船底を点検する水中ドローン=日本水中ドローン協会提供

 【2023年3月14日(火)1面】 全自動で水中航行ができる自律型無人探査機(水中ドローン=AUV)が注目されている。本来の商業用途だけでなく、防衛省や海上保安庁などでは、日本周辺海域に進入する船や潜水艦などの警戒・監視にも役立てることを検討。昨年12月に改定された「安保3文書」の一つ「防衛力整備計画」では、「水中優勢を獲得するための各種無人水中航走体(UUV)を整備する」と明記した。日本への有事の際には、スタンド・オフ、統合防空ミサイル両防衛能力に加え、有人・無人アセットを駆使し、空中、海上とともに領域を横断して優越を獲得する方針が打ち出された。安全保障面でも大きな「力」となり得る水中ドローンの現状と今後の可能性などをまとめた(編集部・宇野木淳一)。

安保3文書改定
水中優勢獲得へ無人水中航走体を整備

 水中ドローンの正しい情報発信と普及啓発活動を行う「日本水中ドローン協会」によると、水中ドローンの世界市場規模は2020年から年間平均11.7%で成長し、27年には約9600億円に拡大するという。国内市場規模はこれを上回る12.9%の成長率で約610億円へと急成長する見通しだ(米国の市場調査企業「Allied Market Research」社調べ)。

 国内では今、船舶調査、海底調査、港湾護岸、ダム点検、養殖場調査、捜索・救助など、さまざまな産業で活用されている。

 飛行するドローンは電波によって操作する無線タイプが一般的だが、水中では電波が届かないため、人が操作する水中ドローンは、機体とコントローラーをケーブルでつなぐ有線タイプが現在は基本だ。

画像: 協会が保有する水中ドローンの一部=日本水中ドローン協会提供

協会が保有する水中ドローンの一部=日本水中ドローン協会提供

 水中ドローンの一般的なスペック(仕様)では約60分~90分稼働でき、水深100~200メートルほどまで潜航可能。ケーブルは100~200メートルのタイプが主流で、400~500メートルのものもあるという。

船底や海底調査、災害時の捜索・救助に活躍

 災害や人命救助、消防の水難救助現場でも水中ドローンの導入が増えてきている。

 協会の大手山弦事務局次長は、「水難救助での水中ドローンの役割は、人を引っ張り上げるのではなく、状況確認」と話す。水難救助・捜索の際は、消防隊員が現場に到着しても、すぐに救助活動を行えるわけではない。まずは現場の状況を把握し、隊員が安全に活動を行える準備をすることが先決だという。

 そこで、水中ドローンで先行捜索を行えば、要救助者が障害物に挟まれていたり、引っかかっているなどの状況把握ができ、事前に準備をして迅速な救助活動が行える。また、ドローンのケーブルをたどることで、要救助者への最短距離を進めるのもメリットだという。

 水中ドローンは、今後の国防にも大きく関わってきそうだ。令和5年度当初予算案の防衛関係費では、「機雷の敷設された危険な海域に進入することなく、機雷を処理できる水上無人機を整備」「機雷捜索用の水中無人機を整備」などの項目が記された。

 大手山氏は「マルチビームソナー、レーザースケーラーなどのオプション機器を拡張することで、水中ドローンを機雷探知などに活用できれば」と期待を寄せる。

 濁りがひどく、視界が悪い水中ではマルチビームソナーが活躍。ソナーから扇状の音波を出し、跳ね返ってきた情報を映像化し、約20メートル先の水中の構造状況が確認できる。

 また、レーザースケーラーは、機体に取り付けてレーザーを照射することで、対象物などのサイズ測定をする。機雷の場所や形状、大きさなどを把握する調査目的なら実用化の可能性はあるという。

 AIなどのアルゴリズムやプログラミングによって自動で動くAUVなら、人が操作する必要がなくケーブルも不要のため、より深い水深や距離で活動できる。

海自は機雷除去・探知、潜水艦に代え情報収集活動も

 海自の護衛艦「もがみ」には、無人機雷排除システムの一部である自律型水中航走式機雷探知機(OZZ-5)を整備。あらかじめ設置されたルートプランに従い、自律的に水中を航走して機雷などを探知する。

