北の大地の護りを担う陸上自衛隊岩見沢駐屯地(司令・山下1陸佐)は今年、創立70周年を迎える。全国でも3個中隊しかない「坑道中隊」を有するなど、主に施設科部隊を主体とした集団だ。近隣の炭鉱と港湾都市を結ぶ列車の一大拠点として栄えた岩見沢市の発展とともに、防災訓練行事の支援や、装備品展示、社会貢献活動など、地域住民の安全・安心、地域コミュニティーの維持・活性化にも大きく貢献してきた。近年は、戦闘様相の変化に伴い、「ITC(情報通信技術)施工」を推進するなど、新たな活動にも積極的に取り組んでいる。

 公式X(旧ツイッター)でうたう「アットホームな駐屯地」をこの夏、取材した。そこには、厳しい訓練などから解放されたひと時の、笑顔があふれる精鋭たちの姿があった(河合恵、写真も)。

画像: いざ!岩見沢へ!!

いざ!岩見沢へ!!

 7月中旬、北海道ならではの広い大地と澄み渡った青空が出迎えてくれた。

画像: カラッとした気持ちのよい気候、まさに北海道(JR北海道岩見沢駅)

カラッとした気持ちのよい気候、まさに北海道(JR北海道岩見沢駅)

 石狩平野の東部にあり、石狩川左岸から夕張山地にかけて東西に広がる岩見沢市は、札幌、旭川両市の中間に位置し、新千歳空港にも近い。アクセスの良さが魅力の一つだ。

画像1: 【特別編】施設科部隊を主体とする精鋭部隊|陸上自衛隊岩見沢駐屯地

 その利便性は、岩見沢駐屯地にとっても同じ。山下司令は、「北海道大演習場や上富良野演習場にも行きやすく、高速道路を活用すれば、矢臼別、然別演習場にも比較的短時間で行ける。札幌、旭川に近いから、勤務環境、生活環境的にも恵まれています」と強調する。

第12施設群長兼ねて岩見沢駐屯地司令
山下拓路 1等陸佐

画像1: インタビューに応える山下司令(岩見沢駐屯地提供)

インタビューに応える山下司令(岩見沢駐屯地提供)

 昭和28年2月28日、532施設大隊が金沢駐から移駐し、日の出台に岩見沢駐が誕生。その後、駐屯地の基幹部隊として102施設大隊を経て、現在の12施設群として伝統を継承していった。

 施設科部隊は、「戦闘支援部隊」だ。その狙いを山下司令が、こう説明してくれた。

 「(国土防衛戦において)わが部隊を防護するために陣地を掘って、敵の行動を制限するための障害を構成。また、敵が構成した障害を処理し、道路や橋梁を構築することでわが部隊の行動を支援します」

 災害派遣、国際平和協力活動などでは、主力となって行動する部隊でもある。そのためには、被支援部隊や派遣先の国民から信頼を得なければならず、高い施設技術力が求められる。山下司令がいう。「国土・地形を戦力化させるということが、わが部隊の本質なのです」

画像: 第12施設群長兼ねて岩見沢駐屯地司令 山下拓路 1等陸佐

 今や、駐屯地司令の要望事項には必ずといっていいほど、「地域とともに」が入る。

 岩見沢駐は、祭りでの櫓づくりや公園の植栽事業、炊事車でのお汁粉調理・提供などのほか、冬期は雪像や氷の滑り台も作る。また、修親会、曹友会では、交通安全啓発運動やスキー場整備ボランティアなどを実施している。

 山下司令自身も、地域の依頼を受け、上番以来4回の防衛講話を外部で実施するなど、自衛隊の活動の理解に努めており、「街の人と仲良くやらせてもらっています」と話す。

 有事の戦闘行動に欠かせない戦闘支援部隊として、北海道だけでなく、日本にとってその存在は大きく、責任もまた重い。岩見沢駐は、任務達成のため日々の訓練に邁進(まいしん)し、さらなる精強化を目指している。

自衛隊は武力集団
実力なければ信頼なし

画像2: インタビューに応える山下司令(岩見沢駐屯地提供)

インタビューに応える山下司令(岩見沢駐屯地提供)

画像: 岩見沢駐屯地Xより

岩見沢駐屯地Xより

 岩見沢駐屯地の司令として、12施設群の群長として部隊を率いる山下1陸佐は、駐屯地の役割や施設科部隊としての責務、要望事項に伴う隊員への覚悟など、さまざまなテーマについて思いを語ってくれた(聞き手・河合恵)。

◇今年3月に着任した岩見沢駐屯地の印象を教えてください。

 「前職が陸幕の建設班長で、全国165個駐分屯地の半数は回りましたが、岩見沢駐は草刈りがしっかりされ、道路も整備されている。施設科部隊がいるというのもありますが、砂利道もきちんと整備されているので、水溜りが少なく、駐車場もしっかりと整備されています」

