事している。4月1日時点の合計は、検疫支援は延べ343人、輸送支援は延べ644人、宿泊支援は延べ1335人。

 4月9日 水際対策は延べ2200人。(4月7日の「緊急事態宣言」発出後)長崎、鹿児島両県で離島からの緊急患者の空輸、宮崎県での検疫支援、東京都のホテルに滞在する軽症者と無症状者の生活支援などを実施。

 4月16日 水際対策は4月15日現在、延べ約6380人。各都道府県知事からの要請に基づく派遣は8都府県、延べ680人。

 5月14日 水際対策は5月13日現在、延べ約1万2500人。市中感染への対応は13日現在、28の都道府県で延べ約1900人が実施。特に教育支援のニーズは高く、1500人以上に衛生教育や防護服の着脱要領などを説明した。

 6月18日 引き続き、しっかりと任務を果たしていく。

 7月16日 引き続き、新型コロナウイルス感染防止策の徹底を図りつつ、関係省庁などと緊密に連携し、災害派遣活動に取り組んでいく。

 7月30日 (在日米軍司令官と東北地方の部隊などを訪問したことに関連し、東日本大震災の際、日米共同で対応した「トモダチ作戦」を振り返り)ともにコロナ禍を乗り越え、連携を強化していくことで一致した。

 8月27日 8月18日、沖縄県に陸自15旅団、自衛隊那覇病院から看護官、准看護師10人を派遣。後方支援要員約10人とともに医療支援活動を実施。22日には、陸自西部方面隊の看護官・准看護師5人と後方支援要員5人を増員し、現在、約30人が対応している。


◆関連リンク
防衛省・統合幕僚監部 - 災害派遣特設コーナー(新型コロナウィルスに係る災害派遣)
活動実績(PDF)
https://www.mod.go.jp/js/Activity/Gallery/images/Disaster_relief/2020covid_19/2020covid_19_press3.pdf

防衛省・自衛隊:防衛白書
https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/

「自治体職員らに感染防止教育」金沢駐屯地(防衛日報デジタル 2020年7月5日掲載)
https://dailydefense.jp/_ct/17373728

「新型コロナ災派、県内医療機関を支援」陸自15旅団(防衛日報デジタル 2020年8月29日掲載)
https://dailydefense.jp/_ct/17387361


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