【2022年3月1日(火)1面】 未曽有の大地震となった東日本大震災から間もなく11年。甚大な被害をもたらしたのは、「大津波」だった。そんな中、陸自10師団(名古屋市、師団長・中野陸将)が2月15日、今後予想される「南海トラフ巨大地震」の津波による負傷者搬送などを想定した訓練を愛知県蒲郡市で実施した。沖に流され、けがをした人の救助が主な内容だ。東日本大震災では津波で多くの犠牲者を出した。津波被害が想定される全国各地への参考にもなる。陸海自が地元自治体(消防)などと行った患者搬送の訓練とホバークラフト型揚陸艇などを使用した部隊の展開訓練の様子について、当時の報道に取材を加えて報告する(写真は10師団提供)。
患者輸送訓練:海自、自治体との連携強化目指す
「震度7の地震が発生」。蒲郡市の蒲郡ふ頭11号岸壁、大塚海浜緑地「ラグーナビーチ」で実施された訓練はこうした想定で始まった。
10師団広報室広報幹部の藤原1陸尉と渉外幹部の長谷川3陸尉によると、参加したのは陸自から10師団司令部、10特科連隊、10飛行隊の約50人、海自から掃海隊1輸送隊輸送艦「しもきた」、同隊1エアクッション艦隊の約150人。このほか、地元の蒲郡市民病院、蒲郡市消防署から約10人の計210人。
訓練は、南海トラフ地震の発生時での一連の行動における共同対処能力などの向上、自衛隊と自治体との連携強化を図るのが目的で、「金鯱きんこDRILL(ドリル)」の一環として行われた。
訓練は、午前9時から始まった。蒲郡ふ頭の患者搬送訓練では、海の上で発見された人を陸自ヘリコプターが救助し、蒲郡港に接岸している「しもきた」まで搬送。けがの程度の判定を行う「トリアージ」や応急処置などを施した。
さらに手当てが必要な人については、甲板に降りて蒲郡市の消防に引き渡し、待機していた救急車で、市内の病院まで運ぶ手順を確認した。
10師団によると、輸送艦でトリアージを行うことで発生時に混乱が予想される市内の医療機関の負担を減らすことができるという。
部隊展開訓練:ホバークラフトに車両乗せ上陸
一方、ラグーナビーチの部隊展開訓練は、南海トラフ地震の津波や揺れで道路が寸断され、通行できない事態を想定。「しもきた」に搭載したホバークラフト型揚陸艇「LCAC(エルキャック)」に陸自のトラックや救急車を積み、砂浜に上陸後、陸揚げし、救急車で病院に運ぶ流れを確認した。
陸自の担当者は「今回の訓練を検証し、南海トラフ巨大地震に備えたい」と話した。
【南海トラフ】
「NHK NEWS WEB」などによると、静岡県駿河湾から九州・日向灘にかけての太平洋の海底で、日本列島がある陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込んでいる溝のような地形をいう。
プレートの境界に少しずつ「ひずみ」がたまり、限界に達すると一気にずれ動き、巨大地震が発生する。
南海トラフでは、100~200年の間隔で、マグニチュード8クラスの巨大地震が繰り返し発生している。
新たに巨大地震が発生した場合、政府の中央防災会議は南海トラフ地震の「防災対策推進基本計画」(2019年修正)の中で、最大想定死者・行方不明者数を約23万1000人、全壊や焼失する最大想定建物数は約209万4000棟、経済活動におよぼす想定被害額は約36兆2000億円、建物倒壊による復旧費など直接的な経済被害額は、約171兆6000億円―などと試算している。