共同訓練を行う海保の「しきね」(手前)と海自の「てるづき」(昨年12月19日実施)
画像1: 海上自衛隊、海上保安庁 新たな連携強化へ節目の年

 【2023年2月28日(火)1面】 日本をめぐる安全保障環境が厳しさを増す中、今年は自衛隊と海上保安庁が新たな連携強化に向けた節目の年となる。昨年12月16日に改定された国家安全保障戦略などの「安保3文書」の中で、武力攻撃事態の際、防衛大臣が海保を統制下に置き、その手順などを定めた「統制要領」を策定することが盛り込まれた。浜田靖一防衛大臣は2月3日、海自と海保による尖閣諸島有事を想定した共同訓練を通じ、策定に向けて検証することを明らかにした。海保の「非軍事性」など今後の課題はあるが、防衛力抜本強化のための自衛隊・海保の連携強化は欠かせず、統制要領の今後の成り行きが注目される。
 

武力攻撃事態 防衛大臣が海保を統制
「統制要領」の策定進む

共同訓練で検証

 「海自と海保が連携を強化することは極めて重要だ」

 2月3日の衆院予算委員会で、浜田防衛大臣は有事を念頭に置いた自衛隊と海保との連携を改めて強調した。また、日本が直接攻撃を受ける「武力攻撃事態」を想定した海自と海保の共同訓練を早期に実施する方針も示した。

 武力攻撃事態は、日本への武力攻撃が発生した場合や、発生する危険が切迫している場合に認定され、政府が基本対処方針を閣議決定し、国会で承認を得ることで自衛隊の防衛出動が可能となる(緊急時は国会の事後承認もあり得る)。

 浜田大臣は2月7日の閣議後会見でも、自衛隊法第80条に基づく、武力攻撃事態における海保の統制要領は、すでに作成に向けた作業を実施していることを明らかにした上で、「引き続き、作業を進めるとともに、共同訓練で検証していきたい」と述べた。

 統制要領は、防衛出動した際には国土交通大臣の指揮下にある海保を、防衛大臣の指揮下に組み込むことができることを規定したものだ。条文自体は昭和29年の自衛隊発足時からあったが、これまでに要領が策定されたことはなかった。

転機は「安保3文書」

 転機となったのは、昨年12月16日の「安保3文書」の改定。最上位文書の「国家安全保障戦略」では、国全体の防衛体制の具体的な取り組みの一つに「有事を念頭に置いた自衛隊と警察や海保との連携要領の確立」が記された。

 また、戦略的なアプローチをまとめた「国家防衛戦略」では、海保能力の大幅強化とともに、有事の際の防衛大臣による海保に対する統制、また、保有すべき防衛力の水準を示した「防衛力整備計画」でも、統制要領の作成や共同訓練の実施を含め、各種の対応要領や訓練の充実などが盛り込まれた。

常態化する海警局入域

 新たな段階に入った海保との連携。強化を急ぐ背景には、海洋進出を強める中国に対する危機感の表れにほかならず、とくに中国船の航行が常態化している尖閣諸島周辺海域の対応は待ったなしの状況にある。

 武力攻撃事態を想定した海保との共同訓練も、尖閣を念頭にしたものとなることが予想されている。

 「海上保安レポート2022年版」によると、尖閣周辺の接続水域では、ほぼ毎日、中国海警局に所属する船舶による活動が確認されている。令和3年における1年間の確認日数は332日で、過去最多を記録した同2年とほぼ同じ=グラフ参照。また、接続水域での連続確認日数は157日で、過去最長だった。

中国海警局に所属する船舶などの年間の接続水域内確認日数

画像: (「海上保安レポート2022年版」を基に作成)

(「海上保安レポート2022年版」を基に作成)

 また、海保の「中国海警局に所属する船舶などによる尖閣諸島への接近状況」(2月26日現在)によると、2月以降も連日接続水域内に入域しており、述べ86隻に上っている。同24日に4隻の領海侵入があったほか、昨年11月には76ミリ砲を搭載した海警局の船も確認されている。

 海保の石井昌平長官は、安保3文書の改定直後の昨年12月21日の記者会見で、「依然として予断を許さない厳しい情勢だ」と語っている。

 また、安保3文書改定の昨年12月16日に開かれた「海上保安能力強化に関する関係閣僚会議」でも、海保を所管する国土交通省の斉藤鉄夫大臣が「海保の体制をより一層強化するとともに、警察、自衛隊をはじめとする関係機関とのさらなる連携強化などに取り組む」などと述べている。

非軍事性との整合性

 課題もある。海保が警察機関であり、海保法で「軍隊としての機能を営むこと」を禁じていることだ。現時点では武力攻撃事態となり、防衛大臣の指揮下に入った場合、海保の役割は漁船の保護や住民の避難などの「後方支援」的なものとなることが予想されている。

 しかし、実際にこうした状況になった際、「線引き」の難しさを指摘する専門家もいる。海保の「非軍事性」との関係。戦闘状態となった際の海保に対する相手国の見方などだ。統制要領の作成にあたって、今後の議論が大きな焦点となるかもしれない。

 「わが国を守るためには自衛隊が強くなければならないが、わが国全体で連携しなければ、わが国を守ることはできない」

 改定された国家安全保障戦略では、防衛力の抜本的強化に加え、あらゆる政策手段を体系的に組み合わせて国全体の防衛対策を構築することをうたっている。

共同訓練、当初は「非有事」
対尖閣諸島想定へシフト

画像: 共同訓練には回転翼機も投入された(手前は海自のSH60K、飛行しているのは海保のスーパーピューマ225。昨年6月30日実施)

共同訓練には回転翼機も投入された(手前は海自のSH60K、飛行しているのは海保のスーパーピューマ225。昨年6月30日実施)

 海自と海保の共同訓練はこれまでも実施されてきたが、想定は「有事」ではなく、治安維持で海保の対処が困難な際、海上警備行動の発令を想定したものに限られていた。

 しかし、安全保障環境の厳しさや尖閣諸島周辺で日本の接続水域や領海侵入を繰り返す中国の動きへの対応が喫緊の課題となっていた。

 海上幕僚監部によると、こうした状況を受けて令和3年12月22日、海自の護衛艦2隻と海保の巡視船2隻が伊豆大島東方で訓練を実施した。

 海保の1隻が、沖縄県の石垣海上保安部所属で尖閣の船への対処にあたっている船だった。このため、訓練は尖閣に中国船が接近したことを想定したものといわれた。尖閣を想定したとみられる共同訓練の実施が公表されるのは異例のことだった。

 海幕によると、同じ伊豆大島東方海域での共同訓練は、4年6月30日、同12月19日にも実施された。6月の訓練には護衛艦、巡視船のほか、回転翼機も参加、情報共有訓練などを行った(共同訓練の写真はすべて海幕発表資料)。

 今回作成される統制要領に、連携の実効性についてどのように盛り込まれるのか注目される。

■自衛隊法
 【101条2項】防衛大臣は、自衛隊の任務遂行上特に必要があると認める場合には、海上保安庁等に対し協力を求めることができる。この場合においては、海上保安庁等は、特別の事情がない限り、これに応じなければならない。
 【80条】内閣総理大臣は特別の必要があると認めるときは、海上保安庁の全部または一部を防衛大臣の統制下に入れることができる。
 2項 内閣総理大臣は、海上保安庁の全部または一部を防衛大臣の統制下に入れた場合には、政令で定めるところにより、防衛大臣にこれを指揮させるものとする。

■海上保安庁法
 【25条】海上保安庁またはその職員が軍隊として組織され、訓練され、または軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。

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