早いものでこのコラムも第7話(第8回)まで参りました。毎回読んでくださる方々、興味を持った記事を読んでくださった方々、すべてに感謝でございます。
さて読者さまの中で、実際に永遠の図書室に行きたい!という方もいらっしゃると思います。「住所は書いてあるけど千葉県のどこ……?」とイメージしづらい方もいらっしゃると思います。
そこで今回のテーマは「館山・南房総・安房・千葉」です。今回は少し変化球、コーナーにある本のお話と館山というまちの話をしていきたいと思います。
館山に引き寄せられた「永遠の図書室」
千葉県館山市。千葉県南部に位置する温暖なこの場所は、海と花が綺麗な町。チーバくんで言うと足のあたりです。
余談ですが、自分の住んでいる場所を他県民に説明するときに大体「チーバくんのどのへん」と説明してしまうのですが、そもそも他県民の人はチーバくんのことを知らないのでは……?と思い始めております。逆に他の県にお住いの皆さまは自分の住んでいる場所を説明するときにどう言葉にするのでしょうか。ちょっと気になるところですが、そろそろ本筋に戻ります。
なんとなく海辺ののどかなまち、という感じですが、実はこの場所「館山城」というお城があります。そう、かつては戦国大名である里見氏が治めた土地であるのです。つまり元・城下町。気候は温暖、そしてなんといっても海があります。政治的な意味でも食料的な意味でも海は豊かな存在。地形の恵みははるか昔から館山に住まう人々の支えになっておりました。ちなみにこの館山城を舞台にして書いたのがかの「里見八犬伝」ですね。私も小学生の時図書室にあった漫画を読み漁りました。いつどんな媒体で見ても面白いですよ、八犬伝。
さて1930年、館山には航空基地が出来ました。軍事用の港が作られ、軍事整備が整っていきます。館山市は戦跡が多く、ぱっとあげるだけでも「赤山地下壕」「掩体壕」「海軍砲術学校跡」など、今でも戦争跡地を訪ねる事が可能です。戦時中において、館山はかなり重要な基地であったのです。ここのあたりは詳しく書くともう少し長いので、気になる人はぜひ調べてみてくださいね。
時は流れて令和の世、様々な思いと経緯により昭和史・戦史を知ることのできる場所「永遠の図書室」がオープンしました。土地の力と言うのでしょうか、引き寄せというのでしょうか。図書室に関わった人たちの努力と時間と共に、そういう何か大きなものも一緒に助力してくれたかのような感覚になりますね。
というわけで本の紹介に行きたいと思います。今回紹介するのはこちら、「安房の傳説」。「傳」は「でん」と読みます。
この本はいわゆる復刻版。オリジナルが発刊されたのは大正六年だそうです。安房に伝わる言い伝えやその場所、民謡、伝説などが記されており、民話好きの方には特にお勧めの一冊です。当時の名所案内や安房特有の俚諺(ことわざ)もあります。恥ずかしながら初めて見るものばかりに、ついつい読みふけってしまいました。ちょっとだけ皆さまにもご紹介しましょう。
「火を弄ぶと寝小便する」
(ことわざによくある教育的なやつですね)
「くしゃみ一回はいいうわさ、二回は悪いうわさ、三回目は思わぬ人に思われる果報の兆し」
(二回まではよく聞きますが、三回目ってそういう意味があったんですね)
「夜爪を切るときは『夜の爪狗の爪』と唱ふべし」
(夜に爪を切ってはいけない、はよく聞きますが狗は初耳。検索してみると結構興味深いですよ)
などなど。他にもあるのですが、「安房特有」というよりは、現代風に言うなら「安房ではこういうアレンジです」といった感じのものが多いですね。狗の爪も地域によって違うみたいです。例えば「夜口笛を吹くと蛇が出る」という話がありますが、地域や家によって泥棒や幽霊など来るものが違ってくる、といった感覚に近しいと思います。
