5年ぶり 過去最長の4600キロ飛翔

 【2022年10月6日(木)1面】 防衛省は10月4日、北朝鮮が同日午前7時22分ごろ、内陸部から東方向に向けて中距離弾道ミサイルの可能性があるミサイル1発を発射し、日本列島の東北地方上空を通過して岩手県釜石市から約3200キロ離れた太平洋へ落下したとみられると発表した。北朝鮮のミサイルが日本上空を通過したのは、平成29年9月以来。政府は午前7時27分と29分に「Jアラート」(全国瞬時警報システム)を発令。北海道、青森県を対象地域として注意を呼び掛けたほか、国家安全保障会議(NSC)の大臣会合を開催し、情報収集と分析を行った。防衛省によると、5日時点で、対象地域や航空機、船舶への被害などは確認されていないという。

 

防衛相「『火星12』と同型の可能性」

 防衛省の発表によると、北朝鮮は10月4日午前7時22分ごろ、北朝鮮内陸部から1発の弾道ミサイルを、東方向に向けて発射した。弾道ミサイルは最高高度約1000キロ程度で、約4600キロ程度飛翔(しょう)。7時28分ごろから同29分ごろにかけて、青森県上空を通過した後、同44分ごろ、日本の東約3200キロの日本の排他的経済水域(EEZ)外の太平洋上に落下したと推定されるという。

画像: 防衛相「『火星12』と同型の可能性」

 4日に臨時会見した浜田靖一防衛大臣によると、(1)推定飛翔距離である約4600キロは過去最長だと考えられる(2)IRBM級の中距離弾道ミサイル以上のミサイルで、これまでにも発射している「火星12号型と同型」の可能性がある―ことを明らかにした。

 また、4日に会見した松野博一官房長官は、今回のミサイルについて「自衛隊は発射直後から落下まで完全に探知、追尾していた」と強調。被害が想定されなかったため、自衛隊による破壊措置は実施しなかったと述べた。

 北朝鮮のミサイルが日本の上空を通過したのは、平成29年9月15日以来、今回が7回目。

 防衛省は、政府内、関係機関に対して、速やかに情報共有を行ったほか、岸田文雄首相には直ちに報告を実施した。

首相「暴挙であり強く非難」

 岸田首相は、「わが国上空を通過させる形での弾道ミサイル発射は、わが国の国民の生命、財産に重大な影響をおよぼし得る行為。暴挙であり、強く非難する」と述べ、同午前7時31分に(1)ミサイルが通過したと判断される地域に重点を置き、落下物などによる被害がないか、速やかに確認する(2)北朝鮮の今後の動向を含め、引き続き、情報収集・分析を徹底する(3)米国や韓国など、関係諸国と連携し、引き続き、必要な対応を適時適切に行う―の3点を指示した。

 これを受けて浜田大臣が日本の領域および周辺海域における被害の有無の確認を徹底することなどを指示し、関係幹部会議を開催。また、F15戦闘機などで情報収集を行うなど、対応に万全を期した。

 北朝鮮のミサイル発射は、今年23回目。特に、9月25、28、29日に続き10月1日も短距離弾道ミサイル2発を発射するなど、今回を含めて9月25日以降、この10日間で計5回(計8発)=表参照=と異例のペースで軍事挑発を続けている。

日付時間発射地点・方向最高高度飛翔時間落下地点
9月25日午前6時52分ごろ内陸部→東方向約50キロ程度約400キロ程度東側沿岸付近・EEZ外
9月28日午後6時10分ごろ西岸付近→東方向約50キロ程度約350キロ程度東岸に近い日本海・EEZ外
9月28日午後6時17分ごろ西岸付近→東方向約50キロ程度約300キロ程度東岸に近い日本海・EEZ外
9月29日午後8時47分ごろ西岸付近→東方向約50キロ程度約300キロ程度東岸付近・EEZ外
9月29日午後8時53分ごろ西岸付近→東方向約50キロ程度約300キロ程度東岸付近・EEZ外
10月1日午後6時42分ごろ西岸付近→東方向約50キロ程度約400キロ程度東岸付近・EEZ外
10月1日午後6時58分ごろ西岸付近→東方向約50キロ程度約350キロ程度東岸付近・EEZ外
10月4日午前7時22分ごろ内陸部→東方向約1000キロ程度約4600キロ程度日本の東約3200キロ・EEZ外
北朝鮮が 9月25日以降に発射した弾道ミサイルの概要(防衛省発表)

