中国は「最大の挑戦」と明記
南西地域の防衛強化へ機動展開
【2022年12月23日(金)1面】 政府は12月16日、今後10年程度の外交・防衛政策の指針となる「国家安全保障戦略」など新たな安保3文書の改定を閣議決定した。自衛目的で敵ミサイル拠点などへの打撃力を持つことで攻撃を躊躇(ちゅうちょ)させる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記し、戦後の安保政策を大きく転換。長射程ミサイルを令和8年度から順次配備するなど、同5年度から5年間の防衛力整備経費を約43兆円と定め、9年度に対国内総生産(GDP)比2%とし、防衛力の抜本的強化に取り組む方針だ。また、海洋進出を強める中国の軍事動向などについては、「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記した。
安保3文書
・国家安全保障戦略=最上位文書。10年程度の外交・防衛のほか、経済安保、サイバーなど安保政策の指針
・国家防衛戦略(旧・「防衛計画の大綱」)=防衛の目標と達成するためのアプローチと手段を設定
・防衛力整備計画(旧・「中期防衛力整備計画」)=保有すべき防衛力の水準を示し、達成するための中長期的な計画。5年間の防衛費総額、約10年先の自衛隊の体制を示す
◇3文書の主なポイント◇
【国家安全保障戦略】
・日本の安全確保、繁栄実現、自由で開かれたインド太平洋を維持 ・発展
・中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と明記
・反撃能力の保有を明記
・重大なサイバー攻撃を未然に排除する「能動的サイバー防御」を導入
・防衛装備移転3原則や運用指針の見直しを検討
・2027年度にGDP比2%を達成
【国家防衛戦略】
・自衛隊に常設の統合司令部を創設
・航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に改称
【防衛力整備計画】
・防衛費を23年度から5年間で43兆円程度にする
・米国製のトマホークを購入
①国家安全保障戦略
●日米同盟は基軸●
安保戦略では、外交、防衛に加え、経済安保、技術、サイバー、情報などの国家安全保障戦略に関する分野の政策に戦略的指針を与えるもので、おおむね10年程度の期間を念頭にしている。改定は、2013年(平成25)の策定以来初めて。
文書では、日本周辺で軍備増強が急速に進展。「(日本が)戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」との認識を示し、中国や北朝鮮を念頭に「力による一方的な現状変更の圧力が高まっている」と指摘。
また、「サイバー攻撃、偽情報拡散などが平素から生起しており、有事と平時の境目がますます曖昧あいまいになっている」として、反撃能力の保有をはじめとする防衛力強化の重要性を訴え、一連の施策が「戦後の安全保障政策を実践面から大きく転換する」と強調した。
一方で、平和国家として「専守防衛」「非核三原則」を堅持する姿勢を明示。「必要最小限度の実力行使」などの武力行使の三要件を満たした場合に限り、反撃能力を行使できると規定。また、日米同盟が「安全保障政策の基軸」と強調し、米国による拡大抑止の提供を含む同盟の抑止力と対処力を一層強化するとした。
反撃能力 国家防衛戦略では、「反撃能力」について記している。
保有する必要性として、「ミサイル攻撃が現実の脅威。既存のミサイル防衛網を強化していくが、それのみでは完全な対応が困難」とし、「飛来するミサイルを防ぎ、相手からのさらなる武力攻撃を防ぐため、有効な反撃を相手に与える能力が必要」としている。
その際は、武力の行使の三要件に基づき、攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として可能とすることを記している。
【武力行使の三要件】 憲法第9条の下で、自衛の措置としての武力の行使が許容されるための要件。(1)日本に対する武力攻撃が発生したこと、または日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること(2)これを排除し、日本の存立を全うし、国民を守るためにほかに適当な手段がないこと(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと―。平成26年に安倍内閣が閣議決定した。
●中露の戦略的連携強化●
文書では、日本を取り巻く安全保障環境にも言及した。
特に中国の動向については、(1)軍事力を広範かつ急速に増強(2)力による一方的な現状変更の試みを強化(3)ロシアとの戦略的な連携の強化、国際秩序への挑戦(4)台湾について武力行使の可能性を否定せず―などとした上で、「これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、わが国の総合的な国力と同盟国・同志国などとの連携により対応すべきもの」などと記した。
また、ミサイル発射を続ける北朝鮮に対しては、「従前より一層重大かつ差し迫った脅威」、ウクライナへ侵略したロシアには、「欧州方面における安全保障上の最も重大かつ直接の脅威と受け止められている。北方領土を含む極東地域で軍事活動を活発化させており、中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念」とした。
●海自と海保の連携●
防衛力の抜本的な強化の具体策も提示。従来の領域横断作戦能力に加え、(1)スタンド・オフ防衛能力、無人アセット防衛能力などを強化(2)反撃能力の保有(3)令和9年度に、予算水準をGDP比2%に達するよう措置(4)有事の際の防衛大臣による海上保安庁に対する統制を含む、自衛隊と海保との連携強化―などだ。
このほか、防衛装備移転三原則・運用指針などの制度の見直しや防衛生産・技術基盤の強化、人的基盤強化など(ハラスメントを一切許容しない組織環境など)も盛り込んだ。
また、重大なサイバー攻撃のおそれがある場合、未然に排除するなどの「能動的サイバー防御」を導入するほか、自衛隊・海保の宇宙空間の利用や、情報収集能力を大幅に強化するなどして、「認知領域」における情報戦への対処を強化するため、偽情報対策の新体制を整備する。
●国力で安全保障を確保●
最後に、日本の国家安全保障を支えるために強化すべき国内基盤として、(1)安全保障と経済成長の好循環の実現(2)国民の安全保障に関する理解と協力(3)政府と企業・学術界との実践的な連携の強化―などとし、総合的な国力により安全保障を確保するとした。
【安保3文書 記事】
(②国家防衛戦略)現有装備の稼働率向上、弾薬・燃料の確保など
(③防衛力整備計画)防衛費 5年間で43兆円規模
岸田首相が会見「戦後の安保政策 歴史的に転換」
浜田防衛相「反撃能力行使のタイミングは『武力攻撃に着手した時』」