「空間識失調」に陥ったか
【2022年6月8日(水)2面】 空自小松基地(石川県)所属のF15戦闘機が今年1月、日本海に墜落し、乗員2人が死亡した事故で、空自は6月2日、操縦士が機体の姿勢を認識できずに錯覚する「空間識失調」に陥っていた可能性が高いとする事故調査結果を発表した。操縦士が平衡感覚を失い、高度の急激な降下への対応が間に合わなかったことが原因と推定されるとしている。回収したフライトレコーダーの解析などから、機体に不具合はなかったとしている。
F15は1月31日午後5時30分ごろ、夜間飛行訓練のため小松飛行場を離陸して約1分後、小松基地の西北西約5.5キロの洋上に墜落した。F15には、飛行教導群司令の田中公司1空佐(当時52)=空将補に特別昇任=と、同群の植田竜生1空尉(同33)=3空佐に特別昇任=が乗っていた。
空自によると、機体が離陸後の雲の中を上昇中、過度に右へ傾き、徐々に機首下げ姿勢となった。その後、高度が急激に下がっていることに対する認識が遅れ、墜落2秒前に姿勢の立て直しを試みたものの間に合わず、離陸から53秒で墜落したと推定。
乗員の認識が遅れた主な要因として、当時の気象条件や離陸直後の姿勢、推力の変更操作などの影響を受け、自らの空間識に関する感覚が実状と異なる「空間識失調」の状態にあった可能性が高いとした。
また、乗員が編隊長機を捕捉するためのレーダー操作などに意識を集中させていたため、回復操作が行われるまでは、機体の姿勢を認識していなかった可能性も指摘した。
F15は2機編隊の2番機として、レーダー・トレール隊形(レーダーを使用して、F15が前方機を追尾する隊形)で小松飛行場を離陸し、1番機に対して、「ネガティブ・タイドオン」と送信(後方機が前方機をレーダーで捕捉できていないという状況の報告であり、異常事態ではない)。
その後、1番機がF15に対して高度計規正の指示を送信したところ、通常あるべき返答はなく、F15の通信が途絶え、レーダー航跡が消失したという。
空自は再発防止策などとして、(1)空間識失調に関する教育・訓練の強化(2)基本計器飛行の確実な履行(レーダー・トレール隊形時の計器飛行を含む)(3)コックピット・リソース(コックピット内における安全確保のために利用可能な全ての人的資源、機器、各種情報)の適時適切な活用に関する教育・訓練の強化(4)異常姿勢の継続を検知、または地表などとの衝突を予想し、警報などにより操縦者の認知を回復、または機体が自動的に衝突を回避するシステムの調査研究と当該システムの適時適切な搭載-を発表した。
調査結果について、岸信夫防衛大臣は6月3日の閣議後会見で、「調査結果を重く受け止める。空自だけでなく、陸海自も含めてこの先、一人の犠牲者も出さない決意で事故の再発防止に全力を挙げるとともに、自衛隊機の運航にあたっては、飛行の安全に万全を期していきたい」と述べた。