さて、まず私は今回ご紹介する作家さんに謝らなければいけません。

 というのも半年ほど、今回ご紹介する著者のことを「こじま・じょう」と誤読していたからです。実際の読み方は「こじま・のぼる」。名前の読み間違いは誰にでもあることだとは思いますが、間違えられたら嫌な思いをする人もいると思います。
 児島氏はその最たるものだったらしく、本人の前で「こじまじょう」と読まれたものなら本気で殴り飛ばす、なんてことがあったのだそう。ちなみにかなりの巨漢だったそうなので、おそらく私なんぞは一瞬で吹き飛んでしまうでしょう。基本的に著者シリーズの導入部分は作家自身の人柄だったり作品の傾向を書きがちなのですが、今回ばかりはインパクトのあるエピソードを先に持ってきてしまいました。
 ちなみに巨漢と書きましたが、身長が190㎝、体重が120kgだったのだそうで。これ、殴られた人は大丈夫だったんだろうか。

歴史(戦史)作家として執筆

 さてそんな児島氏、たくさんの戦記関連の書籍を書き遺しました。数ある作品の中から今回まずご紹介させていただくのはこちら。

「児島襄戦史著作集」

 当館にあるのは全十二巻あるうちの六巻。「マレーの虎」こと山本奉文の指揮官としてのすがたを書いた「史説・山本奉文」著者自身が太平洋戦争の戦場をめぐる記「激戦の跡をゆく」が収録されています。
 そう、前回に引き続きあの将軍についてのお話です。(ちなみに「指揮官」でも取り上げられています)完全にあの「幻の虎」に感情を引っ張られているので冷静さを欠きながら読みました。こんな時カワモトが横にいたら……!と頭の中で史実に通訳を混入させたくなりましたが、ぐっと堪えました。
 この「史説」での特徴として彼の軍人としての生を細かく書いているという点もそうなのですが、最初に226について語っているのもポイントですね。軍人としての最初のつまづき、最初のトラブル、あれがあったから。色々な言い方ができますが、ともかくそこから書いているというのが、その後の彼の人生に与えている影の形をハッキリと捉えられる理由であるのだろうと思います。

 そしてもうひとつの「激戦の跡をゆく」。個人的に印象に残ったのは「ペリリューに残る”南海の怪談”」。現地ガイドが恐れる洞窟の奥の幽霊、そしてその後日談とは。無いかもしれないけどあってもおかしくはないな、そんな風に思うエピソードでした。

画像1: 歴史(戦史)作家として執筆

「素顔のリーダー ナポレオンから東条英機まで」

 「史説・山本奉文」のあとがきでも「指揮官、リーダーとしての姿に注視した」と語っていた児島氏。そんな彼が十四人の軍人をピックアップし、その生涯を書き記した一冊。タイトルにもあるように、かつてその姿を間近で見た東条英機についての項目もあります。
 ちなみにタイトルに来ている二人のほかは西郷隆盛(読んでいて「ここ西郷どんで見た!」とちょくちょく叫びました)、ヒトラー、毛沢東、マッカーサー、ロンメル、パットン、蒋介石、チトー、チャーチルといった東西の軍人たち、そして東郷平八郎、乃木希典、山本五十六といった日本の軍人たち。取り扱う「リーダー」の幅が広いのも魅力のひとつですね。
 しかし、先に挙げたこの十四人、知らない人も混じっていると思う人もいるのではないでしょうか。恥ずかしながら私もチトー氏とは初対面でございました。
 そんな人もご安心ください。前述したとおり、その生涯について書かれているので「何をした人なの?」「どういう人なの?」という疑問がわかりやすく解かれます。そこにあるのは良い意味での冷静さ。あまり知らない人も全然知らないという人も、読み終わるころには人物たちが頭に深く刻まれていることかと思います。

 ちょっと気になったよ、読みたいよと言う人にワンポイントアドバイス。この「素顔のリーダー」は文春文庫から出ているものなのですが、ダイヤモンド社から「英雄の素顔 ナポレオンから東条英機まで」という本が出ています。こちらタイトルは違いますが、内容はほぼ同じ(「英雄の素顔」は写真・図などを含みます)。
 手軽に持ち歩きたい人は「素顔のリーダー」、ハードカバーでがっつり読みたい人は「英雄の素顔」に手を出すといいかもしれません。

