安心安全な世の中になるほど、人は無防備になり「自分は大丈夫」という根拠のない自信が生まれる。「自分は大丈夫」、はたしてそうだろうか。災害が起こった時、普段から「想定外」を想像し備えることで、復興を早め、より早く日常を取り戻すことができるのではないか。
BCPの重要性
会社や施設を経営している方の多くは「BCP」という言葉を一度は耳にしているであろう。
「BCP」とは事業継続計画の事であるが、皆さんはこの「BCP」の重要性を本当に理解しているだろうか?ネットで雛形を検索して、必要箇所だけ書き換えての申請などはしてはいないだろうか?
先日、災害発生後の緊急車両通行を可能にするための「道路啓開(緊急復旧)計画」が17都道府県で策定されていない事を国土交通省が発表した。その多くが日本海側で、能登半島地震被災地(石川・富山・新潟)も未策定であった。
驚いたのが、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手・宮城・福島も未策定だという事だ。加え東日本大震災で影響を受けた茨城と、液状化の被害が多かった千葉も未策定である。
一度起こったことは「過去のもの」
一度大震災が起こったらもう震災が起こらないとでも思っているのだろうか?
13年前、東日本大震災という未曾有の被害を経験したにもかかわらず、次の「想定外」に備えないというのは、油断しすぎと思われても仕方ないのではないか?
20年前に発生した新潟沖中越地震。トンネル崩落や土砂災害、液状化など大変な事態となった新潟は、能登半島地震でも液状化の被害にあっている。これも「想定外」なのだろうか。
私が毎回感じているのは、被災の有無に関わらず、過ぎたあとの対策意識はどこもさほど変わらないというところだ。もっと言うならば、被災したところほど「過去のもの」として語り継ぎはするものの、対策を形だけにしているところが多いと感じるのである。
それが冒頭述べた国土交通省の発表にも表れているのではないか?
前回プロフェッショナルの活動について取り上げさせていただいたが、彼らは常に有事を想定した訓練を続けている。
ではなぜ、国民に頼られる立場の国や行政は、ことが起きてからしか緊急措置を行えないのか?それは、「想定外」を想像していないがために、起きてからしか動けないのだと私は思う。
災害後の復興はもちろん大事だ。しかし、「復興」だけで終わらせてしまっては、次の被害により、さらなる復興が必要となる、これを繰り返す事を想像できないのだろうか?そして皆に必要なのはBCP策定だけでないという事をなぜ伝えないのだろうか?
「BCP」とは事業継続計画であるが、日本がこれを差すのは「計画書」のみである。大切なのはそのあと「BCM」「BCMS」に加え、「DRP」「RTO」「RPO」「RLO」であるが、「DRP」以降は耳にしたことがないというのが殆どではないだろうか?
私はRLOまで全て考え、文書だけで済ませないことが本当の「BCP」だと思う。
これらは経済に直接関わる企業などだけでなく、皆が関わることであり、それぞれ個々が考えなくてはならない。
集合住宅の配管は共有部
もう少し、小さい規模で考えてみよう。例えばマンションなどの集合住宅。 多くの人々が同じ建物に住み、共有するスペースなどがある為、戸建てと違った対策が必要となる。マンションは躯体(くたい)が丈夫ということから「在宅避難」を強いられる。が、躯体は壊れなくとも中身はぐちゃぐちゃ、エレベーターも使えなくなるため、高層階ほど孤立してしまう。また、有事の際は集会室やエントランスなどが避難場所とせざるを得ない状況も生まれてくる。
また、配管も共有部という意識はあるだろうか?
停電した時点で排水禁止と知っている者は少ないと思う。停電時には下水施設の運転が停止するため、各世帯が流した汚水全て下水に流れることなく溜まり、最悪逆流するのである。
また震災の際は配管に亀裂が入ってしまう事もあり、どこかの家に誰かの家の汚水が染み出てくる可能性もある。想像するだけで非常に不快ではないか?
