2023年7月、私は北海道にいた。場所は岩見沢。そう、岩見沢駐屯地の取材のためだ。特にこの取材では、2024年3月に廃編が決定していた302坑道中隊最後の訓練検閲に同行できるとあり、追いかけてきた坑道中隊の最後の勇姿をカメラに収めようと気合十分で岩見沢駅へと降り立った。

きっかけは1枚の写真

 同じ陸自の中でも知らない隊員が多いレアな部隊。坑道中隊を語ると「坑道中隊?なにそれ?」と言われるのが日常で、魅力を伝えても仲間は増えなかった。では、なぜ私がそんな部隊にここまでのめり込んだのかというと、全てはこの1枚の写真がきっかけだった。

画像: 14施設群 令和2年7月20日中隊訓練検閲より

14施設群 令和2年7月20日中隊訓練検閲より

 この写真を見た時の衝撃は今でも覚えている。「かっこいい」と純粋にそう思った。人が何かに興味を抱く瞬間はこんなものだろう。もともと施設科への興味が強かった私は、この写真1枚で坑道中隊の魅力に引き込まれ、沼へとはまってしまったのだった。

条件は自力で演習場に行けること

 この取材の始まりは岩見沢駐屯地広報の堤1曹からの「7月の坑道中隊の最後の訓練検閲に来ませんか?」という誘いだった。嬉しさと驚きのあまり一瞬、頭の中が真っ白になったのを今でも覚えている。堤1曹には事あるごとに「坑道中隊かっこいい」と伝え続けていたのと、この少し前に旭川駐屯地を全力取材したことを伝えていたので、私に声をかけてくれたようだ。

北海道がでかすぎて100キロが・・・

 しかし問題があるという。訓練検閲中の私の送迎をどうするか調整がつかないらしい。訓練検閲が行われるのは上富良野演習場、ホテルは旭川。往復約100キロ、確かに朝晩の送迎は迷惑になるほど大変だ。

私「レンタカーで向かうのは駄目ですか?」
堤1曹「大丈夫ですか?」
私「問題なければ車中泊しますけど?」
堤1曹「え?まじですか?」

 すぐさまレンタカーを予約した私。その後、調整も順調に進み取材当日に至るわけだが、部隊側としては部外の人を「管理」する意味も含めて送迎などをしている。大人数が個々で自由に行き来すると考えると管理が大変だが、今回の取材は私単独だったので許可がおりたようだ。免許があって良かった。

最強の晴れ男

 羽田からJALで新千歳空港へ。そこから札幌駅へ向かいカムイ号で岩見沢へ。私の到着を祝福しているかのようなちょうどいい青空。雨女の私にも天気が味方についてくれた、そう思っていたのだが、どうやら岩見沢駐屯地司令の山下12施設群長が最強の晴れ男だったそうで、山下群長が着任してからは雨の訓練はないらしい。事実、取材中はずっと晴れていた。恐るべし晴れ男。

画像: 山下群長のおかげで晴れた岩見沢到着時

山下群長のおかげで晴れた岩見沢到着時

画像: 山下群長のおかげでスカッと晴れた岩見沢駐屯地取材時

山下群長のおかげでスカッと晴れた岩見沢駐屯地取材時

画像: 山下群長のおかげで見ることができた十勝岳

山下群長のおかげで見ることができた十勝岳

快適な天幕生活

 上富良野演習場での寝泊まりは当初、車中泊という話だったが部隊のはからいで天幕を用意してくれた。隊員にとっては天幕に良い思い出は無いかもしれないが、私からするとご褒美だ。しかもキャンパーである堤1曹が色々と準備をしてくれていたのと、私のスキルも相まって快適に過ごすことができた。

 (スキル1 暑さへの耐性Lv99)実は、訓練当日は気温が高くみんな苦戦していた。30度はあったと思う。しかしそこは内地のうだるような暑さと尋常じゃない湿度で鍛えられている私。ほとんど暑さを感じることなく汗もさほどかかなかった。

 (スキル2 虫への耐性Lv99)演習場は自然そのもので虫たちのパラダイス。天幕内、地面直置きで充電していたスマホに見たことのない虫が乗っていようと気にしない。田舎育ちがここで役立つ。

 (スキル3 環境への耐性Lv75)堤1曹以外誰も知らない状態で演習場へ乗り込んだ私。その堤1曹とも電話では何度も話しているが実際に会ったのは3日前。にもかかわらず、到着してすぐにご飯をいただく私は順応性が高いと思われても否定はできない。実際のところ勝手がわからず緊張していたことを考慮するとLv99には到達できていない。

 この3つのスキルは今後も役にたつだろう。環境への耐性をLv80までには上げておきたいところ。

坑道中隊の取材は初めてのオンパレード

 取材が始まってすぐに気付いたことがある。あまりにも知らない事が多すぎたのだ。坑道中隊をずっと追いかけてきた私のプライドが崩壊・・・することは無くむしろワクワクが止まらない状態がずっと続いた。
 なぜこのような状態になったのか、それは坑道中隊がレアな部隊だからこそ。部隊が少ない上に人気な部隊でもないため情報量が極めて少ない。坑道中隊といったら最初に紹介した写真の掘削シーンを思い浮かべる人も多い。しかし、実際には掘削を始める前や後にも多くの工程があった。以前記事で紹介しているのでここでは割愛するが、とにかく見るもの全てが新鮮に感じた。

掘削だけじゃない。全工程を知りたい方はこちらの記事がおすすめです!