◇「安保3文書」の改定、反撃能力の保有など、日本の防衛政策は大きな転換期を迎えています。岩見沢駐屯地として、日々の活動にどう生かすべきと考えますか。

 「即応性をしっかり保持し、予想される任務を完遂できるよう、練成訓練に邁進(まいしん)しています。具体的には、国際社会が安全保障上緊張しているということを精神教育としてやっており、年度の隊務運営計画の中で国際情勢を全隊員に説明し、理解させています」

画像1: 自衛隊は武力集団 実力なければ信頼なし

◇群長統率方針の「挑戦」「信頼」のねらいは。

 「『挑戦』では、組織として失敗を許容できる環境を作るべきだと思います、具体的には、隊員のせいにしないこと。何が問題であったかを考え、一緒にやっていくことで安心感が出る。『心理的安全性』を保持し、何でも言え、挑戦できる雰囲気、失敗を許容できる組織・風土、こういったものを育成するため、指導しています。ただ、それには周りの環境が重要です。本人をやる気にしないと挑戦しないと思うので、目標自身は、本人に設定させるようにしています」

画像2: 自衛隊は武力集団 実力なければ信頼なし
画像: 廊下にあるこちらの掲示板「栄光」には、レンジャー・遊撃格闘・スキーなど個々の資格取得がかかげられている。他者を見て憧れ、個々が頑張る。目標を「見える化」することで互いの刺激となっている。いずれそれが組織全体に還元されていく。

廊下にあるこちらの掲示板「栄光」には、レンジャー・遊撃格闘・スキーなど個々の資格取得がかかげられている。他者を見て憧れ、個々が頑張る。目標を「見える化」することで互いの刺激となっている。いずれそれが組織全体に還元されていく。

◇「信頼」については。

 「2つの要素があると思っています。自衛隊は武力集団。実力がないと信頼してもらえません。そのためにはそれぞれの機能についてしっかりと訓練をやっています。もう1つは、健全性がないと信頼されません。自衛隊は、団結の強化と士気の高揚、規律の維持がしっかりとしています。教育訓練と普段生活の中でそれを維持できるように重視して指導しています」

◇駐屯地司令としては、「地域とともに」「融和団結」を挙げていますね。

 「上番してから4回、防衛講話を行っております。コロナが明けて、たくさんの方からお声がかかり、自衛隊の活動を理解してもらっています。各種イベントに呼ばれるので、装備品展示などで要望があったら、積極的に行くようにしています。『融和団結』では、駐屯地のクラブ活動があります。普通にスポーツのクラブもあれば、陶芸部(2ページ目で紹介)もあったり。『こぶし女子会』という、部隊の垣根を越えた女性職員の集まりもあり、懇親会やスポーツイベント、環境改善のためのミーティングがあったりと、非常に仲が良く風通しがいいです」

◇「女子会」ですね。気付いたことはありましたか。

 「自分たちの勤務環境を良くしたいという発想です。男性だと女性の勤務環境に対する良いアイデアが浮かびづらい。今回、駐屯地業務隊の営繕班長が女性職員で、いろいろ提案してもらえます。たとえば、『休憩室がほしい』って聞いたのは盲点でした。不調の時に、ちょっと休憩できる。人の目が届かない所で、個室的なものがあれば休みやすい。横になれるような畳のスペースやベッドなど。その通りだなと。気付かなかったですね」

◇施設科の役割については。

 「部外の方には、『主として建設機械(施設器材)を使って、土木建設工事などを行い、わが国土・地形を戦力化する職種』と説明しています。国土防衛戦においては、わが部隊を防護するために陣地を掘って、敵の行動を制限するための障害を構成し、わが部隊の行動を容易にするために敵が構成をした障害を処理、かつ道路、橋梁を構築することによって作戦を支援します、と」

◇最後に、9月の創立記念行事では、どのような式典を考えていますか。

 「今年は、岩見沢市も120周年なんですね。岩見沢市長とも話していて、われわれとしては自衛隊の活動について理解していただきたいし、楽しんでもらいたいと思っています。」

 9月24日には、「岩見沢駐屯地創立70周年・第12施設群創隊48周年記念行事」を実施する。4年ぶりに駐屯地を一般開放し、記念式典、訓練展示、装備品展示などのほか、北海道特産品のキッチンカーを呼ぶなど、地域住民へ感謝とお礼、自衛隊への理解醸成などに努める予定だ。山下司令いわく、そのコンセプトは、「駐屯地を楽しんでください」だという。

→記念行事プログラムはこちら


画像3: 【特別編】施設科部隊を主体とする精鋭部隊|陸上自衛隊岩見沢駐屯地

 山下 拓路(やました・たくじ)1陸佐 平成11年入隊。1施設大隊長、陸幕指揮通信システム・情報部情報課、西部方面総監部施設課長、陸幕防衛部施設課建設班長、教育訓練研究本部総合企画部総合企画課総合企画室総合企画班長など歴任。防大43期。47歳。長崎県出身。


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