昨年公開された宇宙作戦隊の訓練(統幕ツイッターから)
画像: 【決意から実行へ-日本を護る】㊦新領域

 われわれの暮らしの中に深く浸透する宇宙・サイバー・電磁波。これら「新領域」への対策は安全保障の観点からも急務だ。日本を護(まも)るため、強い防衛こそがその最大のカギとなる。令和4年は、本格的な実行に移す年でもある。

画像: 宇宙状況監視(SSA)体制構築に向けた取組のイメージ図 (防衛白書から)

宇宙状況監視(SSA)体制構築に向けた取組のイメージ図

(防衛白書から)

宇宙:安定的な利用が重要

 「宇宙空間の安定的な利用の確保が極めて重要。しっかり準備を進めてほしい」

 昨年11月14日、岸信夫防衛大臣は視察先の空自防府北基地で隊員を前に「第2宇宙作戦隊」の令和4年度の新設方針を訓示した。大臣はさらに、「新領域と陸海空という従来の領域の組み合わせが死活的に重要」とした上で、「わが国の防衛を全うするため、積極的に宇宙領域における能力開発に取り組んでいく」と力を込めた。

 令和2年5月、東京・府中基地に発足した「第1宇宙作戦隊」に次いで2カ所目。約20人体制で発足し、山口県山陽小野田市に整備を進めているレーダーなどを活用しながら監視にあたる予定となっている。

 12月24日に閣議決定された令和4年度当初予算案では、宇宙経費として790億円が計上された。令和5年度(2023)からの宇宙状況監視(SSA)システムの本格運用に向け、わが国の人工衛星にとって脅威となる宇宙ごみ(スペースデブリ)などを監視するためSSA衛星(宇宙設置型光学望遠鏡)の整備に39億円を投入する計画だ。

 日頃の情報収集や警戒監視。自衛隊の活動は人工衛星から得られるデータ・情報に大きく支えられている。その人工衛星の機能が損なわれる危険性は高まっており、宇宙空間の安定的利用の確保は重要な課題なのだ。

 また、予算では低軌道の宇宙物体をより正確に監視できる「SSAレーザー測距装置」を取得するために190億円、米軍や国内関係機関などと連携した宇宙状況監視を行うために必要な関連器材などの取得に77億円をそれぞれ計上。中国やロシアなどを念頭に、従来領域と新領域の能力を有機的に融合させる領域横断作戦の実現が必要となっている(令和3年版「防衛白書」から)。

 令和4年度は宇宙空間の状況を常時、継続的に監視する体制を構築するため、作戦隊の要員を拡充する。また、宇宙領域に関する装備品を維持管理する「宇宙システム管理隊(仮称)」も新編する。

サイバー:組織的な活動へ

 防衛省が「死活的に重要」とするのは、サイバー領域での防衛力の強化も同じだ。

 情報通信ネットワークは、さまざまな領域における自衛隊の活動の基盤。サイバー攻撃は、安全保障・危機管理上に大きな課題となりうる。情報の窃取や重要インフラなどの脆弱性(ぜいじゃく)が高まる可能性も懸念されるからだ。

 昨年4月5日、防衛省は今年度から導入予定の「サイバーセキュリティ統括アドバイザー」を公募した。部内教育では育成が困難な高度サイバー人材を民間の知見を生かした助言をもらうため非常勤の国家公務員として雇用し、この分野の能力を強化するためだ。年収は専門性を考慮し、最大2000万円程度。一時話題となった。それでも必要な施策。喫緊の課題となっている表れでもあった。7月1日、採用が決まった民間の2人が防衛省から発表された。

 3年度防衛白書によると、令和元年度(2019)に政府機関に対する不審な通信として、マルウェア感染の疑いが55件、標的型攻撃が30件検知されている。防衛省では「高度化・巧妙化した手口の攻撃が発生している。実質的な脅威度は引き続き高い状況」とみている。

 防衛省では、現在(1)情報システムの安全性確保(2)専門部隊によるサイバー攻撃対処(3)サイバー攻撃対処態勢の確保・整備(4)最新技術の研究(5)人材育成(6)他機関などとの連携―を「サイバー攻撃対処6本柱」としている。

 もちろん、サイバーの脅威にはまだまだ対策が必要だ。

 今年3月には、これまでのサイバー防衛隊などの体制拡充に加え、陸海空自のサイバー関連部隊を移管し、防護機能を一元化する「自衛隊サイバー防衛隊(仮称)」の新編を予定。サイバー防衛能力の抜本的強化を図るのが狙いだ。

 また、4年度当初予算案では、「攻撃対処能力向上に資する技術の研究」として24億円、サイバー関連経費としては342億円を計上した。

 サイバー領域の安定的な利用は、自衛隊の組織的な活動だけでなく、国や国民の安全にとっても不可欠。そのためには、可能な限りの対策が必要となるだろう。

電磁波:相手レーダーを無力化

 3年度「防衛白書」にこんな記述がある。

 「電磁波を効果的に、積極的に利用して戦闘を優位に進めるには、敵による電磁波の利用とその効果を妨げつつ、味方による電磁波の利用とその効果を確保する電子戦能力に加えて、電磁波の周波数や利用状況を一元的に把握・調整し、部隊などに適切に周波数を割り当てる電磁波管理能力を構築することが必要だ」

 しかし、電磁波の利用を妨害する技術は進歩している。諸外国では、無線通信への妨害や測位信号の妨害による無人機の活動の阻害などの事例が報告されており、防衛省は「電磁波は現代の戦闘様相における攻防の最前線。自衛隊もこの領域を強化する必要がある」とする。

 このため、防衛省・自衛隊はこれまで、電磁波の利用を適切に管理・調整する機能の強化、電磁波に関する情報収集・分析能力の強化、相手方のレーダーや通信などを無力化するための能力の開発などに取り組んでいる。

 4年度では、(1)わが国に侵攻する相手方のレーダーなどを無力化する「スタンド・オフ電子戦機」の開発(2)艦艇のミサイルなどからの電波を探知し、無力化するための電波を照射する装置を改修し、監視能力を強化する(3)電磁波管理能力を強化する―などに取り組むための予算措置が行われた。

 【2022年1月12日(水)1面から】


◆関連リンク
防衛省・自衛隊
https://www.mod.go.jp/



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