コンクリート吹き付けに心奪われる

 ここまでに書いたとおり、坑道中隊と言えば掘削がメインとなり、代表的なシーンでもある。何より画になる。私が坑道中隊にのめり込んだきっかけの写真も掘削シーンだ。そうなると、もちろん私が力を入れる撮影ポイントも掘削シーンなのは言わずもがな、だ。

画像: 画になる掘削シーン

画になる掘削シーン

 一瞬たりとも逃すまいとシャッターを夢中で切り続けた。そして掘削が終わり、工程は次のコンクリート吹き付けに移った。
 ここでトラブル発生。今思うと、このトラブルが私をコンクリート吹き付けに夢中にさせた原因かもしれない。
 本来は吹き付けロボット(機械)でコンクリートの吹き付けを行うが予定だったが、機材トラブルにより機械から手動へと変更。「ラッキーですよ」、そう言われた。普段はロボットで行う作業ゆえ手動はなかなか見ることがないらしい。確かにラッキー、しかし隊員からするとアンラッキーな状況。手動での作業は過酷なのだそう。確かに、コンクリートが噴き出す勢いで暴れるホースを力で抑えつつ、的確な場所へ吹き付けている状況は過酷そのものだった。

画像: 私がのめり込んでいる瞬間

私がのめり込んでいる瞬間

画像: この時にはもう心を奪われていた

この時にはもう心を奪われていた

 泥まみれの状態を仕事柄よく目にするが、コンクリートまみれは見たことがない。珍しさと過酷さ、そして慌ただしい現場の雰囲気から目が離せない状態だった。今でも目を閉じればあの光景が・・・。

画像: たまたま撮影のタイミングで落ち着いて見えてしまっっている吹き付けロボット

たまたま撮影のタイミングで落ち着いて見えてしまっっている吹き付けロボット

 実は取材日程上、吹き付けロボットによるコンクリート吹き付けとロックボルト打設を見ることなく帰路につかなければならなかった。後に送られてきた画像を見て最後までいたかった、この目で見たかったと後悔したが、知っている人は知っている「坑内女人禁制」ルールの適応により女性の私はロックボルト打診を間近で見ることができなかった可能性が高い。

坑内女人禁制が解る?「化粧木」のはなし

画像: 最後までいたら良かったのに、と言いたげに堤1曹が送ってくれたロックボルト打設写真

最後までいたら良かったのに、と言いたげに堤1曹が送ってくれたロックボルト打設写真

Twitter: @dailydefense123 tweet

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本当の笑顔の理由 2つの達成感

 さて、タイトルにもある「最後の勇姿は誰が撮る?私が撮る!」に沿ったトップ画を選ぶのに時間を費やした。ここまでご覧いただいた方の中には、コンクリート吹き付け場面を選ばなかったことを不思議に思っているかもしれない。なぜなら、私が選んだ1枚はこちら!

画像: 本当の笑顔の理由 2つの達成感

 掘削を終えた後の写真です。何ともやり切った清々しい笑顔・・・。実は、それだけじゃない。この笑顔に隠された本当の理由。
 この写真を撮影する約30分前、重大な機材トラブルが発生。その瞬間を見ていた私は直感的に「あ、これマズいやつだ」と天文学的スピードで事態の深刻さを理解し、さらに現場の尋常ではない緊迫した雰囲気がその重大さを物語っていた。

そこから遡ること10分...

私「最後に集合写真とか撮れますか?」
堤1曹「いいですね!調整します」
私「やった!」

トラブル勃発中...

堤1曹「集合写真、無理かもですね。この雰囲気...」
私「・・・ですよね」

 依然として現場には緊迫感が漂っていた。撮影よりも目の前で起こっているいる事に対し、もう駄目かもしれない、少なくとも私はそう思っていた。しかし、そこは施設科。今まで培ってきた施設技術を駆使して見事に危機を脱したのである。「施設科魂ここにあり」彼らはそれを体現した。
 一瞬にして場の空気が和らいだ。その瞬間を見逃さなかった堤1曹が彼らに駆け寄り、集合写真の調整をしてくれたおかげであの写真の撮影に成功した。最後の掘削が終わった事と、危機を脱した事。あの笑顔には2つの達成感が隠れていたというわけだ。

画像: 安堵の笑顔を浮かべる隊員

安堵の笑顔を浮かべる隊員

 坑道中隊に女性隊員はいない。当然いつも訓練は男性のみ。その訓練に部外の私がいることに違和感を感じた隊員もいるだろう。さらに彼らは職人気質のエンジニアだ。それでも最高の笑顔で応えてくれた彼らに感謝し、敬意を払うとともに、調整してくれた堤1曹にも感謝を。あの写真はそんな私の感謝の気持ちが詰まった1枚でもある。

画像: 【第302坑道中隊 番外編】最後の勇姿は誰が撮る?私が撮る!|陸上自衛隊岩見沢駐屯地

 長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。3月に廃編した部隊をなぜ今の時期に?と疑問に感じる方も多いかもしれませんが、自分の気持ちに終止符をうち、次のステージに進みたかった。恋愛か?と勘違いしてしまう文脈ですがそういう事です。

 好きな部隊はほかにもたくさんあるし、自衛隊広報紙といえども、初めましての部隊や職種だってはまだまだあります。少し知ったらのめり込んでしまう、そんな出会いがきっとこれからもあるでしょう。

 もちろん、自衛隊広報という立場上、皆さんに自衛隊を知っていただくために、幅広く広報していくのは変わりありません。その中で、推しを作ることをどうかお許しください。その推しについて皆さんと一緒に理解を深められたら、こんな嬉しいことはありません。

 私の坑道中隊の旅は終わってしまいましたが、これからの新しい出会いに向かって歩みを進めます。「ぜひ次回はうちに」という広報の方がいらっしゃいましたらご連絡お待ちしております。広報の方との出会いもまた運命、そこから全てが始るのです。 


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