総合的な防衛装備品見本市「DSEI JAPAN2023」が3月15日からの3日間、千葉市の幕張メッセで開かれた。元々は英国で開かれていたが、令和元年から日本で開催しており、今回で2回目。どんな装備品があるのか、会場に初めて足を踏み入れてみた。
■最新技術がめじろ押し
日本政府が昨年末に防衛費の大幅増を決めたことを受け、展示会には、前回を上回る65カ国約250社が参加。会場にはドローン(無人機)、セキュリティシステムといった最新機器に加え、小銃や暗視スコープなど普段は見ることができない装備品がところ狭しと並んでいた。
そんな中、会場内を歩いていると、外国人に「へ~い~」と呼び止められた。「目と目で通じ合う」という感じだろうか。長髪のイケメン風の男性がパワースーツを装着しているではありませんか。オランダに本社を置く「インテスプリング」が開発した代物だ。歩兵の補給品運搬などを想定し、60キロの荷物を12キロ程度に軽減できるという。つまり、日本人女性の平均体重(50キロ)ぐらいのモノを背負っても、4分の1(約12キロ)ほどの軽さに感じるということだ。製品名は、その名も「ケンタウロス」。ギリシア神話に登場する半人半獣の名前だ。その名にふさわしくイケメン風の担当者は、力強い足さばきを見せてくれた。
さらに奥へ進んでいくと、コーヒーやお菓子などが飲食できる喫茶スペースもあり、多くの参加者が和気あいあいと歓談する姿が見られた。私もちょいとコーヒーでも飲んでみたいと思ったが、海外の人たちも多く、異国の雰囲気に飲まれたこともあり断念。
やはり、和の雰囲気を感じたいと「ジャパンパビリオン」へレッツラゴー。防衛装備庁をはじめ、三菱重工業、川崎重工業、そして空想科学会社でおなじみのIHIなどが出展し、国内外に装備品の能力の高さをアピールしていた。政府は、条件付きで武器輸出を認める「防衛装備移転三原則」の運用指針を見直す方針を示しており、国内企業もさらなる需要拡大に期待している。
■伝統の「ア・タ・レ」健在
防衛装備庁は、105ミリ砲を備え時速約100キロで走行できる「16式機動戦闘車(MCV)」や多用途ヘリコプター「UH2」、偵察用バイク「カワサキKLX250」などを展示。スバルが製造するUH2については、偵察用バイクを格納するデモを披露した。また、偵察バイクのシミュレーターを設置するなどして来場者を楽しませていた。
また、自衛官が装備する武器も展示。約30年ぶりに新しくなった「20式5.56ミリ小銃」の射撃モードには、「ア(安全)・タ(単発)・レ(連発)」と国産小銃が継承してきた刻印は健在。宝くじがいつも「ハ・ズ・レ」の私は、国産小銃にならい、額に「ア・タ・レ」を印字して、次回のサマージャンボに臨みたい(笑)。当選確率が多少は上がりそうな感じはする…たぶん。
三菱重工は、1.2キロ先のドローンを迎撃できる高出力レーザーや、サイバーセキュリティシステムなどが注目を集めた。川崎重工は、無人VTOL(垂直離着陸)機「K-RACER-X1」の実物を展示した。従来型のヘリコプターでは技術的に限界がある高速化を目指した。同社のバイク「Ninja H2R」のエンジンを搭載し、陸だけなく空でも高速滑空できるようだ。設計上では、200ノット(時速370.4キロメートル)の高速飛行も可能という。同機は、主に災害などの使用を想定している。
■日本市場をターゲットに
海外企業は、日本政府が昨年末に防衛費の大幅増を決めたことを受け、ビジネス拡大を見込む企業が日本市場に熱視線を送っている。海外からは、米国のロッキード・マーチンやノースロップ・グラマン、英BAEシステムズなど、多くの有力企業が出展した。
このうち、オーストリアのシーベル社は、防衛省や海上保安庁に艦船搭載対応ヘリコプター型大型ドローン「カムコプター S-100」を売り込みたい考えだ。同機は現在、フランスやスペインなど12カ国の海軍で導入されている。機体に高機能カメラなどを搭載し、情報収集といった任務に活用されているようだ。日本国内での販売を手掛ける日本海洋の担当者は、「海外での実績は十分ある。防衛省などに売り込んでいきたい」と意気込む。
無人航空機の実用例としては、海上保安庁が昨年10月から大型無人航空機「シーガーディアン」(全長11.7メートル)の本格運用を開始。海上自衛隊も来年度から試験的な運用を始める予定という。そうした中で、それよりも全長3.1メートルの小柄なS-100を護衛艦や巡視船に搭載して領海警備や救難に使用するのも良いかも知れない。日本の護(まも)りに新たな防衛の「目」があってもいいだろう。