 ミサイルの発射では、Jアラートの対象地域となった北海道や青森県、東京都・島嶼(しょ)部では、地元自治体などがサイレンや防災無線などで住民らに伝え、警戒を強めるなどした。

 また、産経新聞によると、東京都の島嶼部が一時、Jアラートの対象となったことから、東京都は4日午前、危機管理対策会議を開き、防災アプリなどで情報を発信し、被害状況や今後の対応を確認した。伊豆諸島や小笠原諸島など9町村が対象地域に指定されたが、誤発信と分かり、被害の報告もなかった。

 一方、東北新幹線や地下鉄などでも運行を一時見合わせるなどした。

 ミサイルの発射は、9月末に日本海で海上自衛隊と米海軍、韓国海軍が共同で潜水艦に対応する訓練などを行っており、こうした動きへの反発との見方も出ている。

 防衛省は、「弾道ミサイルなどの度重なる発射も含め、一連の北朝鮮の行動は、わが国、地域および国際社会の平和と安全を脅かすもの。関連する安保理決議に違反する。特に、わが国上空を通過させる形での弾道ミサイル発射は、航空機や船舶はもとより、上空を弾道ミサイルが通過したと判断される地域の住民の安全確保の観点からも極めて問題のある行為。わが国として、断じて容認できない」とし、北朝鮮に対して厳重に抗議し、最も強い表現で非難した。

内閣官房長官声明

 北朝鮮による10月4日の弾道ミサイル発射について、松野博一官房長官が声明を出した。主な内容は次の通り。

・現在のところ、被害報告などの情報は確認されていない。

・弾道ミサイル発射、それも日本の上空を通過するものを強行したことは極めて遺憾であり、断じて容認できない。

・わが国上空を通過する弾道ミサイルを発射したことは、わが国の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威であるとともに、地域および国際社会の平和と安全を脅かすものである。

・事前の通報なくして、かつ、わが国上空を通過する形で弾道ミサイルを発射することは、航空機や船舶はもとより、上空を弾道ミサイルが通過したと判断される地域の住民の安全確保の観点からも極めて問題のある行為。

・北朝鮮に対して厳重に抗議し、最も強い表現で非難した。

・北朝鮮に対し、改めて、関連する国連安保理決議を即時かつ完全に履行するとともに、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決に向けて具体的な行動をとるよう、強く求める。

・総理指示を踏まえ、引き続き、わが国の平和と安全の確保、国民の安心・安全の確保に万全を期す。

・新たな国家安全保障戦略などの策定プロセスを通じ、いわゆる「反撃能力」を含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討するとともに、スピード感を持って防衛力を抜本的に強化していく。

(首相官邸ホームページから)

 

Jアラート、この日はー 北海道、青森県を対象地域に指定

 ■Jアラート(全国瞬時警報システム) 弾道ミサイル攻撃に関する情報や緊急地震速報、津波警報などの緊急情報を、人工衛星や地上回線を通じて全国の都道府県、市町村に送信し、市町村防災行政無線や携帯電話(エリアメール・緊急速報メール)などにより瞬時に住民に伝達するシステム。有事の際に住民が適切な避難を速やかに行うためには、住民に正確な情報を迅速に伝達することが重要であることから、消防庁では、地方公共団体と連携してJアラートの整備を推進している(総務省消防庁・令和3年版「消防白書」から)。


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