人に迷惑をかけない為にも、非常食にカップラーメンなどを食べる際は汁まで飲み干す、歯磨きで口をゆすぐのもトイレ凝固剤の上などで行うなど、理解した上での行動が必要となってくる。
これら、ほんのチョットの事例でも頭の痛い内容だが、課題の1/10も満たしていないことにお気付きだろうか。
備蓄からトイレ・ゴミ問題、寒暖対処から何から何まで自主防災を強いられ、復旧にもかなり時間がかかる事を想定すると、これこそBCPが不可欠ではないか?
マンション火災の恐ろしさ
そして何より恐れなくてはならないのが、火災である。
火災が発生した時、マンションの避難経路は実質玄関一か所のみと思った方が良い。「避難はしごがあるではないか!」と言われるかもしれないが、避難はしごの蓋を開けた事がある者はどれだけいるのだろう?防災点検の時だけ、蓋の上の物をどかしてはいないだろうか。
何より、そのはしごを高齢者や小さな子どもが下りられるのか?行きつくまでのパーテーションを破る勇気は?
諸々考えたとき、室外に出る手段は玄関となるのだが、共有部に物があったらどうだろう。急いで避難をしなけれいけないなか、煙で視界は悪く、何かにつまずきなかなか前に進めない...その上火災発生が階下だったら⁈階下から起こる火災ほど、炎と煙が上へと昇ってくるので避難経路は火と煙の通り道となる可能性が高い。普段から「想定外」を想像せず「自分だけが良ければいい」という考えが多くの被害者を生んでしまう可能性がある。
「想定内」を考える
これら様々な視点から私は「想定内」を伝えている。
安心安全な世の中になるほど、人は無防備になり「自分は大丈夫」という根拠のない自信が生まれる。これを「正常性バイアス」と言うらしいが、こんなものが命を守ってくれるはずもなく、被害は大きくなる一方である。
復興を早め、早く便利な生活に戻りたいのであれば、日頃から「想定外は想定内」の意識で、復旧に至るまでの計画を考えて備える事が重要である。
被害が少なければ少ない程、あなたの望む便利な生活に戻るスピードは数段に上がるのだから。
「Re防災project」発足
時代の変化と共に災害対策をアップデートし続ける災害対策の日常化、「災害対策のシートベルト化」を実現させるためには、『強い地域づくり』が必要である。それには産官学民連携での意識改革と継続的な取組みが必須で、このどこが欠けても強い地域づくりは出来ず、災害弱者は増え続ける一方である。「産官学」が連携し「学民」の強化に繋げ、それが本当の意味での「国土強靭化」となる。
アスプラウト株式会社代表取締役である喜多村建代さんは、これらの取組みを「Re防災project」とし、2024.3.15より社団法人を立ち上げた。
プロフィール
喜多村 建代
アスプラウト株式会社 代表取締役
一般社団法人住環境創造研究所 企画広報部長
日本防災スキーム株式会社 パートナー
FOEX(フラスコオンラインEXPO)危機対策&アウトドア総合展 リーダー
15年間専業主婦の経験から、主婦目線、母親目線、民間目線と、プロ目線だけでは見落としがちな部分に焦点を置き、同じ志を持つそれぞれのプロフェッショナルとタッグ組んで、あらゆる対策に対しての柔軟で的確なサポートを行う。
感震ブレーカー開発者との出会いから災害対策に関わる事業に加わり、その後会社設立。
震災時火災、停電対策、防災教育などを中心に活動を拡げる。
「防災~明日を考える~」は、日頃からの防災意識を高めてもらい、いざという時のための役立つ情報発信の場として立ち上げた防災コンテンツです。
防災には、「自助・共助・公助」があり、みなさんも耳にしたことがあると思います。自助は自分自身、共助は地域で、公助は国(公的機関)が行うものです。防衛日報社では特に“自助”に焦点をあて、防災アイテムや防災に携わる企業を紹介するとともに、実際に防災に取り組まれている個人、団体のみなさまのご意見をコラムとして配信していきます。バックナンバーは下記からご覧ください。