侵攻阻止から撃破まで 迫真の「離島防衛」
陸上自衛隊は5月27日、東富士演習場(静岡県御殿場市など)で、国内最大規模の実弾射撃訓練「令和5年富士総合火力演習」(総火演)を実施した。演習では、島嶼(しょ)部に上陸を試みる敵を迎え撃ち、撃破するシナリオで、隊員約2500人が参加した。海洋進出を強める中国を念頭に、自衛隊の防衛力強化を国内外にアピールする狙い。総火演は今年で65回目。コロナ対策で3年連続中止されていた一般公開は、本来目的である教育訓練に注力するため、今回も解禁しなかった。
攻撃用のUAVNEWS運用・・・自衛隊の力内外にアピール
演習は、昼夜それぞれ前段と後段の2部構成で行った。従来型の陸上作戦能力の練度向上を図ったほか、防衛技術の発展を見据え、戦場の将来場を予想するような場面も見られた。
昼の部の前段では、陸自が保有・保有するUAV「スカイレンジャー」を投入。自爆機として標的に突入したり、爆弾を投下したりと、デモンストレーションを披露し、攻撃用UAVの可能性を示した。さらにネットワーク電子戦システム(NEWS)の運用についても紹介。電磁波情報を収集・分析し、敵の位置を把握するほか、敵の電子機器の統制機能を混乱させる機能も持つ。
昼の部の後段では、陸海空3自衛隊の統合運用による対艦戦闘に加え、地上部隊による敵部隊の離島上陸阻止のシナリオで実施。反撃拠点を確保する場面では、垂直離着陸輸送機V22オスプレイが離島防衛専門の「水陸機動団」を乗せて演習場内を飛行。陸自の新しい多用途ヘリコプター「UH2」も初登場し、ヘリからパラシュート降下部隊の隊員が次々と降り立った。
これに加え、16式機動戦闘車や、中距離多目的誘導弾などが砲撃し、敵部隊に見立てた的に次々と命中させていた。
夜間演習では、暗視装置や戦場照明使用下での射撃を実施。その後、海岸堡の確保を図る敵の侵攻を阻止するとの想定で、戦闘要領などを演練した。演習では約57.2トンの弾薬、戦車と装甲車計約68両、各種火砲計約71門が使用された。
演習には、浜田靖一防衛大臣が森下陸幕長とともに視察。3自衛隊の連携した情報収集活動能力や各種火器・火砲の正確な射撃を確認した。
総火演は一般公開が中止となったことから、動画投稿サイト「ユーチューブ」でライブ配信された。
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総火演に参加した主要装備は次の通り。
ネットワーク電子戦システム(NEWS)▽20式5.56ミリ小銃▽中距離多目的誘導弾▽19式装輪自走155ミリりゅう弾砲▽多用途ヘリコプター「UH2」▽87式自走高射機関砲(87AW)▽16式機動戦闘車▽V22オスプレイ
<編集部より>
「陸上自衛隊最大の」「国内最大規模の」…などの冠がつく「富士総合火力演習」は、「総火演」の略称で大人気の実弾射撃演習でした。本日1面で紹介したいのは、やはりこれです。「…でした」としたのは、以前は抽選でかなりの競争率を誇った一般向けの公開が、本来目的の教育訓練に注力するためとしてなくなったからです。
動画サイトでライブ配信されましたが、生の臨場感は素晴らしいものです。戦車・火砲の実弾(演習弾も含む)射撃やヘリコプターからの空挺降下など、実戦を模した大規模な内容であるだけでなく、陸自の一線級装備が多く参加し、その時々の背景に合わせた装備なども登場します。目の前で実弾が飛び、一連のシミュレーションに即した動きの流れなど、迫力満点です。「自衛隊を国民に知ってもらいたい」。その強い思いから始まったとされる演習は、在日米軍関係者や日本国内の外国公館に駐在している外国軍の駐在武官などとの軍事専門家も招待されていました。
一般公開がなくなった今回だからこそ、メディアとしての責務から、一般の方には生の迫力を伝え、感じてもらうため記者を派遣しました。「見学」「物見遊山」とは違う記者の取材結果を写真を中心に掲載しました。領域横断作戦下における島嶼(しょ)侵攻対処の場面で、統合運用の要素を含めた陸自の火力戦闘様相。デジタル版では写真を多く使い、時系列でさらに大迫力の特集的なものにしました。ご覧ください。
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