随筆:文学における一形式で、筆者の体験や読書などから得た知識をもとに、それに対する感想・思索・思想をまとめた散文である。(Wikipediaより抜粋)

なんともいえない心地よさ

 なんとなく難しそうな印象を受ける「随筆」というもの。しかし蓋を開けてみれば、作者の思いをそのまま受け取れる文章であり、また作家でなくとも「自分の想いを文章にしたい!」と思う人ならばすぐにでも書くことのできるジャンル、それが随筆です。エッセイとも言いますね。
 そういうジャンルなので、随筆というのは本人の色が出やすいです。持ち味とも言いますが、その人自身の人間性も垣間見えるので普通に手に取っても面白いのですが、なんとなく著者の語りと「合う」随筆に出会った時の、なんともいえない心地よさは格別なものです。

 今回ご紹介するものの一冊目はこちら。

 「こんなふうに死にたい」(著 佐藤愛子)

 タイトルだけ見るとどういう内容なのか想像がつきませんが、紹介文いわく「こんなふうに死にたいということは、より素晴らしい生を望むということ」。この本は著者本人の霊体験をもとに死について、死後の世界について考えたという内容。
 例えが下手で申し訳ないのですが、なんとなくこの本は店で売っているおいしい水、というイメージです。普段飲んでいる水道水とは明らかに違うけれど、飲みづらいということもなく、すっと体にしみわたっていく感じと言いますか。それを必要とするか不要とするか……つまり肯定するか否定するか、深く掘っていくか、ここまでにしておくか。そういうものはまた人によるとは思うのですが、少なくとも私は「ふしぎなことはあるものだなあ。こういう視点もあるのだなあ」としみじみ思いながら読んでおりました。

 次に紹介するのはこちら。

「誰か故郷を想はざる -自叙伝らしくなくー」(著 寺山修司)

 寺山修司といえば「書を捨てよ、町へ出よう」や「あゝ、荒野」が有名ですね。知っている、好きだという方もいらっしゃるのではないでしょうか。ちなみにこちら自叙伝となっているのですが、内容は実は虚実入り混じっているのだとか。
 しかし「随筆」の項目でこんなことを言ってしまうのは身も蓋も無いのかもしれませんが、文章として頭に入ってくる世界のどこが偽物でどこが本物か、なんて言及はこの本に関しては野暮です。おもしろい。面白いのです、この作品。
 二・二六事件や空襲、玉音放送についても記されており、確かに昭和を生きた姿が頭に浮かび、ページを捲る手が止まらなくなる一冊。この文章力、欲しいですね……

 それでは次に紹介するのはこちら。

「不道徳教育講座」(著 三島由紀夫)

 図書室通信においてたびたび顔を出す作家・三島由紀夫によるエッセイ。書かれている見出しはまさに不道徳、と言いたいところなのですが、読み進めていくと「あれ?案外まともな事を言っているのでは……?」と思い始めてきます。加えて魅力的なのはその語り口。今のところじっくり読んだのが「禁色」と「英霊の聲」だけなのですが、そのふたつとはまた違う味が楽しめます。
 なんとなくですが、今まで私は三島由紀夫の背筋の伸びた正座姿しか見たことが無かったのだな……と思いました。この作品においては胡坐で気楽に、おもしろく、でも真面目に話してくれているイメージです。時代の考え方も、一部令和の世に見るとうん?と思うところもあるのですが、それ以上に今の世でも通じるものが記され、時代を越えても面白い、と思わせるユーモアセンスを見ることができます。個人的に「やっちゃえ」の話が好きですね。

 余談ですが、ページを開いた瞬間、グラビアがごとく草原に寝転がってカメラ目線の三島の写真と目があってしまい、一度そっと本を閉じてしまいました。どうして……このチョイスを……?

 最後に紹介するのはこちら。

画像: なんともいえない心地よさ

「パイプのけむりシリーズ」(著 團伊玖磨)

 ご覧ください、このかわいい装丁を。正方形の本は机の上にちょこんと馴染み、まるで今からおやつを食べるかのようなわくわく感さえ漂います。「パイプのけむり」というタイトルもまた味があると言いますよね。カタカナとひらがなの文字列がこんなにも愛くるしい。このシリーズに関しては題名・装丁・中身、どれも素敵であると声を大にして言いたいです。
 語り口はなんとも上品なのですが、かと言ってお高いわけでも読みづらいわけでもない。むしろ親しみがあってかわいらしく、心地よいエッセイです。個人的に「ずどん」「草野粥」が好きですね。

 当館にあるのは「又 パイプのけむり」「又々 パイプのけむり」「まだ パイプのけむり」の3冊。なお、こんなかわいい本であっても昭和の影は見え隠れします。「又」の「越南日記」ではベトナム旅行について書くとともに戦争について思考し、「又々」の「ハサミキル」では尋常小学國語讀本(ちなみに図書室にもあります)と当時の教育について、品よく、しかし筋の通った思いが綴られています。

 今回は随筆ということで、いつもとは少し違った内容でお送りしました。心無しかいつもより紹介らしい紹介になっているような気がします。普段紹介している本はテーマがテーマなだけあって、きちんとした姿勢で向き合わなければいけないものが多いです。しかし今回紹介した本に関してはリラックスした姿勢で、それこそお茶を飲みながら著者のお話を聞いているかのようなーーー有意義でたのしい向き合い方ができるのではないかと思います。肩の力を抜くのは大事ですからね。

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画像4: 永遠の図書室通信 第22話「随筆」

永遠の図書室
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