 海洋に関する基盤的研究開発や学術研究の協力などの業務を行う「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」では、設定したルートに従って自律的に海中を調査するAUVを、海底地形調査や海底鉱物資源の調査に活用している。

 同機構が保有する「AUV-NEXT」は、水深4000メートルまでの探査が可能で、最大40時間(222キロ)運航できる。

 自律型の仕組みは、潜航前にあらかじめ設定したルート(速力、緯度、経度、高度または深度)を通るように、内部のプログラムによってスラスタ(プロペラなどの推進装置)の回転数や舵角の指令値がリアルタイムに算出されて制御されているという。

 急激な流れがあった場合でも、「一時的に測線からずれても、測線上に沿うように制御がかけられているため、あて舵をとりながら測線に徐々に戻る」(海洋研究開発機構)。

 同機構によると、「海外では軍事・防衛分野での利用で今後AUV市場の拡大が見込まれている」という。

 海自元幹部らによると、水中ドローンについては、これまで機雷捜索などに限られてきたが、今後の研究開発によって海中における環境観測、海底地形観測をはじめ、隻数が限られている潜水艦が実施する情報収集活動の補てんの可能性に大いに期待されている。「『目』の数を増やす」ことが探索・探知に欠かせない可能性があり、安全保障にとって大きな力ともなり得るのだという。

助成金が追い風 洋上風発に活用

 水中ドローンの急成長の背景について、日本水中ドローン協会事務局次長の大手山弦氏は「水産庁が進める『スマート化推進支援事業』で、水中ドローンが助成金対象の機械として登録されたのも、実装拡大の追い風になっている」と語る。

 同事業は、漁業者やサービス事業体による生産性向上を目的とし、スマート機器などの導入を支援する制度だ。

 大手山氏によれば、水中ドローンの活用が期待される分野で注目を集めているのは、洋上風力発電。市場規模は2030年に9200億円(矢野経済研究所調べ)との予測もあり、今後も建設は増えていく見通しだ。

 建設前の調査や建設中の確認、運用開始後の目視確認など保守点検でも、水中ドローンが不可欠といわれている。

無人機・群制御の「iPX」
「最適に動かす知能」が勝つ

画像: xOptを活用した水中ドローンの自動化・群制御のシミュレーション=iPX社提供

xOptを活用した水中ドローンの自動化・群制御のシミュレーション=iPX社提供

 無人機の自動化については、複数の機体を同時に制御する「群制御(スウォーム)」も各国が取り組んでいる。しかし、群制御は機体の性能を向上させるだけでなく、制御するシステムが伴わなければ運用が難しい。

 AGV(無人搬送車)やUGV(無人走行車)など無人機の群制御システムを開発するエンジニアリング企業「iPX」は、令和4年10月に東京・市谷で開催された「防衛産業参入促進展」に出展。自社製品の群制御アルゴリズム「xOpt(クロスオプト)」による水中ドローンの自動化・群制御システムのデモを展示した。

 同社の幸田高人代表取締役社長は、無人機の自動化や群制御の最大のメリットとして、「人間の考えではおよばないところまで対応できる点」と言う。国防への活用でも「コンピューターを駆使する今の時代に、人間の頭脳で考えていては局面を有利に展開することは難しいのでは」と、無人機の群制御の必要性を述べた。

 「島国である日本は、海上や海中の防衛が重要」と考え、展示会で水中ドローンのデモを展示した。複数台の水中無人機を搭載した母艦が目標地点に到達すると子機を射出し、複数箇所の地点を巡回して監視を行うというシチュエーションだ。

 幸田氏は、「ドローンというハードウエアの性能だけを考えても意味がない」と警鐘を鳴らす。「海という縷々 るる 動く環境の中で、相手に知られていない情報に基づき、最適に動く知能を搭載しているドローンだから勝てる」(幸田氏)と、情報戦やAIの領域まで活用することが防衛における必須のファクターであると述べた。

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【日本を護る Vol.03】無人機の自動化・群制御を国防に|株式会社iPX


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