他にも多方面に面白い民話が盛りだくさんの「安房の傳説」。私自身民俗学や伝承大好き人間なのでつい筆に熱が籠ってしまいました。このコラムで着々と私の好みが露呈しているような気がしますが、気にしないでください。
房州を魅力を知ってもらいたい
さて次に紹介したいのが「ガイドブック」。「安房の傳説」も当時の名所案内などガイドブック的な側面があったのですが、やはり房州を知りたいなら房州に詳しい本を、ということで紹介しますのが「ガイド 房州」(著:福原和)。
こちら名前だけ見ると完全に現代でも本屋に置いてありそうな感じなのですが、現物がこちら(写真参照)。なかなか歴史を感じさせられるビジュアルです。
この本は内房、南房、外房について、ハイキングコースの紹介、安房の食事や年中行事、文化財……絵や写真と共に丁寧な解説で、房州を案内してくれます。読んでいると房州という場所がなんともかわいらしく、素敵な場所に見えてきてしまいます。それはきっと福原氏の房州への愛が伝わってくるからでしょうね。どんな分野でもそうですが、好きなことを人に伝える、という行為はいいものです。伝えているほうも楽しく、それを受け取る方もなんだか嬉しくなってしまいますからね。
この「ガイド 房州」にも最後の項目で、「房州明治譚」という名前だけでワクワクしてしまう項目があります。当時の暮らしぶりや子どもの遊びの紹介、「馬鹿話」という項目ではまるで小噺のようなテンポのいい一口話が味わえます。
さて「房州明治譚」の個人的目玉は「妖怪変化の巻」。例えば「化け狐の話」では、山道でしゃがみこんでいたご婦人に砂のようなものをかけられ、走って家に帰ったら買ってあったはずのイカが一匹もいない。もしや狐の悪戯では……という話。房州なので当たり前ではあるのですが、見知った山や場所で狐が遊んでいた、と聞くとなんだかわくわくしてしまいますね。他にも神隠しの話や天狗の話、狐憑きの話もありました。
中でも興味深かったのが、皆さまご存じ「丑の刻参り」の話。イメージとしては呪詛や恨みといった負の感情を藁人形に打ち込んで……という感じですが、この本には「丑三つ時に人に見られないように産土神(うぶすながみ)に願掛けをする。子宝を授けてほしい、家族の病気を治してほしいなど」と、簡単に書くと至極まっとうというか、健全なお願い事です。となると、どこから今のイメージの刻参りになったのでしょうか?探してみれば他の土地でも丑の刻参りの意味合いが房州と近い所もあるんでしょうか……と知的好奇心がうずうずしてきますね。
※産土神(うぶすながみ)……神道において、その人が生まれた土地の守護神のこと。その人が生まれてから死ぬまで、他の土地に移り住んでも見守ってくれる神様。
ということで今回お話させていただいたのはこの二冊。かなり偏った話になってしまったと言いますか、「今回あんまり昭和史や戦争に関係ないのでは?」とお叱りを受けそうですが、私のセレクトで本を紹介した結果、安房伝承話といった感じになりました。
コラムでもたまに書いておりますが、なにかを知るのに入口はどこでもいいのです。館山城から入るもよし、軍都という面から入るも良し、自然の美しさから入るもよし、そして人々が伝えてきた伝承から入るもよし……様々な側面がそれぞれに興味深い安房へ、そして館山へぜひお越しください。よし、うまいことまとめられたぞ、と思いながら今回は筆を置かせていただきます。それでは。
アクセス
永遠の図書室
住所:千葉県館山市北条1057 CIRCUS1階
電話番号:0470-29-7982
営業時間:13時~16時(土日祝のみ17時まで) 月火定休日
システム:開館30分までの滞在は無料、それ以降は一時間ごとに500円かかります。
駐車場:建物左側にあります、元館山中央外科内科跡地にお停めできます。
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