■次期戦闘機開発・主導権握れるかJapan
海外企業からさまざまな装備品が展示されている中で、注目を集めたのが、日英伊3カ国が次期戦闘機を開発する「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」だ。会場に設けられたブースには、企業関係者やマスコミを含め、多くの人々が訪れていた。防衛省は2035年の配備を目指している。航空自衛隊の主力戦闘機F2が同年に順次退役することから、日本は両国と開発に向けて協議を進めてきた。
各国で開発主体となる企業は、機体が三菱重と英BAEシステムズ、伊レオナルドが担当。エンジンはIHIと英ロールス・ロイス、伊アヴィオが開発を進める。戦闘機の電子機器であるミッションアビオニクスシステムの開発には三菱電機と英国のレオナルドUK、イタリアのレオナルドとエレットロニカが参画する。
共同開発のメリットは、コストを分散できるほか、ステルス性能など各国の技術を反映させることで、高性能の戦闘機をより安価でより効率的に製造できるという点だ。今後は各国の主導権争いが気になるところだ。「安保3文書」の一つである「防衛力整備計画」では、「我が国主導を実現すべく、改修の自由や高い即応性等を実現する国内生産・技術基盤を確保する」と明記。日本は素材や加工技術で圧倒しているものの、三菱重工の「MRJ」の失敗もあり、難しいところだ。
実績からいくと英国が一歩リードといったところか。英国は1960年代、フランスと攻撃機「ジャギュア」を開発。その後、紆余曲折もあったが、英国、旧西ドイツ、イタリアの3カ国で攻撃機「トーネード」の共同開発を進めた。同機は湾岸戦争やイラク戦争にも配備されるなどの実績がある。とは言え、技術立国日本の復活をかけて、世界に存在感を示してほしいものだ。
■装備品の海外輸出に期待
少し真面目な話しをすると、政府が防衛装備品見本市を後押しする背景には、日本の防衛産業の衰退がある。装備品の販路は、ほぼ自衛隊に限られ利益率も低い。防衛省による装備品の発注が減り、撤退企業が増えているという。こうした現状の中、政府は平成26年に輸出の条件を緩める「防衛装備移転三原則」を決めた。だが、それ以降、完成品の実績はフィリピン向け警戒管制レーダーの1件しかないのが現状だ。
艦艇などの建造を手掛けるJMU(ジャパンマリンユナイテッド)の担当者は「政府が後押しをしてくれなければ、海外には売れない」とこぼす。
政府・与党はこの現状を打破するために、防衛装備移転三原則の運用指針の見直しに着手する方針だ。殺傷能力のある武器の輸出先を共同開発・生産国とする案が有力だ。政府は今回の展示会を契機に日本の装備品の技術力の高さを知ってもらい、今後の販路開拓に向けた好機につなげたいと考えている。
■日本の防衛産業「守」から「攻」へ
「DSEI JAPAN」に足を踏み入れてみたが、初めてということもあり、雰囲気に飲まれたというのが正直な感想である。やはり、英国発祥のイベントだけに、気軽に軽食ができるスペースがあったほか、契約が締結できたのか、シャンパンを飲んでいる光景を目にすることもあった。値段が高いだけに、その喜びはひとしおだろう。私もお相伴にあずかりたいところだが(笑)。オッと話の本筋からかなり脱線したが、会場内には多種多様な防衛装備品が展示されており、ある意味では科学技術の〟今〟を垣間見ることができた。例えば無人機。空を飛ぶドローン、海中を行き来できるAUV(自律型無人潜水機)などさまざまなモノが出現していた。その一方で、ドローンを打ち落とす装備品も開発しているなど、その技術力の高さに目を奪われた。
ただ、先ほども述べたように日本の防衛産業の衰退は著しい。防衛産業=儲からないという図式を変えるためにも、政府の介入が必要だ。それはすなわち「防衛装備移転三原則」の運用指針の見直しが必要となる。日本企業が防衛装備品を開発し、友好国などに輸出することができれば「抑止力」をいかんなく発揮できる。それこそ「自由で開かれたインド太平洋」の実現に寄与できるのではないか。日本の防衛産業は「専守防衛」ではなく、「先制攻撃」できる営業体制を構築できるように、官民一体となって取り組むべきだ。