【2022年3月30日(水)1面】 政府が各国間の軍事バランスや日本の防衛力整備などで重要な柱として位置づけ、防衛省・自衛隊が対応を本格化させる宇宙・サイバー・電磁波の「新領域」。3月17日、その中のサイバー、宇宙両分野で新たな組織が発足した。「自衛隊サイバー防衛隊」と「宇宙作戦群」。自衛隊の組織的な活動、宇宙空間の安定的な利用に重大な影響を与えかねない脅威に立ち向かうため、一元化するなどした。現代の戦闘様相は、従来の領域のみならず、新たな領域を組み合わせたものとなっており、従来の領域における能力を有機的に融合した「領域横断作戦」により領域横断的な戦力発揮を行うことが死活的に重要。新編を機に、防衛省・自衛隊はさらなる防衛能力の強化に努める。

 

「新領域」新たな展開に

自衛隊サイバー防衛隊

 防衛省は3月17日、サイバー攻撃からシステムを防護する専門部隊「自衛隊サイバー防衛隊」を新編した。

 サイバー防衛隊は、統合幕僚監部隷下の「指揮通信システム隊」を名称変更した上で、陸海空の各自衛隊にあるサイバー防衛機能を集約・統合するなど一元化した組織。人員を約400人から約540人態勢に増員して対応するなどが主な内容だ。サイバー攻撃への対処部隊を再編成することで機能を強化。サイバー空間での攻撃の対処とともに、人材の育成、訓練の支援なども担うとし、防衛隊の本部は東京・市ケ谷の統合幕僚監部に置かれる。ロシアのウクライナ侵攻でもサイバー攻撃が行われるなど、海外でも巧妙化されている手口に対し、体制を強化した形だ。

 また、新編後も陸海空自のサイバー関連部隊は残り、艦艇に搭載されるシステムなどの防護にあたる。

 この日、防衛省講堂で行われた「自衛隊サイバー防衛隊司令旗授与式」には、岸信夫大臣が出席。前身となる「指揮通信システム隊」の隊旗が返還され、その後、初代司令の木村顕継(あきつぐ)陸将補に対し、司令旗を授与した。

 岸大臣は「新たな領域における防衛の重要な柱で、領域横断作戦の具体的・具現化に向けた大きな一歩となると認識している。木村陸将補には、防衛省・自衛隊におけるサイバー領域の専門家集団として、サイバー領域の最前線の部隊としての自覚と誇りを胸に日々の任務に邁進(まいしん)し、国民からの高い期待と負託に応えることを期待する」と述べた。

 また、改編による効果や意義を問われ、「新たな領域は将来の戦闘様相を決めていくことにもなる。このエリアでしっかり優位性を確保していく必要がある。陸海空の共同部隊として新たな部隊を新編し、能力を集中していく」と答えた。

防衛省「死活的に重要」

 防衛省はサイバー領域での防衛力の強化を「死活的に重要」として、対策に乗り出している。

 「令和3年版防衛白書」などによると、昨年4月2日、「サイバーセキュリティ統括アドバイザー」を公募した。部内教育では育成が困難な高度サイバー人材を民間の知見を生かした助言をもらうため非常勤の国家公務員として雇用し、この分野の能力を強化するためで、同7月1日、採用が決まった民間の2人が防衛省から発表された。

 また、令和元年度(2019)に政府機関に対する不審な通信として、マルウェア感染の疑いが55件、標的型攻撃が30件検知されている。防衛省では「高度化・巧妙化した手口の攻撃が発生している。実質的な脅威度は引き続き高い状況」とみている。

 同省では、(1)情報システムの安全性確保(2)専門部隊によるサイバー攻撃対処(3)サイバー攻撃対処態勢の確保・整備(4)最新技術の研究(5)人材育成(6)他機関などとの連携―を「サイバー攻撃対処6本柱」としている。

 今回の新編はその大きな節目となる。サイバー領域の安定的な利用は、自衛隊の組織的な活動だけでなく、国や国民の安全にとっても不可欠。そのためには、可能な限りの対策が必要となる。

画像1: 写真:代表撮影

写真:代表撮影

宇宙作戦群

 航空自衛隊は3月17日、空自府中基地(東京都府中市)に、自衛隊唯一の宇宙領域専門部隊となる「宇宙作戦群」を新編した。宇宙ごみ(スペースデブリ)や他国の人工衛星の監視などの任務にあたる。

 翌18日には基地内で新編行事「隊旗授与式」を行い、鬼木誠防衛副大臣をはじめ、米宇宙コマンド司令官、在日米軍司令官代理、JAXA理事長、内閣府宇宙開発戦略推進事務局長、宇宙の連携協力を行う12カ国の在京武官が参加した。

 宇宙作戦群は、2020年5月に発足した「宇宙作戦隊」と、自衛隊の宇宙領域活動を指揮する新設部隊などを合わせた約70人態勢。

 1空佐の玉井一樹群司令が指揮官。指揮官を支える群本部、陸海空自との情報共有を図るなど、宇宙作戦の指揮統制を担う宇宙作戦指揮所運用隊に宇宙作戦隊を含めた全体の名称としている。

 鬼木副大臣は式典で「空自の従来の枠を超えて一層大きな飛躍を遂げられるよう、一丸となって任務に邁進(まいしん)してほしい」と訓示。玉井群司令に隊旗を授与した。

 宇宙作戦群は今後、山口県に建設中の地上配備型レーダーや26年度までの打ち上げを目指している人工衛星を運用して監視を行う。

 防衛省・自衛隊は「今後も、第2宇宙作戦隊の新編やSSA衛星などが予定されており、一層大きな飛躍を遂げられるよう、引き続き、宇宙領域の能力強化に取り組む」、また、空自は「今後とも宇宙領域に係る態勢整備を着実に推進し、宇宙の安定利用に寄与してまいります」としている。

画像2: 写真:代表撮影

写真:代表撮影

宇宙状況監視の強化めざす

 防衛省は、宇宙基本計画を踏まえ、JAXAをはじめとした関係政府機関や米国などと連携しつつ、政府一体となって宇宙を監視し、正確に状況を認識するための宇宙状況監視(SSA)を強化することを目指している。

 また、宇宙領域専門部隊を強化するため、令和2年(2020)5月の宇宙作戦隊新編に続き、宇宙領域におけるさまざまな活動を計画・遂行するための指揮統制を担う部隊を新編するとともに、各部隊の上級部隊として今回の宇宙作戦群の新編のほか、令和5(2023)年度に予定されているSSAシステムの実運用に向けた各種取り組みを推進するとともに、同8(2026)年度までの打ち上げを目標とするSSA衛星(宇宙設置型光学望遠鏡)などの導入にかかる取り組みを進めている。

 その際、宇宙状況監視多国間机上演習(グローバル・センチネル)などへの参加を継続するとともに、米国宇宙コマンドへの自衛官の派遣などによりSSA体制の整備を効果的に推進している。

 また、2020年10月から11月にかけて実施した日米共同統合演習(実動演習)においては、宇宙作戦隊によりSSA訓練を実施した(「令和3年版防衛白書」などから)。

米宇宙コマンド司令官が表敬

 宇宙作戦群の新編行事が行われた3月18日、鬼木副大臣は空自府中基地内でジェームズ・ディキンソン米宇宙コマンド司令官の表敬を受けた。

 両者は宇宙空間の安定的な利用の確保の重要性、宇宙状況監視(SSA)を含めた日米防衛当局間の協力について意見交換を行い、さらなる日米連携に向けて協力を進展させていくことで一致した。


◆関連リンク
防衛省・自衛隊
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