 また、素顔のリーダーと共に読みたいのが「指揮官」。こちらでは名のある指揮官たちがどう壁にぶつかり、それを乗り越えたか。性格、性質、その背景と共にリーダーとしての姿を見ていく内容です。「素顔のリーダー」がその生涯を追ったものなら、こちらはリーダーとしての側面を追った本。二十七人のリーダーの姿は「素顔のリーダー」と何人か被る人もいますが、内容被りに唸るというよりは両方読むことで人物を立体的に感じられる面があるような気がします。

画像2: 歴史(戦史)作家として執筆

 リーダー絡みで児島作品だと「参謀」もありますね。こちらは日本陸海軍から十五人、米独軍から十三人もの参謀について紹介し、観察している本になっています。「指揮官」とは姉妹本、と前書きで本人も言っているように、一緒に読むとまた深みが増す内容でもあります。知っている人物は復習のように、あるいは知らないエピソードがあったら「まあこの人ならこうするだろうな……」「こういう面もあったのか」と個々に参謀たちへ想いを馳せることもできます。米独軍の参謀の方は知り合いの姿が無かったので、新鮮な気持ちでページを捲る事が出来ました。

 ちなみに「参謀」において「当時の軍人の気風として、とにかく勇ましさが尊ばれた」「威勢のよさと声の大きさが議論を制圧する傾向があった」と書いてあって、いつの世の中も声の大きい人は勝つんだな……としんみりしつつ苦笑いしました。一体どの参謀が勢いで場を制圧していたのか。知りたい方はぜひご覧ください。

 さて、最後の本を紹介する前に。
 児島氏は学生時代、弁護人の知人に傍聴券をねだり、週に数回法廷に通っていたのだそうです。週三で裁判を傍聴する学生さんという情報だけ聞くと、まあ勉強熱心ね、なんてことを思うわけです。よっぽど気になる裁判だったのかしら、と。
 気になるどころの話ではございません。それはなんだったら日本国民の大多数が気になっていたかもしれない最大の裁判だったのですから。そう、あの東京裁判です。

画像3: 歴史(戦史)作家として執筆

「東京裁判」(上・下)

 上下巻に分かれた今作は「では一体東京裁判とはなんなのか」を克明に記しています。このコラムでも何度も出てきた言葉なので、関連図書を読んだ人も中に入るかもしれません。しかしながらこの「東京裁判」、本当に細かい。自分がいかに上澄みの部分しか知らなかったのかと思うほどの情報量が詰まっています。
 綿密な取材、情報整理能力、そして「この目で見た」というあまりに大きい原体験により編まれた東京裁判のリアルな姿がここにある、と言っても過言ではありません。
 ジャンルとしてはドキュメント小説という表現が正しいかもしれませんね。そこがまたわかりやすさを加速させていると言いますか、固くなりすぎずになっている点と言いますか。そこに児島氏の文体の個性が加わり、ますます読者の脳に直接理解として点滴される感覚と言いますか。
 どちらかというと東京裁判についてうっすらと知っている程度の人にお勧めかもしれません。そのうっすらが読み終わるころにはくっきりとした陰影になることをお約束します。

 他にも「太平洋戦争」(上下巻)や「日露戦争」シリーズ、取材ノートから取り出された短編読物「戦史ノート」など児島氏の書いた著作はたくさん。
 読書の秋も深まってまいりました。これまで紹介してきた著者シリーズやそれに関連する書籍を読み、秋の夜長に近代史について考えてみるのもいいかもしれませんね。

アクセス

画像2: 永遠の図書室通信 第39話「著者 児島襄」

永遠の図書室
住所:千葉県館山市北条1057 CIRCUS1階
電話番号:0470-29-7982
営業時間:13時~16時(土日祝のみ17時まで) 月火定休日
システム:開館30分までの滞在は無料、それ以降は一時間ごとに500円かかります。
駐車場:建物左側にあります、元館山中央外科内科跡地にお停めできます。
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