海上自衛隊は6月17日から29日の間、小笠原諸島・硫黄島(東京都)周辺海域で対機雷戦の訓練を実施した。磁気や音に反応する機雷を避けるため、船体が木や繊維強化プラスチックで建造された6隻を含め、海自の艦艇計9隻が展開したほか、米海軍のダイバー「水中処分員」も参加した。21日には訓練を報道陣に公開し、掃海艦「えたじま」が処理した機雷が轟ごう音をとどろかせて海底で爆発し、大きな水柱が上がった。海自の掃海業務は世界でもトップクラスで、技術の継承に力を入れている(編集部・船木正尋)。

 硫黄島周辺海域での実機雷処分訓練は昭和47年から実施しており、今回で51回目を数える。令和元年からは米海軍も参加し、連携強化を図っている。

 この日は掃海艇「とよしま」に乗船した。すると、「ズドン」と遠くから鈍い音が聞こえてきた。報道陣が乗船している「とよしま」の木造甲板の下から衝撃が伝わってきた。約800メートル先の海面から砂混じりの灰色の水柱がゆっくりと上がる。高さは約30メートルにも及び、機雷の威力を物語る。

画像: 機雷が炸裂し、30メートルの水柱が上がった

機雷が炸裂し、30メートルの水柱が上がった

 その後、「水柱視認、爆破成功」と艦上放送が流れる。海底で爆発したのは、艦船の磁気や音に反応して炸裂する感応機雷だ。この機雷は特定の艦船を狙い撃ちすることができる。艦船ごとに発する磁気や音が異なるため、設定により、特定の艦船だけに損害を与えることができる。

 海自隊員は感応機雷の処理について、「空母を狙ったと想定すれば、空母のような通過音や磁場を出すことができる」と説明する。

 今回の「感応掃海」では、海底の機雷を爆破させるため、掃海艇は艦艇の通過音を鳴らす音響装置と、電流で磁場を発生させるケーブルを後方に引いて時速10キロ程度でゆっくりと航行し、機雷を処理。 

 機雷は炸裂までの通過回数も設定できるため1回で作動するとは限らず、掃海艇は何度も海域を通過することもあるという。この機雷捜索や機雷処理方法も含めて、海自の技術力は高い。

画像: 野間1掃海隊司令

野間1掃海隊司令

 訓練に参加した1掃海隊司令の野間1海佐が海自の掃海部隊の役割について、「機雷戦の技術を磨くことは、将来にわたって、国民のため、東アジアの安全のために役立つと思い、部隊で練成している」と話す。その上で「戦後の航路啓開が掃海部隊の始まり。そこから築き上げてきた技術が1991年の湾岸戦争後のペルシャ湾派遣でも役に立った」と語った。

 戦後から続く掃海技術は、現在も継承されている一方で、水中無人機(UUV)による機雷捜索も実施されている。野間氏は今後の掃海の在り方について「UUVの活用だけでなく、人が介在しなければならない部分もある」と将来の機雷戦を見据える。

 海外の海軍からも一目置かれる海上自衛隊の掃海部隊は長い歴史を持つ。旧日本海軍以来、第二復員省、復員庁、運輸省海運総局、海上保安庁、そして海自と組織上の変遷はあるものの、掃海業務自体は絶え間なく続いている。

 海上保安庁の下部組織だった昭和25年、朝鮮戦争で国連軍側の要請により「特別掃海隊」として任務に就いた。殉職者は出したものの、任務を完遂。湾岸戦争後の1991年には海自の掃海部隊がペルシャ湾へ派遣され、機雷34個を処理した。

 こうした歴史の上に立つ日本の掃海能力は、今や世界屈指とされる。

<編集部より>

 海面が盛り上がると、轟(ごう)音とともに水柱が約30メートル立ち上がり、「水柱視認、爆破成功」の艦上放送が流れる。海底で爆発したのは、艦船の磁気や音に反応して炸(さく)裂した機雷でした。

 海上自衛隊がこのほど東京・小笠原諸島の硫黄島周辺海域で実施した実機雷処分訓練が報道陣に公開されました。防衛日報社からも記者が同行し、その迫力ある訓練を目の当たりにし、その取材記を本日(8月2日)付2面で紹介しました。

 厳しい安全保障環境の中、周辺諸国の活発な動きは「脅威」といえるものとなっています。空では戦闘機が頻繁に飛行し、海上では艦艇が南西地域周辺海域を中心に航行。日本列島を取り巻くように一周したケースもありました。

 それだけではないのが、「水中戦」といえるものです。潜水艦の動きをキャッチし、追尾する対潜戦とともに、海底の機雷を捜索する対機雷戦がその戦いを有利に運ぶ上でとてつもなく大きいものとなるのだと思います。こうした機雷除去を主な任務とするのが海自の掃海部隊です。記者たちにその技術の高さを見せてくれたのが、この日の訓練の「感応掃海」でした。

 以前、その任務のことについて、海自に取材した経験を思い出します。海底の機雷を爆破させるため、今回の掃海艦「えたじま」の任務のように、艦艇の通過音を鳴らす音響装置と、電流で磁場を発生させるケーブルを後方に引いて航行する仕組みですが、これがなかなか難しいという説明でした。

 理由は一度で作動させる困難さです。艦艇は何度かその海域周辺の航行を繰り返し、そのポイントを定めるということ。日本の掃海能力が高いのは、その定める上での頻度の少なさということです。「まさに、狙った獲物は逃さない」でしょうか。日本人特有のきめ細かさから生まれた世界に誇れる高い技術力なのだと思います。米軍が海自を頼るともされるほどですから、今回の訓練には米軍の「水中処分員」が参加したのも納得です。

 報道公開を通し、記者が見て、聞いたことを可能な限り多くの人たちにその素晴らしさや迫力、訓練中の自衛隊員たちの表情を伝えるのがメディアの責務です。限りがある紙面の中ではありますが、少しでも訓練の様子や意義、トップである1掃海隊司令の思いなどが伝わり、司令が言うように対機雷戦の技術を磨くことが国民、東アジアの安全に役立つことを知ってもらえば、編集者としてありがたく思います。

他記事は防衛日報PDF版をご覧ください。

→防衛日報8月2日付PDF

 夏休み特集として「激闘の地・硫黄島」を8月15~16日の2回にわたり配信します。硫黄島周辺海域での実機雷処理訓練の機会を経て、戦争の傷跡が今も残る島内を記者が巡りました。その様子をリポートします。


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