防衛研究所は3月26日、日本を取り巻く戦略環境や安全保障情勢を分析した「東アジア戦略概観2021」を発表した。

 激しさを増す米中競争が東アジアにもたらしている分断の圧力、新型コロナウイルス感染拡大に対する各国の対応について認識を示すとともに、東アジア地域に対してオーストラリアや欧州がこれまでになかったスタンスを取り始めていることを指摘。日本の「ポスト・コロナ」の安全保障についても分析した。今回が25回目の刊行。

「新冷戦」コロナ禍で加速

 戦略概観は、「大国間競争に直面する世界」として、米中両大国の関係ではなく、それに直面した国々の動向に焦点を当てている。

 世界政治は米中競争による分断の圧力に直面しており、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが、この傾向をさらに強める方向へ作用したと分析。両大国の狭間はざまで、多くの国々が独自の役割と自律性を模索していると指摘した。現在の国際秩序は、このような多元的現象が分断圧力とともに混在するハイブリッド型で、米中以外の諸国の選択や役割が、今後を占う上で重要との認識を示した。

 米中以外の国・地域の多元化や自律性の模索例として概観が挙げているのは、オーストラリアをはじめとする太平洋地域や欧州連合(EU)を中心とした欧州の国際関係。オーストラリアは、中国への対抗措置を強化しつつ、米中競争への深入りを回避しようとしていると分析した。

 一方、欧州は2008年の経済危機以来、対中関係を発展させ、貿易や気候問題では協力してきたが、コロナ禍で自己主張を強める中国との相違が顕在化してきたと指摘。対米国では、トランプ政権下で悪化していた関係を修復しようとしているとし、米中双方との関係において戦略的自律を追求しているとした。

米中は「新冷戦」状態に

 中国の習近平政権は、コロナ禍で高まった国民の不満に対し、社会への統制を強める強硬姿勢で対応しつつ、経済の回復を実現。傷ついた政治的権威の立て直しを図った。その姿勢は香港と台湾にも向けられ、香港には国家安全維持法を強要。台湾に対する軍事的圧力も強化された。

 武漢発で世界に広まったとされるコロナ禍の責任をめぐって、米中関係は「新冷戦」と呼ばれるまでに悪化。オーストラリアやインドとも対立し、欧州諸国からの警戒も招いているとした。

 それでも、人民解放軍は、コロナ対応において世界各国への医療支援やワクチン開発などで存在をアピールし、東シナ海・南シナ海では強硬な対応を継続するとともに、対米A2/AD(接近阻止・領域拒否)能力を向上させたとの見方を示した。

 トランプ政権下の米国は、中国に対抗する姿勢を強化。中国をイデオロギーに基づく脅威と規定し、中国の米国内への影響工作を阻止する対策を講じた。

 具体的には、州レベル以下の政府職員らへの接触を制限し、中国国営メディアと孔子学院も制限措置の対象としたほか、新疆ウイグル自治区における人権侵害に関係する中国当局者や機関、企業に対して資産凍結、入国禁止、輸出規制措置を発動した。

 軍事面では、中ロを想定し、米軍全体を包含する統合戦闘コンセプトを推進。コロナ禍においても中国を牽制すべく、西太平洋へ爆撃機や空母を積極展開した。

 バイデン政権は、世界における米国のリーダーシップの回復を目指しており、国内が分断されている状況ではあるが、今後の展開が注目されるとした。

狭間で揺れる周辺諸国

 朝鮮半島については、韓国と北朝鮮の状況を「揺れる南北関係」と表現。米大統領選やコロナ禍で米朝関係が停滞する中、北朝鮮は米韓関係にくさびを打ち込もうと韓国に圧力をかけているとした。

 韓国の文在寅政権は、南北関係改善に意欲を示しているが、米韓協力には抑制的で、日韓関係の改善にも大きな進展はないと記述した。

 また、北朝鮮の核開発をめぐっては、報復的抑止力の強化に向けた動きが継続されていると指摘した。

 東南アジア諸国は、新型コロナウイルスの感染拡大により経済に深刻なダメージを受け、特に貧困層に大きな影響があったと指摘。そうした中で、強権的な政権運営を行う国が現れた点に触れ、地域の民主主義への影響に懸念を示した。

 南シナ海における中国の活動はより広範に、示威的になっており、米国はこれに積極的に関与。域内で米中がそれぞれのプレゼンスを強化する中、ASEAN諸国は大国間競争から距離を置く姿勢を見せていると分析した。各国はコロナ禍で国防予算や訓練実施に影響を受けながらも、海上戦力の強化に取り組んでいるとした。

憲法修正が日ロ関係に影響も

 ロシアのプーチン政権は、支持率が過去最低となる中、連邦憲法を大規模に修正。「任期数のリセット条項」により、プーチン政権は最大で2036年まで継続可能となった。

 今回の憲法修正は愛国主義・保守主義的側面が色濃く、「領土割譲の禁止に関する条項」が日ロ関係に影響を与える可能性があると指摘している。

自衛隊「ユニークな存在感」

 日本については、日米安保条約の改定から60周年を迎え、日米の防衛協力が直実に進展しており、その上で、米国の同盟国も含めた重層的な安全保障協力への進化を追求することが必要であるとした。

 新型コロナの感染拡大を防ぐために大きく貢献した防衛省・自衛隊に対しては、「ユニークな能力と存在感を示した」と高く評価した。

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 戦略概観の日本語全文は防衛研究所のホームページで閲覧できる。英語版は7月に公開予定。


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