前回まで続いていた「戦地」シリーズが終わり、今回のテーマは「真珠湾攻撃・ミッドウェー海戦」でございます。
 こうして並べてあるとまるで同じ括りのものに見えてきてしまうのですが、ぺらりと一枚剥がしてみれば全然違い、二枚剥がしてみれば共通点が見えてきて、三枚剥がせば違いが判る、そんなふたつのテーマでございます。
 そんなわけで、まずはこのふたつを並べて見てみましょう。

真珠湾攻撃

時期:1941年12月7日
概要:日本軍が真珠湾に停めていたアメリカ海軍太平洋艦隊・海軍基地に奇襲を仕掛けた海戦。結果は日本の勝利、言うなれば太平洋戦争の起点のひとつでもある。
補足:開戦前に宣戦布告を行う予定が、外務省の不手際により遅れてしまい、結果的に「奇襲」と取られてしまったとのこと。
※この「奇襲」については諸説あり。

ミッドウェー海戦

時期:1942年6月5日~7日
概要:日本海軍とアメリカ海軍による海戦。これにより日本軍は大打撃を受け、敗北。真珠湾攻撃が起点だとすれば、ミッドウェー海戦は転換点。ここから日本は敗戦の道を進んでいくことになる。
補足:当時風向きの良かった日本。しかし本土空襲されたことでミッドウェー海戦に向かうこととなる。なおこの戦いで日本海軍の暗号が解読されたのは有名な話。

 戦争にルールなんてあったのか、などととんでもない事を思ってしまったのですが、一応「戦争を始める前には一声掛ける」という国際法(ルール)があったようです。
 ともあれ日本は真珠湾攻撃では勝利を治めたわけですが、その後の日本のあゆみについて考えると複雑ですね………

あまりにも有名な「リメンバー・パールハーバー」

 さてさて、戦争というのはただがむしゃらに突撃すればいいというものではありません。重視すべきものというのは多々あり、その中のひとつが、先にちらっとお話した「暗号」というもの。情報を司る上で必要不可欠なこの暗号、まさにキーというべきでしょう。真珠湾攻撃においての「トラトラトラ」も、ミッドウェー海戦の敗因のひとつもまた暗号なのです。

 そこで紹介するものはこちら。

「暗号 原理とその世界」(著 長田順行)

 これは難しい本です。何せ暗号についてのそもそもの解説、特殊暗号やその使い方、合言葉や文章内に隠された暗号やその特徴、様々な種類をエピソードも交えて紹介していく、というまさに「暗号」に特化した本なのですから。

 「難しい」には色々な意味がありますが、ここにおいては「咀嚼する情報量がとにかく多い」ですね。ただ本当に面白い。難しいけど面白い。付録にはミッドウェー海戦とD暗号の解読についても記してあり、「戦争というものについて、暗号という面から見てみたい」と思う方も、そもそも暗号が好きで興味がある、という方にもお勧めしたい一冊です。暗号の使い方や有用性を知った後だと、戦争の流れを見る時も少し見方が変わるかもしれません。

 それでは時系列順を守りつつ、次にご紹介する本はこちら。

「真珠湾」の日(著 半藤一利)

 半藤氏の作品は以前「戦地 ノモンハン」にて「ノモンハンの夏」を紹介させていただきました。
本書では真珠湾攻撃、そして開戦までの経緯が書かれています。開戦から終戦までの経緯を書いた本、そして終戦のくだりを詳細に書いた本は沢山ありますが、やはりはじまりを理解する、ということはとても大事なことなのだと思います。膨大な資料から半藤氏によって編まれた解説は真珠湾の理解に、そして開戦の経緯の理解に相応しいと言えるでしょう。これはぜひ前後も読んでいただきたい部分ではあるのですが、個人的に「攘夷の精神が生き続けていた」「真珠湾攻撃に狂喜乱舞し、戦争を聖戦と信じた」という部分はゾッとしましたね……。
 ただ、それは今を生きている自分だからこそ思うこと。右に左に開戦ムードに囲まれて、周囲がそれ一色になってしまった時。果たして自分もそれに酔わず、狂喜に溺れない自信はあるでしょうか。

 一体感や雰囲気といったものは強さを生み出しますが、時に恐ろしくもなるものなのです。

 次にご紹介するのはミッドウェー海戦に関する書籍。

「記録 ミッドウェー海戦」(著 澤地久枝)

 澤地さんもノンフィクション作家として有名な方ですよね。当館にも「妻たちの二・二六事件」「暗い暦 二・二六事件以後と武藤章」などが置いてあります。

 ところで、皆さんは戦争について書かれた本を読むときはどんな姿勢で読んでいるでしょうか。本やテーマによって姿勢が変わる人、等しく感情移入する人、また客観的に読む人……と、それこそ人それぞれであると思います。

 この本はどちらかと言うと客観的に書かれています。しかしこの本は、綿密な調査を編んだものではありません。
 ではどういうことかというと。この本に記載されているのは戦死者の家族の声です。艦隊ごとに分かれており、日本だけではなくアメリカの家族の声も載せられており、エピソードを膨らませるわけではなくひとりひとりが兄や息子を想い、時に回想し、時にその胸中を語る。国境なんて関係なく、多数の人々の想いと言葉がそのまま綴られているのです。
 数多くの戦死者、ではなく「戦争で命を落とした誰かの家族」の姿がそこにあるのです。ひと一人の命の重みがこれ以上ないほど克明に記されており、心にずんと深く沈み込みます。
 また、家族の声だけではありません。なんとミッドウェー海戦により亡くなった全死者のリストまで載っています。名前、出身地、階級、死亡年齢などが書いてあり、「ひとりひとり」の影はどんどん濃くなります。名簿の中から自分と同い年の青年を見た時、確かにその姿に馳せてしまう思いというものが、確かにあるのです。

 まさにこれは「記録」の本。それがいかに雄弁かを知ることのできる一冊です。
(ちなみに、こんな凄まじい本なのに現在絶版とのこと……)

 今回は太平洋戦争の起点と分岐点についての本を紹介させていただきました。

 最初の頃は私も客観的に歴史を見てきたつもりでしたが、回を重ね、様々な事を知れば知るほど感情も混ざり始めているような気がします。改めて、歴史に触れるというのはなんとも難しいものですね。
 一枚剥がして客観的に、二枚剥がして感情的に……ならば三枚剥がしたら客観と感情が混ざり合い、冷静に、広い目で見られるのでしょうか。いつかそうなってみたいものです。

 それではまた来週、お会いしましょう。次回は箸休め回!

アクセス

画像4: 永遠の図書室通信 第31話「真珠湾攻撃・ミッドウェー海戦」

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電話番号:0470-29-7982
営業時間:13時~16時(土日祝のみ17時まで) 月火定休日
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駐車場:建物左側にあります、元館山中央外科内科跡地にお停めできます。
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