自衛隊初の宇宙領域専門部隊として昨年5月、航空自衛隊に新編された「宇宙作戦隊」。隊長の阿式(あじき)俊英2空佐が13日までに、防衛日報社の文書でのインタビューに応じ、「われわれの役割はより一層重要になる」と改めて強い決意と意欲を見せた。
令和3年度予算案の大きな柱の一つとして防衛省・自衛隊が取り組む宇宙領域。周辺諸国からの脅威が増す中、作戦隊への期待は大きい。
宇宙作戦群の新編に期待
――宇宙作戦隊の発足後、実際に任務にあたって、どんな感想を持っているか。
阿式隊長「宇宙領域で部隊運用を開始するためには、宇宙物理学などの基礎的な知識に加え、新たなシステムの運用要領、他機関や米軍などを含めた幅広い組織との連携要領など、これからさまざまな知識、技術を習得していく必要があるが、隊員とともに新たな部隊を一から作り上げることに日々やりがいを感じている」
――令和3年度に「宇宙作戦群」が新設される予定だが、隊としてのメリットをどう考えるか。
隊長「作戦群の新編により、宇宙領域における運用に関する研究や人材の育成などがより組織的に実施できるようになると期待している」
――隊長着任時に話していた「国民の負託に応える精強な部隊をつくる」ために、現在取り組んでいることや課題は。
隊長「各種の教育訓練を通じて宇宙状況監視に必要となる知識、技術を習得してきた。今後は、本格的な宇宙状況監視の運用開始に向けて、これまで習得した知識、技術を生かし、システムの運用要領や関係機関、米軍などとの連携要領などの検討を進め、具体的な要領を定めていくことが課題と考えている」
――現在の宇宙空間に対する認識は。
隊長「宇宙空間は社会、経済、科学分野など官民双方の重要インフラとして深く浸透している。他方、軍事的優位を確保するため、衛星用攻撃ミサイルや、キラー衛星、衛星通信の妨害装置などを開発、配備する国も存在する。また、衛星破壊実験などにより、『スペースデブリ(宇宙ごみ)』が飛散するなど、宇宙空間の安定利用に対する脅威は増大している」
――今、読者、国民にアピールしたいことは。
隊長「宇宙空間の安定的利用の確保のため、われわれの役割がより一層重要になっていると認識している。引き続き所要の訓練を継続し、本格的な宇宙状況監視の運用開始に向けて万全の態勢を構築していく」
宇宙領域の現状
宇宙作戦隊は昨年5月、空自府中基地に約20人のメンバーで発足した。
阿式隊長によると、現在は、本格的な宇宙状況監視の運用開始や装備品の導入に先立ち、宇宙領域での部隊運用の検討、宇宙領域の知見を持つ人材の育成、米国との連携体制の構築などを進めている。
防衛省が昨年2月にまとめた「防衛省の宇宙分野における取組」によると、宇宙空間は国境の概念がなく、人工衛星を活用すれば地球上の全地域の情報収集や測位、通信などが可能になる。
このため、安全保障の基盤として死活的に重要な役割を果たしており、各国は宇宙空間を軍事作戦の基盤として利用している。(1)弾道ミサイル発射の早期探知に利用する「早期警戒衛星」(米国など)(2)正確な場所の把握、ミサイルなどの誘導に利用する「測位衛星」(米国、日本、中国など)(3)遠距離に所在する部隊との通信に利用する「通信衛星」(日本、米国など)―などだ。
一方、各国が対衛星兵器(ASAT)関連技術を進展させたことで、宇宙空間でスペースデブリが急速に増加し、衛星と衝突して衛星の機能が失われる危険性が高まっている。
また、「人工衛星に接近して妨害・攻撃・捕獲するキラー衛星の開発・実験が進められていると指摘されており、宇宙空間の安定的利用に対する脅威が増大している」(令和2年版「防衛白書」)現状もある。
「取組」によると、具体的な事例として、中国の米国衛星へのレーザー照射の疑い(2006
年)、低軌道における衛星同士の近接実験(2010年)、静止軌道における衛星同士の近接実験(2016年)などの動き、ロシアによるクリミアでの衛星通信妨害能力を有する装置の使用(2014年)、キラー衛星への転用が指摘されている衛星の不自然な動き(2018年)などだ。
現在、日本は宇宙空間で通信衛星や測位衛星などを運用している。自衛隊にとって、こうした衛星は作戦遂行上極めて重要な意味を持つが、ほかの人工衛星やスペースデブリが衝突すれば作戦遂行が困難になる。宇宙空間の監視体制の構築・強化は喫緊の課題となっている。
<防衛日報 2020年1月14日(木)1面>
※写真、ロゴ画像は航空幕僚監部提供